辺境貴族ののんびり三男は魔道具作って自由に暮らします

第5章：王宮での試練と更なる発明

第93話「魔道文字の謎！隠された術者の正体」

ドランヴァル砦の作戦会議室は、緊張感に包まれていた。エルヴィンが持ち帰った闇の兵士の装甲片――そこに刻まれた魔道文字を解析するため、一行は徹夜で作業を進めていた。砦の守備隊もこの新たな脅威に動揺を隠せず、砦内はまるで嵐の前の静けさのような状態だ。

「この魔道文字、ただの防御用や強化の魔法陣じゃない……」
エルヴィンが机の上に広げた紙に魔道文字を写し取りながら呟く。

ガルドが腕を組んで立ちながらそれを覗き込む。
「どういうことだ？あの化け物がただの魔物じゃないってのは分かるけど、もっとヤバい意味があるのか？」

「この魔道文字は、術者の意思を伝えるための“媒介”として使われている。」
エルヴィンが眉をひそめながら答える。
「つまり、術者が遠く離れた場所から、この魔道文字を通じて闇の兵士を直接操っていた可能性が高いんだ。」

「遠隔操作……？そいつ、どこから操ってやがるんだ？」
ガルドは斧の柄を握りしめながら苛立ちを隠せない。

「それを突き止めるためには、この魔道文字の構成を完全に解読しないといけない。」
エルヴィンの指先は魔道文字の細かい線をなぞりながら動いている。
「ただ、これだけじゃ手掛かりが足りない。もう少し情報が必要だ……。」

ユリウスが目を細めて地図を見ながら口を開く。
「この辺りの魔物の異常な動き、そして今回の闇の兵士……術者が近くに潜んでいる可能性が高い。砦周辺に怪しい場所はないのか？」

ローレンス中佐が険しい表情で応じる。
「この地域で怪しい場所といえば、氷河の裂け目だろう。砦から北西に数キロ進んだ先にある場所だ。昔から魔物の巣窟として知られていて、誰も近づかないようにしてきた……だが、この数ヶ月で魔物の出現が増えたのも、そこが発端かもしれない。」

「氷河の裂け目……」
エルヴィンは地図上のその場所を指差し、目を細めた。
「あそこに術者がいる可能性が高いですね。魔物たちの異常行動とも一致します。」

「だったら、その裂け目を叩きに行くしかないってことか。」
ガルドが斧を肩に担ぎながら言う。
「ただでさえ危険な場所だってのに、今じゃ魔物が増えてるんだろ？面白くなってきたじゃねえか。」

「お前の楽しさ基準は分からんが、確かに行くしかなさそうだな。」
ユリウスが苦笑しながら肩をすくめた。

「中佐、裂け目の内部について何か分かっていることはありますか？」
エルヴィンがローレンスに尋ねると、中佐は少し迷うように口を開いた。

「詳細は不明だ。ただ、裂け目の奥には古代の遺跡があるという話も聞いたことがある。地元の民間伝承によれば、その遺跡には“禁忌の魔法”が封印されているとか……。」

「禁忌の魔法……」
エルヴィンの顔に緊張が走る。「もしそれが術者の狙いだとしたら、事態はさらに深刻です。この闇の兵士を作るような術者が、そんな力を手に入れたら……」

「それだけは何としても防がないといけない。」
ローレンスの言葉に、一同の覚悟が固まる。

エルヴィンたちは裂け目への探索の準備を急いだ。エルヴィンは携帯用の魔道具を追加で調整し、ガルドとユリウスは武器や防具の確認を行う。ローレンス中佐も砦の中から精鋭の兵士たちを選び、小規模ながら堅実な部隊を編成した。

「エルヴィン、装置の調整は順調か？」
ユリウスが声をかける。

「うん、携帯用の魔力障壁装置に少し手を加えた。今回の探索では、防御よりも攻撃支援に使うことを優先するよ。」
エルヴィンは小型の魔道具を手に取りながら説明する。
「これを使えば、魔力の流れを一時的に増幅させて敵を弱体化できるはずだ。」

「おお、それは頼もしいな！」
ガルドが嬉しそうに笑う。
「俺の斧をさらに強化してくれるってことか？」

「使い方を間違えなければね。」
エルヴィンは少し冗談めかして答えるが、その目には不安と緊張が浮かんでいる。

準備が整うと、一行は裂け目に向かって出発した。吹き荒れる冷たい風が肌を刺し、足元の雪は深く、歩を進めるたびに体力を奪っていく。だが、全員がその使命の重大さを理解しており、口数は少なく、ひたすら進むことに集中していた。

数時間後、一行は目的地である氷河の裂け目に到着した。その場所は、雪と氷が混じり合った大地に無数の亀裂が走り、深い闇が下方へと続いている。裂け目の内部からは冷気とともに微かな魔力の波動が漂い、明らかに普通の場所ではないことを感じさせた。

「ここか……不気味な場所だな。」
ガルドが裂け目の縁に立ち、底の見えない暗闇を覗き込む。

「見た目以上に危険だ。足元に気をつけろ。」
ローレンス中佐が部隊に注意を促す。

エルヴィンは携帯用の魔力測定器を取り出し、裂け目から漂う魔力の性質を調べ始めた。そして、すぐに顔を曇らせる。

「これは……かなり高度な魔法陣の一部かもしれない。この裂け目全体が、何かを封印するための結界として機能している可能性があります。」

「封印されてるもんが出てくる前に、その術者とやらを叩き潰すしかねえな。」
ガルドが斧を肩に担ぎながら言う。

「注意して進もう。内部で何が待ち構えているか分からない。」
ユリウスが剣の柄に手をかけ、警戒を強める。

一行は裂け目の内部へと進むために足を踏み出した。暗闇の奥からは、かすかに低い唸り声が響き、冷気とともに一層の緊張感が漂う。