辺境貴族ののんびり三男は魔道具作って自由に暮らします

第3章：発明家エルヴィン、王宮に参上！

第75話「新発明への第一歩！小型装置の試作が始まる」

災害対策会議を終えたエルヴィンは、改良型魔力供給装置と家庭用小型装置の開発という二つの課題を抱え、研究所での作業を再開していた。これまでの装置を基にしつつも、小型化と省エネ設計、さらに誰でも扱える簡便性を追求するためには、新たな発想と工夫が必要だった。

「家庭用装置、か……。」
エルヴィンは研究所の机に広げた設計図を眺めながら呟いた。

「現行の魔力供給装置は、基本的に戦場や防災を想定して作られたから、家庭用にするにはちょっとゴツすぎる。それに、コストもまだ高い……。」

彼はペンを走らせながら、自分の頭の中を整理していた。

「シュトラウス様、こちらが王宮の貴族家庭から寄せられた家庭用魔道具に関する希望リストです。」
研究員の一人が資料を持ってきた。

「希望リスト？」
エルヴィンが受け取った資料には、家庭用装置に求められる機能が細かく記載されていた。

・長時間の連続使用が可能
・持ち運びしやすい軽量設計
・操作が簡単で、子供や老人でも使える
・外装は家庭のインテリアに馴染むデザイン

「うーん……技術的な課題だけじゃなく、見た目のデザインまで求められるのか。」
エルヴィンは苦笑しながらも、これが民間向けの商品開発には必要な視点だと理解していた。

「デザインはカトリーヌに相談してみようかな……。」
彼女のセンスは学院時代から一目置いていたエルヴィンにとって、心強い味方だった。

小型化を進めるには、新たな素材が必要だった。これまでの魔力鉱やオルミス鋼では耐久性や性能は十分だったものの、重量の問題があった。そこで、エルヴィンは研究所で保管されていた軽量かつ魔力伝導性の高い素材「フィロライト」に目をつけた。

「これなら装置を小さくしても十分な強度を保てるかもしれない……。」
エルヴィンは早速フィロライトを加工し、試作品の内部構造に取り入れることにした。

しかし、加工の途中で早速問題が発生した。フィロライトは非常に脆い特性を持っており、少しでも力の入れ方を間違えると簡単に割れてしまうのだ。

「くっ……また壊れたか。」
エルヴィンはため息をつきながら、机の上の破片を片付けた。

「シュトラウス様、大丈夫ですか？この素材は扱いが難しいことで有名ですから、少し工夫が必要かもしれません。」
研究員が心配そうに声をかける。

「分かってる。でも、これを使えれば確実に装置が軽くなる。失敗はしたけど、次はもっと慎重にやってみるよ。」
エルヴィンは前向きに考え、再び加工に挑んだ。

数日間の試行錯誤の末、エルヴィンはついに家庭用魔力供給装置の試作品1号を完成させた。小型で円筒状のデザインは、家庭の棚やテーブルに置いても違和感がなく、操作もボタン一つで簡単に行えるようになっていた。

「よし、これでまずはテストしてみよう。」
エルヴィンは装置を持ち、研究所内の実験室へ向かった。

まず、魔力供給の安定性を確認するため、既存の魔法ランタンに接続してみる。装置のボタンを押すと、ランタンが柔らかな光を放ち始めた。

「うまく動いてるな……。」
エルヴィンは満足げに頷いた。

次に、供給量の調整機能を試すため、防御壁装置にも接続してみた。しかし、こちらは思ったように動かなかった。壁の展開が不安定で、途中で途切れてしまう。

「まだ供給量の安定性に問題があるみたいだな……。」
エルヴィンは再びノートを開き、原因を探るためのメモを書き始めた。

その日の午後、エルヴィンが研究所で改良案を考えていると、扉がノックされ、セシリア王女が現れた。

「エルヴィン様、試作品の進捗はいかがですか？」
王女は柔らかな笑顔で近づいてきた。

「王女殿下……いえ、まだ完成には程遠いです。小型化には成功しましたが、安定性がどうしても課題で……。」
エルヴィンは少し肩を落としながら答えた。

「でも、それはとても素晴らしい一歩だと思いますわ。エルヴィン様はご自分に厳しすぎるのではなくて？」
王女の励ましに、エルヴィンは少しだけ気が楽になった。

「ありがとうございます。ただ、次の改良で確実に完成させたいんです。」

「ふふ、エルヴィン様らしいですね。ところで、私の知り合いで家庭用品のデザインに詳しい者がおります。その者に協力を仰ぐのはいかがでしょう？」

「デザインの専門家ですか？」
エルヴィンは興味深そうに尋ねた。

「ええ。リヴィア・マルティーヌ様をご存じでしょう？彼女の家では、商業製品のデザインにも力を入れていると聞いていますわ。」

「リヴィアか……確かに彼女なら、新しい視点を加えてくれるかもしれません。」
エルヴィンはその提案を受け入れることにした。

翌日、リヴィアが研究所を訪れた。学院での生活以来の再会に、二人は自然と笑顔になった。

「エルヴィン様、お久しぶりですわ。王宮でのお仕事、大変そうですね。」
リヴィアは丁寧に挨拶した。

「リヴィア、来てくれてありがとう。君の助けが必要なんだ。今、家庭用魔力供給装置のデザインで悩んでて……。」
エルヴィンは試作品を見せながら現状を説明した。

リヴィアは装置を手に取り、じっくりと観察しながら口を開いた。
「形は悪くありませんが、もう少し家庭的な温かみがあっても良いかもしれませんね。このような道具は、人々が毎日触れるものですから、安心感や親しみやすさが大切ですわ。」

「なるほど……見た目にももっと気を配るべきなんだな。」
エルヴィンは彼女の指摘に頷いた。

「ええ、それと装置の色合いや仕上げにも工夫を入れると、貴族だけでなく庶民にも受け入れられると思いますわ。」

リヴィアの言葉にエルヴィンは新たなアイデアを得て、改良作業をさらに進める決意を固めた。

リヴィアや王女の助けを借りながら、エルヴィンは装置の小型化とデザイン改良に取り組み始めた。これまでの研究が、さらに多くの人々にとって身近で役立つものへと進化しようとしていた。

（もっと良いものを作るために――そして、誰もが笑顔になれる道具を届けるために、僕はやり続ける。）

エルヴィンの挑戦は、新たな仲間とともに加速していく。