辺境伯家ののんびり発明家 ～異世界でマイペースに魔道具開発を楽しむ日々～

第2章：王都カレドリア学院！学びと挑戦の日々

第56話「試作品のその後と訪問者」

学院での生活が再び始まり、エルヴィンは課題や授業に追われながらも、フローリスの改良に取り組んでいた。課題提出時に得たアラン先生やクラスメイトからのフィードバックをもとに、さらに実用性を高める工夫を考えていたのだ。

ある日の放課後、エルヴィンは工房でフローリスを前に試行錯誤を続けていた。

「湿度の調整部分は前より安定してきたけど、もう少し魔力消費を抑える方法が必要だな……。あと、この光もいいけど、もっと柔らかく広がる感じにしたい。」

ノートに改善案を記録しながら、小さなパーツをいじる。すると、ふいに工房のドアがノックされ、見慣れた声が聞こえた。

「エルヴィン様、入ってもよろしいでしょうか？」

「リヴィアさん？もちろん、どうぞ。」

リヴィアがドアを開けて入ってきた。彼女は手に小さな紙袋を持っており、それをエルヴィンに差し出す。

「作業中に失礼かと思いましたが、これをお持ちしました。学院の食堂で配られていた焼き菓子です。エルヴィン様、集中しすぎてお食事を忘れていないかと心配になりまして。」

エルヴィンは少し照れたように笑い、袋を受け取った。

「ありがとう、リヴィアさん。助かるよ。そういえば、昼食を軽く済ませてから何も食べてなかったな……。」

「やはりそうでしたか。エルヴィン様はいつも作業に夢中になりすぎるので、もう少しご自身の体も大切にしてくださいね。」

リヴィアのやや呆れた口調に、エルヴィンは苦笑しながら焼き菓子を口にした。

リヴィアと話しながら少し休憩を取ると、エルヴィンはふとアイデアを思いついた。

「そうだ、リヴィアさん。前に話していた湿度調整の魔法文字の配置だけど、ここに小型の魔力鉱を追加したら、もっと安定するかもしれないと思うんだ。」

「……なるほど。その方法なら、魔力の流れが効率的になりますね。でも、魔力鉱を増やすとコストが上がるのでは？」

「そこが問題なんだよね。でも、この試作機は家庭用として考えているから、コストを抑えつつ性能を高める方法を見つけないと……。」

リヴィアはエルヴィンのノートを覗き込みながら、真剣に考え込んだ。

「エルヴィン様が目指すのは、使う人すべてに優しい魔道具ですね。では、魔力鉱の代わりに何か別の素材で補えるものがあればいいのですが……。」

「うん、それも考えてみるよ。ありがとう、リヴィアさん。君と話すといつもヒントをもらえる気がする。」

「お役に立てて光栄です。」
リヴィアは少し嬉しそうに微笑んだ。

翌日、学院の工房でフローリスの改良を続けていたエルヴィンのもとに、突然の訪問者が現れた。工房のドアが開き、そこに立っていたのは、クラスメイトのカトリーヌだった。

「エルヴィン様、少しお時間をいただけますか？」

「カトリーヌさん？どうしたの？」

カトリーヌは優雅な所作で近づきながら、持っていたノートをエルヴィンの前に置いた。

「実は、私も今回の課題で少し困っておりまして……エルヴィン様に助言をいただければと思い、こちらに伺いました。」

「困っているって？どんな課題なの？」

「私が作ろうとしているのは、貴族の舞踏会で使えるような装飾的な魔道具です。見た目が美しく、なおかつ実用性があるものにしたいのですが、どうも魔力の安定が取れなくて……。」

カトリーヌのノートには、華やかなデザインのランタンのような魔道具の設計図が描かれていた。ランタンの内部に小さな光の花を咲かせる仕組みがあり、それを魔力で維持するという構造だった。

「これは……すごく凝ったデザインだね。確かに、見た目はとても美しい。でも、内部の魔力循環が不安定なのは、ここの魔道文字の配置が原因かもしれない。」

エルヴィンは指で設計図を示しながら説明を始めた。

「ここにもう少し細かい補助文字を追加するか、魔力の流れを分散させるように刻むと、安定するはずだよ。」

「なるほど……さすがエルヴィン様。とても分かりやすいですわ。」

カトリーヌは満足そうに頷きながら、ノートにメモを取った。

「お力を貸していただきありがとうございます。やはり、エルヴィン様は頼りになりますね。」

「いや、そんな大したことじゃないよ。僕もまだまだ勉強中だし……。」

エルヴィンが謙遜すると、カトリーヌはクスッと笑った。

「そんな謙虚なところもエルヴィン様の魅力ですわね。これで私も自信を持って作業を進められます。ありがとうございました。」

「どういたしまして。完成したらぜひ見せてよ。きっと素敵なものができると思う。」

カトリーヌは優雅に礼をして工房を後にした。その後姿を見送りながら、エルヴィンは再び自分の作業に戻った。

その日の夜、エルヴィンは寮の部屋でノートを広げながら今日の出来事を振り返っていた。フローリスの改良作業だけでなく、リヴィアやカトリーヌとの会話が新たなヒントを与えてくれたことに感謝していた。

（学院に戻ってきて、またたくさんのことを学んでいる気がするな。フローリスももっと完成度を上げて、誰もが便利だと感じるものに仕上げたい。そして、家族にもいつか見せたいな。）

そう考えながら、エルヴィンは次の改良案をノートに書き留めた。彼の魔道具作りへの挑戦は、これからも続いていく。