辺境貴族ののんびり三男は魔道具作って自由に暮らします

第5章：王宮での試練と更なる発明

第92話「魔物と人間の融合体！操られた闇の兵士たち」

「来るぞ！」
ローレンス中佐の鋭い声が雪原に響き渡る。エルヴィンたちの前に現れたのは、人間と魔物が融合したような異形の存在――「闇の兵士」たちだった。その動きはぎこちないながらも異様に力強く、その赤い瞳には明確な敵意が宿っていた。

「おいおい、なんだってこんな化け物がいるんだよ！」
ガルドが斧を握りしめ、一歩前に出る。

「わからない。でも、ただの魔物じゃないことは確かだ！」
エルヴィンは冷静に観察しながら答えた。

闇の兵士たちは徐々に距離を詰め、低い唸り声を上げながら襲いかかってきた。その体はどこか人間らしい輪郭を残しているが、腕や脚は鋭い刃物のような形に変異しており、見た目以上の危険さを感じさせる。

「斧の出番だな！」
ガルドが大声で叫びながら、一体の闇の兵士に向かって突進する。鋭い刃の腕が振り下ろされるが、ガルドはそれを絶妙なタイミングで避け、巨大な斧を勢いよく振り下ろした。

「どうだ、これでもくらえ！」
斧の一撃が闇の兵士の胴体を叩きつける。しかし、通常の魔物なら致命傷となるはずの攻撃を受けても、その異形の兵士は怯むことなく立ち上がった。

「なっ……！？効いてねえのかよ！」
ガルドが驚きの声を上げる。

「物理攻撃が効きにくいのかもしれない！ユリウス、魔力での攻撃を試して！」
エルヴィンが急いで指示を飛ばす。

「了解！」
ユリウスは腰の剣を抜き、刃に魔力を纏わせる。振り抜いた剣から放たれた青白い光が、別の闇の兵士の胴体を直撃すると、異形の体が一瞬震え、その場に崩れ落ちた。

「やっぱり魔力が弱点みたいだ！」
ユリウスが叫ぶ。

「そうか。じゃあこいつは任せろ！」
ガルドはユリウスの言葉を聞き、再び斧を構えた。今度は魔力を纏わせながら、目の前の闇の兵士に渾身の一撃を叩き込む。青い光に包まれた刃が敵の体を貫き、その巨体がようやく地面に倒れた。

「ふぅ……これで一匹か。」
ガルドが息を吐きながらつぶやく。

しかし、一体倒したところで安心する余裕はなかった。次から次へと闇の兵士たちが現れ、一行を取り囲む。

「数が多すぎる……！」
ローレンス中佐が険しい顔で叫ぶ。
「防戦しながら、少しずつ後退するしかない！」

「ダメだ！」
エルヴィンが叫んだ。
「彼らはただの魔物じゃない。ここで引いたら、砦まで追いつかれる。撃退するしかないんだ！」

「……分かった。ここで全力を尽くすぞ！」
ローレンスは即座に判断し、部隊に指示を飛ばす。

エルヴィンは自分の腰に取り付けていた携帯用の魔道具に目をやった。それは霧晶石を使った小型の防御障壁生成器だったが、ある程度の魔力を攻撃的に転用する機能を持っている。過去の実験中に偶然見つけた副次的な効果だ。

「この魔道具が役に立つかもしれない……！」
エルヴィンは装置を起動させ、ユリウスに声をかける。

「ユリウス、少しの間だけこの敵を足止めできる？」
エルヴィンの問いに、ユリウスは頷いた。

「できるさ。やってみろ！」

ユリウスが剣を振るいながら前線を守り、エルヴィンは素早く装置の調整を行った。装置を起動すると、霧晶石から発せられる魔力が周囲に広がり、青白い障壁が形成される。障壁は広がると同時に、内部にいる闇の兵士たちの動きを鈍らせた。

「これだ！敵の動きが遅くなった！」
ユリウスが感嘆の声を上げる。

「これで少し時間が稼げる。ガルド、中佐、この間に反撃を！」
エルヴィンが叫ぶと、ガルドとローレンス中佐は即座に行動を開始する。魔力を纏わせた斧と剣が次々と闇の兵士を斬り伏せ、数を減らしていく。

最終的に、一行はすべての闇の兵士を撃退することに成功した。しかし、敵を倒した後に残されたものを見て、エルヴィンたちはさらに困惑することになる。

「これは……人間の装備か？」
ガルドが地面に落ちた黒い金属片を拾い上げた。それは、闇の兵士の体から剥がれ落ちた装甲の一部だった。

「確かに……これ、人が使っていたような形状だな。」
ユリウスも眉をひそめる。

「もしかして、この闇の兵士たち……元は人間だったのか？」
ローレンス中佐の言葉に、一同は黙り込む。

エルヴィンは剥がれた装甲の一部を拾い上げ、慎重に観察した。その表面には、かすかに魔道文字が刻まれていた。

「これは……魔法陣の一部だ。誰かが人間に魔物を融合させる魔法を使った……！」
エルヴィンの顔は蒼白になっていた。

「そんなことが……一体誰がこんなことを？」
ユリウスが呟く。

「目的は分からない。でも、このやり方は普通じゃない。誰かが意図的に人間を改造して、魔物として操っている。」
エルヴィンは言葉を絞り出した。

「これは単なる砦への襲撃じゃない……もっと大きな計画の一部だ。」

一行は急いで砦に戻り、得られた情報を整理し始めた。闇の兵士が人間を基に作られたものである可能性が高まり、背後に潜む何者かの存在が濃厚となった。

「魔物を操る術者がどこかにいる。砦だけでなく、王国全体を脅かす計画が動いているのかもしれない。」
エルヴィンは険しい表情で言う。

「エルヴィン、次はどうする？」
ガルドが真剣な目で問いかける。

「まずはこの魔道文字を解析する。どんな魔法陣なのか分かれば、術者の手掛かりが見つかるかもしれない。」
エルヴィンの目には揺るぎない決意が宿っていた。