辺境貴族ののんびり三男は魔道具作って自由に暮らします

第6章：帝国の陰謀と赤き核

第100話「魔物兵器への挑戦――防衛装置の試作」

王宮内の魔道技術研究室――そこではカレドリア王国最高の技術者たちが、ゼクトス帝国の魔物兵器に対抗するための防衛装置開発に全力を注いでいた。その中心にいるのは、エルヴィン・シュトラウス。そして、彼をサポートするガルド、ユリウス、さらにヴェルトナー伯爵が、装置完成への道筋を探っていた。

「まず、このプロトタイプですが……」
エルヴィンは研究机に広げられた設計図を指さしながら、問題点を一つずつ挙げていく。

「現在の設計だと、魔力供給の効率は確かに良いですが、全体的にエネルギーの配分が不安定です。このままだと、長時間の防衛運用中に装置のコア部分が過熱する恐れがあります。」

「ふむ、それは確かに問題だな。」
ヴェルトナー伯爵が顎に手を当てて頷く。
「では、どう改良すれば安定するかね？」

エルヴィンは少し考え込みながら、手元のメモに何かを書き込んでいく。そして顔を上げると、自信ありげに提案した。

「魔力供給ラインを分散させましょう。現在は一つのコアに全ての魔力を集めていますが、これを複数の小型コアに分散させる形に変更すれば、負荷を抑えられるはずです。」

「なるほど……。分散化することで負荷を減らし、安定性を向上させるわけか。」
ヴェルトナー伯爵は満足げに頷き、早速その案を技術者たちに指示する。

「それなら、その分散したコアを収めるための外装を俺が作ってやるよ！」
ガルドが大きな声で提案する。
「強度も大事だろうし、防衛用ならちょっとやそっとじゃ壊れないやつがいいだろ？」

「そうだな。君の鍛冶技術で、耐久性の高い外装を頼むよ。」
エルヴィンが微笑みながら答えると、ガルドは「任せとけ！」と胸を叩いて応じた。

「じゃあ俺は、コアの設計を実現するための細かい調整を引き受けるぜ。」
ユリウスが冷静に提案する。
「精密加工が必要だろうし、俺が仕上げてやる。」

「ありがとう、二人とも。これで大きな進展が期待できるよ。」
エルヴィンは仲間たちの頼もしさに感謝しながら、設計図の改良に取り掛かった。

新たな設計を基にした試作作業が始まった。研究室内ではエルヴィンを中心に、技術者たちが次々と課題を解決していく。装置の部品を組み立てながら、ヴェルトナー伯爵がふと口を開いた。

「それにしても、君の発明には毎度驚かされるよ、シュトラウス殿。君が学院で学んでいた頃からその才能は輝いていたが、ここまでのものを短期間で作り上げるとは……。」

「ありがとうございます。でも、これは僕一人の力じゃありません。仲間たちがいなければ、ここまで来ることはできなかった。」
エルヴィンはそう答えながら、ユリウスやガルドの方を見やった。

「おいおい、そんな殊勝なこと言うなよ。俺たちも、お前がいなきゃ何を作ればいいのか分からねえんだからな。」
ガルドが笑いながら斧を磨いている。

「そうだな。お前の設計図は複雑すぎて、最初は頭が痛くなるけど、完成したときの達成感は最高だ。」
ユリウスも少し笑みを浮かべながら答えた。

その瞬間、研究室の外から一人の衛兵が駆け込んできた。顔には緊張の色が浮かんでいる。

「ヴェルトナー伯爵！急報です！」
衛兵は息を切らしながら報告書を手渡した。

ヴェルトナー伯爵がそれを読み始めると、表情が徐々に険しくなっていく。そして、報告書を机の上に置きながら低い声で言った。

「……ゼクトス帝国が動き始めた。どうやら西部国境付近で、再び魔物が集結し始めているらしい。」

「なんだって！？ドランヴァル砦だけじゃなかったのか……！」
ユリウスが驚きの声を上げる。

「どうやら、帝国は複数の拠点を使って魔物を操る計画を進めているようだ。」
ヴェルトナー伯爵がそう告げると、エルヴィンは険しい顔つきで考え込んだ。

「防衛装置の試作品はどの程度完成していますか？」
エルヴィンは伯爵に尋ねた。

「分散型コアの組み込みは終わったが、まだ実戦でのテストができていない。」
伯爵が答える。

「なら、実戦で試すしかありません。」
エルヴィンは決意を込めてそう言った。

「ゼクトス帝国の動きが本格化する前に、防衛装置の性能を実地で確認する必要があります。そのためにも、これを西部国境の最前線に運び、現地でテストしたいと思います。」

「君自身が……前線に行くのか？」
ヴェルトナー伯爵は驚いたように尋ねた。

「はい。僕が装置を設計した張本人です。現地で調整しながらテストするのが一番確実です。」
エルヴィンの目には揺るぎない決意が宿っていた。

「そうと決まれば、俺たちも行くぞ！」
ガルドが即座に声を上げる。
「エルヴィンを危険なところに一人で行かせるわけにはいかねえ。」

「俺も同感だ。現地での作業には、俺の精密加工が必要になるだろうしな。」
ユリウスも続けた。

「分かりました。」
ヴェルトナー伯爵は一つ頷くと、衛兵に指示を出した。
「試作品を運ぶ準備を整えろ。そして、エルヴィン殿とその護衛が西部国境へ向かえるよう、王宮からの通行許可書を手配するんだ。」

準備を終えたエルヴィンたちは、王宮の前で最後の点検をしていた。荷車に積まれた試作防衛装置、必要な部品、そして護衛隊の人数を確認する。

「大丈夫か？西部国境ってのは、砦よりもさらに荒れた場所だぞ。」
ガルドがエルヴィンに声をかける。

「分かってる。でも、この装置を完成させないと、王国の未来が危ういんだ。」
エルヴィンは静かに答えた。

馬車に乗り込むと、彼は遠くを見つめながら呟いた。
「……待っててください。必ず、この装置で王国を守ります。」