辺境伯家ののんびり発明家 ～異世界でマイペースに魔道具開発を楽しむ日々～

第2章：王都カレドリア学院！学びと挑戦の日々

第64話「王との対面！期待と緊張の舞台裏」

エルヴィンたちは王宮での披露を無事に終えたものの、次なる課題がすぐに訪れた。それは、王国の頂点に立つ人物――カレドリア王、アウグスト・ライナー・カレドリア三世に対して「動く魔法風景」を披露するというものだった。

ヴェルトナー大臣からその旨を告げられたとき、エルヴィンは思わず背筋が伸びた。自分の魔道具がここまで注目されるのは名誉なことだが、それ以上に責任の重さを感じていた。

王との対面は三日後に決定した。エルヴィンたちはその間に再度「動く魔法風景」の調整を行い、万全の状態で披露できるよう準備を進めた。

工房で魔道具を見つめるエルヴィンに、リヴィアがそっと声をかける。

「エルヴィン様、少しお疲れのご様子ですね……休憩を取られてはいかがでしょうか？」

「ありがとう、リヴィアさん。でも、せっかくの機会だから、ここで手を抜きたくないんだ。王様の前で失敗するわけにはいかないからね。」

エルヴィンの真剣な表情に、リヴィアは小さく頷きながらも言葉を続けた。

「それでも、エルヴィン様が体調を崩されてしまっては元も子もありません。どうか無理はなさらないでくださいね。」

そのやり取りを横で聞いていたレオンが、軽く肩をすくめながら言った。

「お前、根詰めすぎだぞ。王様って言っても、結局は人間だろ？失敗しても死ぬわけじゃないんだから、もっと気楽にやればいいんだよ。」

「そう言うけど、レオン君。これはただの披露じゃないんだ。この魔道具が評価されれば、僕だけじゃなく、学院や仲間たちにも大きな影響を与えるんだよ。」

エルヴィンの言葉に、レオンは少し困ったように頭を掻いた。

「……まあ、確かにそうだけどさ。でも、俺たちも手伝うんだから、全部背負い込むなよな。」

「ありがとう。みんながいるから、僕も頑張れるよ。」

その日の作業は、主に紅葉の動きをさらに滑らかにするための調整だった。以前の発表会では動きが改善されたとはいえ、まだ少し硬さが残っている部分があった。それを解消するために、魔道文字をより細かく刻み直し、魔力の流れを再設計した。

カトリーヌはその間、魔道具全体の見た目をさらに洗練させるため、彫刻の修正や装飾の追加を進めていた。

「エルヴィン様、この装飾を加えることで、より高貴な雰囲気が出せると思いますわ。王宮で披露する以上、見た目にも相応しい品格が求められるでしょうから。」

「さすがカトリーヌさん。デザインに品格が加わると、魔道具全体の印象がまったく違って見えるね。ありがとう、お願いしてよかったよ。」

「お礼なんて、当然のことをしたまでですわ。」
カトリーヌは優雅に微笑みながら、彫刻を施していく。

いよいよ当日、エルヴィンたちは再び王宮へと向かった。馬車の中で緊張した面持ちのエルヴィンに、リヴィアがそっと言葉をかける。

「大丈夫ですわ、エルヴィン様。これまでの努力があれば、きっと良い結果が得られます。」

「そうだな、失敗しても俺が笑い飛ばしてやるから安心しろ！」
レオンが豪快に笑うと、エルヴィンも少しだけ肩の力が抜けた。

「ありがとう、二人とも……。」

王宮の玉座の間は、広間以上に荘厳な雰囲気を放っていた。天井まで届く柱や壁の彫刻、そして金箔が施された装飾が至るところにあり、圧倒されるような美しさだった。そこに座していたのが、この国の王――アウグスト・ライナー・カレドリア三世だった。

その隣には王妃であるセシリア・ローゼン・カレドリア、そして、王子や王女たちの姿も見える。

「シュトラウス辺境伯家が三男、エルヴィン・シュトラウス殿。前へ。」
ヴェルトナー大臣が促すと、エルヴィンは深く一礼し、玉座の前に進み出た。

「本日は、貴重な機会をいただき、感謝いたします。どうぞ、私たちが制作した魔道具をご覧ください。」

「うむ、楽しみにしておるぞ。」
カレドリア王が重々しい声で応じた。

エルヴィンは深呼吸をしながら魔道具のスイッチを入れた。淡い光が魔道具から放たれ、まずは白銀の雪景色が広がった。部屋全体が静寂に包まれ、まるで本当に雪が降り注いでいるかのような幻想的な光景が広がる。

次に切り替えられたのは花畑。色とりどりの花が咲き乱れ、ほのかな香りが漂うと、王妃セシリアが思わず笑みを浮かべた。

「まあ、なんて美しいのでしょう……。」

そして最後に紅葉が再現されると、赤や黄色の葉が優雅に舞い、部屋全体が秋色に染まった。その動きは非常に滑らかで、まるで本物の葉が風に揺られているかのようだった。

披露が終わると、しばしの沈黙が広間を包んだ。しかし、それはすぐに拍手の音に変わった。王がゆっくりと立ち上がり、口を開いた。

「見事だ。ここまで自然を再現した魔道具は初めてだ。お主の発想と技術に感服したぞ。」

「ありがとうございます！」
エルヴィンは深く頭を下げた。

「この魔道具は、王宮内での使用を正式に取り上げたい。また、これをさらに改良し、より多くの場面で活用できる形に仕上げるよう努めてほしい。」

王の言葉に、エルヴィンは強く頷いた。

「承知いたしました。今後も精進し、より良いものを作り上げていくことをお約束します。」

その後、王妃や王子たちからも感想を求められたエルヴィンは、彼らの意見を丁寧に聞き、次の改良点を心の中でメモしていた。こうして「動く魔法風景」は、カレドリア王国の王宮に認められるという大きな成果を収めたのだった。