辺境貴族ののんびり三男は魔道具作って自由に暮らします

第3章：発明家エルヴィン、王宮に参上！

第72話「新たな発明！魔力供給装置が紡ぐ未来」

エルヴィンが王宮から受けた新たな依頼、それは災害時や遠隔地の村々で役立つ「簡易的な魔力供給装置」の開発だった。この装置のコンセプトは、魔力を消費する魔道具や魔法を簡易的に補充できる携帯型の供給システムだ。もしこれが完成すれば、王国全土に大きな恩恵をもたらすことは間違いない。

だが、魔力供給装置はそれまでに例がなく、エルヴィンにとっても未知の領域への挑戦だった。

研究所で作業に取り掛かったエルヴィンは、まず魔力を効率的に貯蔵し、必要な量だけを供給する仕組みを考え始めた。魔力鉱を使えば貯蔵自体は可能だが、それを使用者が簡単に引き出せる形にするにはいくつかの課題があった。

「魔力鉱の中に魔力を貯めることはできるけど、それを引き出す際に負荷がかかりすぎるんだよな……。」
エルヴィンは試作品の設計図を眺めながら頭を抱えた。

「シュトラウス様、こちらの案はどうでしょう？魔力の流れを制御するために、魔道文字で一種のバルブ機構を作るのです。」
研究員の一人が提案する。

「バルブ機構……なるほど、それなら供給量を細かく調整できるかもしれない。」
エルヴィンはその案をもとに改良を進めることにした。

数日後、エルヴィンと研究員たちは魔力供給装置の試作品1号を完成させた。手のひらサイズで携帯しやすい形状のこの装置は、スイッチを入れることで一定量の魔力を取り出せる仕組みになっている。

「よし、これでテストしてみよう。」
エルヴィンは実験台の上に置かれた試作品を手に取り、スイッチを押した。

装置は低い音を立てながら魔力を放出し、近くに設置された魔道具を動かし始めた。

「やった……動いた！」
エルヴィンは喜びの声を上げたが、その瞬間、装置が突然振動を始めた。

「えっ、ちょっと待って……！」
次の瞬間、装置が激しく震え、周囲に魔力が漏れ出してしまった。

「危ない！」
研究員たちが慌てて後ろに下がる中、エルヴィンは冷静に装置のスイッチを切り、事態を収束させた。

「魔力の放出量が制御しきれていないみたいだ……。」
彼は試作品を慎重に調べながら原因を探った。

「魔道文字のバルブが魔力鉱の負荷に耐えきれなかったようですね。」
研究員の一人が指摘する。

「うん、どうやら耐久性をもっと高める必要があるみたいだ。でも、基礎部分は間違ってない。次はもっと改良できるはずだ。」
エルヴィンは失敗を前向きに受け止め、ノートに改善案を書き込んでいった。

装置の耐久性を高めるため、エルヴィンは魔力鉱以外の素材にも目を向けることにした。研究所に保管されていた特殊な魔法金属「オルミス鋼」が候補として挙がった。この金属は魔力を効率的に通す特性を持つが、加工が難しいという弱点があった。

「オルミス鋼か……これを使えば、バルブ機構の耐久性は確実に上がる。でも、加工の難しさが問題だな。」
エルヴィンは試作品の設計を見直しながら、自分にできる加工技術を試すことにした。

「シュトラウス様、こちらの加工機を使えば、オルミス鋼を細かく加工できます。ただし、少しでも魔力が過剰に流れると壊れる恐れがあるので注意してください。」
研究員が説明しながら機械を準備する。

「分かりました。慎重にやってみます。」
エルヴィンは工具を手に取り、息を整えて加工を始めた。

オルミス鋼の加工には細かな調整が必要だったが、彼の手際の良さと集中力で、徐々に形を整えていった。

完成した試作品2号は、1号よりも耐久性と安定性が大幅に向上していた。再び実験台の上でテストを行うと、装置はスムーズに魔力を供給し、周囲に魔力が漏れることもなかった。

「これなら実用化の目処が立ちそうだ。」
エルヴィンは満足そうに装置を手に取りながら言った。

「素晴らしいです、シュトラウス様。これなら災害時や遠隔地でも十分に役立つでしょう。」
研究員たちも喜びの声を上げた。

「まだ改良の余地はあるけど、この方向性で進めれば間違いないはずだ。次はもっと効率を上げられるようにしてみよう。」
エルヴィンはさらに改良を進める意欲を燃やしていた。

試作品2号が完成したことで、ヴェルトナー大臣から王宮での試験運用が提案された。

「シュトラウス殿、この装置を王都の巡回衛兵に試験的に使わせてみてはどうだろうか？」
ヴェルトナーは試作品を手に取りながら言った。

「もちろんです。それに加えて、地方の村にも試験運用をお願いできればと思います。」
エルヴィンは提案を返しながら、装置が広く役立つことを願っていた。

「分かった。その手配はこちらで進めよう。この装置が広まれば、王国全体にとって大きな財産となるだろう。」
ヴェルトナーは満足げに頷き、エルヴィンの努力を称えた。

エルヴィンは王宮での仕事を通じて、自分が開発する魔道具が多くの人々の生活を支え、命を守るものになることを強く実感していた。

（これからも失敗を恐れず、新しい挑戦を続けていこう。僕が作る魔道具が、誰かの助けになるなら……それだけで十分だ。）

彼の決意はさらに固まり、新たな挑戦に向けて動き出していく。