上 下
72 / 73
第2章:王都カレドリア学院!学びと挑戦の日々

第69話「試作開始!新たな魔道具の可能性」

しおりを挟む
エルヴィンは王宮の研究施設に案内され、初めて目にする規模と設備の充実ぶりに圧倒されていた。巨大な魔力鉱の精製装置、魔道具製作に必要な特殊な工具、そして王国中から集められた魔法素材の数々――これらすべてが一箇所に揃っている。

「ここが王宮魔道研究所だ。君の試作のために、施設は自由に使って構わない。」
ヴェルトナー大臣が自信に満ちた口調で言う。

「……すごいですね。学院の工房も十分な設備がありましたが、ここはまるで別世界のようです。」
エルヴィンは感嘆の声を漏らしながら、周囲を見渡した。

「当然だ。ここは国王陛下直属の施設だからな。それに、今回は王国の期待がかかっている。最高の環境で、最高の結果を出してほしい。」
ヴェルトナーは笑いながらエルヴィンの肩を叩いた。

エルヴィンは緊張しつつも、目の前に広がる可能性に胸を高鳴らせた。

ヴェルトナー大臣から提示された依頼内容は「携帯型魔道具の試作」。具体的には、王国の騎士や衛兵が簡単に使えるよう、軽量かつ高効率な魔道具を作るというものだった。用途としては、戦闘支援や防衛、場合によっては日常生活の補助にまで幅広く対応できる汎用性が求められていた。

「現場では即時に対応できる道具が求められている。たとえば、敵の不意打ちを防ぐための簡易的な防御壁を展開する魔道具や、暗闇でも視界を確保する装置などだ。」
ヴェルトナーの説明に、エルヴィンは頷きながらメモを取っていた。

「防御壁を展開する魔道具……それに暗視装置ですか。確かにどちらも実戦や治安維持には欠かせない機能ですね。でも、小型化しながら効率よく動かすとなると……魔力の配分が鍵になりそうです。」

「君の発想力に期待しているよ。他にも必要なものがあれば、研究所の者たちに指示を出してくれ。ここには王国随一の研究者たちが揃っている。」
ヴェルトナーはそう言うと、部屋に控えていた数人の研究員たちを呼び寄せた。

「シュトラウス殿、彼らが君をサポートする。分からないことがあれば遠慮なく頼るといい。」

「よろしくお願いします。」
エルヴィンは一礼し、研究員たちと握手を交わした。

エルヴィンはまず、魔力の効率的な使い方を考えるために基本設計を始めた。防御壁を展開する魔道具の場合、使用者が簡単に操作できることが重要だ。複雑な魔道文字の入力ではなく、スイッチ一つで動作する仕組みが理想だった。

「スイッチ一つで展開するなら、魔力の流れを固定化する必要がある……でも、それだと消費が大きくなりすぎるかもしれない。」
エルヴィンはノートに設計図を描きながら悩んでいた。

「シュトラウス様、この部分ですが、魔力鉱の使用量を抑えるために、分割した魔法回路を使うのはいかがでしょう?」
研究員の一人が提案する。

「分割回路……なるほど。それなら、魔力の負担を分散させて消費を抑えられますね。」
エルヴィンはその案を採用し、試作品の第一段階を組み上げていった。

数日後、エルヴィンと研究員たちは試作品の完成に漕ぎつけた。装置は手のひらサイズで、スイッチを押すことで簡易的な防御壁を展開する仕組みになっていた。試験室に装置を持ち込み、エルヴィンは緊張しながらスイッチを押した。

「いくよ……。」
スイッチを押すと、装置から魔力が放出され、半透明の防御壁が目の前に展開された。

「やった!動いた!」
エルヴィンは喜びの声を上げたが、その直後、壁がわずかに揺らぎ始めた。

「……あれ?何か不安定だ。」
さらに数秒後、防御壁が突然砕け散り、魔力が四方に飛び散った。

「危ない!」
研究員たちが咄嗟に距離を取る中、エルヴィンは呆然と装置を見つめた。

「どうして……?」
原因を探るために試作品を調べてみると、魔力鉱にかかる負担が想定以上に大きく、過負荷が原因で壁が崩壊したことが分かった。

「やっぱり……まだ設計が甘かったみたいだ。」
エルヴィンは苦笑しながら頭を掻いた。

「それでも、第一段階としては十分な成果ですわ。基礎部分は動いていましたし、後は調整すれば問題ありません。」
研究員の一人が励ますように言った。

「そうですね……失敗も貴重なデータです。次はさらに改善したいと思います。」
エルヴィンはそう言うと、すぐにノートを開いて改善点をメモし始めた。

次に取り組んだのは暗視装置だった。暗い場所でも視界を確保するため、魔法で光を調整する仕組みを作る必要があった。エルヴィンは、魔力を利用して微弱な光を放つ素材を組み込むことを考えた。

「光を直接放つと目に負担がかかるから、間接的に反射させて視界を確保できる仕組みが良さそうだな……。」
エルヴィンは実験室で光の拡散を調整しながら、少しずつ設計を進めていった。

「シュトラウス様、こちらの素材を試してみてはいかがでしょう?これは、微弱な魔力でも光を反射する特性を持っています。」
研究員が提案した素材を使ってみると、装置の効率が大幅に改善された。

「いいですね!これなら、消費魔力を抑えながら視界を広く保てそうです。」
エルヴィンはその結果に満足し、さらに細部を調整していった。

試作を重ねる中で、エルヴィンは徐々に自分の技術が国にどのように役立つのかを実感し始めていた。ただの魔道具開発ではなく、人々の安全や生活を支える責任を感じながら、彼の集中力はさらに研ぎ澄まされていった。

「まだまだ改善するべきところはたくさんあるけど、きっと良いものができるはずだ。」
エルヴィンは自分に言い聞かせ、次の試作へと取り組んでいった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】貧乏令嬢の野草による領地改革

うみの渚
ファンタジー
八歳の時に木から落ちて頭を打った衝撃で、前世の記憶が蘇った主人公。 優しい家族に恵まれたが、家はとても貧乏だった。 家族のためにと、前世の記憶を頼りに寂れた領地を皆に支えられて徐々に発展させていく。 主人公は、魔法・知識チートは持っていません。 加筆修正しました。 お手に取って頂けたら嬉しいです。

全能で楽しく公爵家!!

山椒
ファンタジー
平凡な人生であることを自負し、それを受け入れていた二十四歳の男性が交通事故で若くして死んでしまった。 未練はあれど死を受け入れた男性は、転生できるのであれば二度目の人生も平凡でモブキャラのような人生を送りたいと思ったところ、魔神によって全能の力を与えられてしまう! 転生した先は望んだ地位とは程遠い公爵家の長男、アーサー・ランスロットとして生まれてしまった。 スローライフをしようにも公爵家でできるかどうかも怪しいが、のんびりと全能の力を発揮していく転生者の物語。 ※少しだけ設定を変えているため、書き直し、設定を加えているリメイク版になっています。 ※リメイク前まで投稿しているところまで書き直せたので、二章はかなりの速度で投稿していきます。

冤罪を掛けられて大切な家族から見捨てられた

ああああ
恋愛
優は大切にしていた妹の友達に冤罪を掛けられてしまう。 そして冤罪が判明して戻ってきたが

捨てられた転生幼女は無自重無双する

紅 蓮也
ファンタジー
スクラルド王国の筆頭公爵家の次女として生を受けた三歳になるアイリス・フォン・アリステラは、次期当主である年の離れた兄以外の家族と兄がつけたアイリスの専属メイドとアイリスに拾われ恩義のある専属騎士以外の使用人から疎まれていた。 アイリスを疎ましく思っている者たちや一部の者以外は知らないがアイリスは転生者でもあった。 ある日、寝ているとアイリスの部屋に誰かが入ってきて、アイリスは連れ去られた。 アイリスは、肌寒さを感じ目を覚ますと近くにその場から去ろうとしている人の声が聞こえた。 去ろうとしている人物は父と母だった。 ここで声を出し、起きていることがバレると最悪、殺されてしまう可能性があるので、寝たふりをして二人が去るのを待っていたが、そのまま本当に寝てしまい二人が去った後に近づいて来た者に気づくことが出来ず、また何処かに連れていかれた。 朝になり起こしに来た専属メイドが、アイリスがいない事を当主に報告し、疎ましく思っていたくせに当主と夫人は騒ぎたて、当主はアイリスを探そうともせずに、その場でアイリスが誘拐された責任として、専属メイドと専属騎士にクビを言い渡した。 クビを言い渡された専属メイドと専属騎士は、何も言わず食堂を出て行き身支度をして、公爵家から出ていった。 しばらく歩いていると、次期当主であるカイルが後を追ってきて、カイルの腕にはいなくなったはずのアイリスが抱かれていた。 アイリスの無事に安心した二人は、カイルの話を聞き、三人は王城に向かった。 王城で、カイルから話を聞いた国王から広大なアイリス公爵家の領地の端にあり、昔の公爵家本邸があった場所の管理と魔の森の開拓をカイルは、国王から命られる。 アイリスは、公爵家の目がなくなったので、無自重でチートし続け管理と開拓を命じられた兄カイルに協力し、辺境の村々の発展や魔の森の開拓をしていった。 ※諸事情によりしばらく連載休止致します。 ※小説家になろう様、カクヨム様でも掲載しております。

1人生活なので自由な生き方を謳歌する

さっちさん
ファンタジー
大商会の娘。 出来損ないと家族から追い出された。 唯一の救いは祖父母が家族に内緒で譲ってくれた小さな町のお店だけ。 これからはひとりで生きていかなくては。 そんな少女も実は、、、 1人の方が気楽に出来るしラッキー これ幸いと実家と絶縁。1人生活を満喫する。

ドアマットヒロインはごめん被るので、元凶を蹴落とすことにした

月白ヤトヒコ
ファンタジー
お母様が亡くなった。 それから程なくして―――― お父様が屋敷に見知らぬ母子を連れて来た。 「はじめまして! あなたが、あたしのおねえちゃんになるの?」 にっこりとわたくしを見やるその瞳と髪は、お父様とそっくりな色をしている。 「わ~、おねえちゃんキレイなブローチしてるのね! いいなぁ」 そう、新しい妹? が、言った瞬間・・・ 頭の中を、凄まじい情報が巡った。 これ、なんでも奪って行く異母妹と家族に虐げられるドアマット主人公の話じゃね? ドアマットヒロイン……物語の主人公としての、奪われる人生の、最初の一手。 だから、わたしは・・・よし、とりあえず馬鹿なことを言い出したこのアホをぶん殴っておこう。 ドアマットヒロインはごめん被るので、これからビシバシ躾けてやるか。 ついでに、「政略に使うための駒として娘を必要とし、そのついでに母親を、娘の世話係としてただで扱き使える女として連れて来たものかと」 そう言って、ヒロインのクズ親父と異母妹の母親との間に亀裂を入れることにする。 フハハハハハハハ! これで、異母妹の母親とこの男が仲良くわたしを虐げることはないだろう。ドアマットフラグを一つ折ってやったわっ! うん? ドアマットヒロインを拾って溺愛するヒーローはどうなったかって? そんなの知らん。 設定はふわっと。

せっかく転生したのに得たスキルは「料理」と「空間厨房」。どちらも外れだそうですが、私は今も生きています。

リーゼロッタ
ファンタジー
享年、30歳。どこにでもいるしがないOLのミライは、学校の成績も平凡、社内成績も平凡。 そんな彼女は、予告なしに突っ込んできた車によって死亡。 そして予告なしに転生。 ついた先は、料理レベルが低すぎるルネイモンド大陸にある「光の森」。 そしてやって来た謎の獣人によってわけの分からん事を言われ、、、 赤い鳥を仲間にし、、、 冒険系ゲームの世界につきもののスキルは外れだった!? スキルが何でも料理に没頭します! 超・謎の世界観とイタリア語由来の名前・品名が特徴です。 合成語多いかも 話の単位は「食」 3月18日 投稿(一食目、二食目) 3月19日 え?なんかこっちのほうが24h.ポイントが多い、、、まあ嬉しいです!

主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します

白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。 あなたは【真実の愛】を信じますか? そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。 だって・・・そうでしょ? ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!? それだけではない。 何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!! 私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。 それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。 しかも! ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!! マジかーーーっ!!! 前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!! 思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。 世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。

処理中です...