16 / 27
第三幕:守る意志
3-5:献身の末※
しおりを挟む
その日、議会は一日早く、無事に終わったらしい。夜、自室に来たアーベに聞かされ、シュトリカは複雑な思いだった。呪い師は一体誰なのだろう、そればかり考えてしまう。
「何を惚けている、シュトリカ」
「あ、やぁ……」
しかし、後ろから覆い被さってくるアーベにささやかれ、乳房を強く揉まれてしまえば、思考が蕩け、まともな判断もできはしない。寝間着の裾はすでに腰まで捲れ上がり、何もつけていない臀部を晒している始末だ。
それでも自らの痴態を確認することはできなかった。布で、目の部分を覆われてしまっている。天蓋の柱に掴まり、ただ、アーベから時折与えられる快感に身悶えた。
「数日もお前を抱いていない。いい加減、限界だ……ほら、もっと尻を突き出せ」
「だ、だめ……です……お体に、障りますから……、んっ」
「どうせ疲れるのはあいつだ。これからも約束を果たしてほしいんだろう?」
「ふあ……っ……」
戯れるように、体中、至るところをくすぐるように触られる。耳朶を舌で嬲られ、首筋にもまた、音を立てて所有の痣をつけていくアーベに、抵抗することはできなかった。
目隠しをしているため、次にどこを触れられるかわからない。
それが恐怖と、どこか期待のような感情をもたらす。アーベはそんな内心を汲み取ったのだろう。焦らすように腹部や内股をさするように撫でるばかりで、肝心な、悦楽を強く感じる部分には手を当ててこない。
「あ、ああ……ん、ぅっ」
勝手に腰がくねる。体は知ってしまった快楽を求めようと、浅ましく動く。
「……いやらしい子だね、シュトリカ。そんなに大事な場所を触ってほしいのかい?」
耳元で、エンファニオの声がした。物言いもエンファニオそのもので、思わず肩が跳ね上がる。くぐもった笑い声はアーベのものなのだが。
「今日は私が抱いてあげるからね。ああ、こんなに乳房の先を尖らせて……可愛いよ」
「ああん……っ!」
突然、きゅっと胸の尖りを摘ままれ、強烈な淫悦に震えた。そのまま乱暴に乳首をこね回されて、口から嬌声が漏れる。痛みもあるが、それより快感の方が上回った。
「乱暴にされるのが好きなんだ。次はどこを触ってほしいのかな? 足が開いているよ」
エンファニオに抱かれている――そう考え、感じてしまえば自然と腰が浮き上がった。まるで自分から秘路を見せつけるように。胎の内側からは、蜜が溢れてくるのがわかる。アーベなのに、と心のどこかで思いながらも、胸の蕾から来る快楽に何も考えられない。
「いい子だね、シュトリカ。いやらしくて可愛い。今、触ってあげるから」
「んぁ、ああっ!」
アーベの指が恥骨下、叢を掻き分けて秘核を爪弾いた。激しい感覚が背筋を駆け上る。そのまま二本の指で挟まれ、擦り上げられていけば、淫らな水音が部屋に響いた。
「こんなに濡らして……本当に私の指で触れられるのが好きなんだね。奥もちゃんとほぐしてあげるから、もっと足を開くんだ」
「は、い……」
悦楽に、もう何も考えられなかった。恥じらいすらかなぐり捨て、足を限界まで開いた。雌壺の奥へと指が差しこまれ、蜜を掻き出すように善い部分を重点的に嬲られる。そのたび、閉じた瞼の奥で光が点滅を繰り返した。
「そこ、あ、だめ、っ……そこぉっ……」
「三本も咥えているのがわかるかい? 少しきついけれど、すっかり慣れたみたいだね」
「来ちゃう……っ! わた、しっ……来る、来るのぉっ」
背筋に稲妻が走る、そう感じ頭を振った瞬間、無惨にも指が蜜口から抜き放たれた。ひくひくと媚肉がわななくのが自分でもわかる。ずり落ちないよう、天蓋の柱に掴まるのが精一杯だ。
足りない――もっと強い快楽が欲しい――頭の中は卑しい思考で満たされ、息も荒くなる。絶頂できなかった思いは欲深く男を求め、目隠しをされたまま、怖々と振り返った。
エンファニオを求めているのか、アーベを欲しているのか、もうわからない。あるのは絶頂に達したいという気持ち、それだけだ。
「物欲しそうにしているね。入れてほしいんだろう。たっぷり私を感じるといい」
「あっ、ああ――っ!」
一気に熱い塊が蜜壺へと挿入され、ただ、仰け反る。先の方で感じる部分を穿たれれば、頭の中にいくつもの閃光が走り、甘い悲鳴を上げる他ない。
打擲音と寝台が軋む音、その合間に自分の声が大きく響く。視界を覆われていることで、余計に聴覚が、胸や尻からの愛撫への感覚が敏感となり、過激な淫悦に翻弄される。奥を突かれながら花芯をも刺激され、何度も一人、達した。
「だめぇ、だめ、来てる……っから、ぁっ……もう、わたし……!」
「締めつけが凄いよ。中にほしいと言っている。出してほしいのだろう、シュトリカ」
「それ、はぁ……中、は……ん、んん、っ」
「逃げられないよ、私からはね。逃がすつもりなんて毛頭ないけれど。ああ、シュトリカ。中に、出すよ。たくさん注いであげるから、私の子を産んでくれ」
「だめ、です……やめてぇっ」
口から嘘ばかりの悲鳴が漏れる。胎内でエンファニオが放つ灼熱の奔流を感じたい――もっともっと気持ちよくなりたい。そう考えてしまう都度、媚肉がぎゅうぎゅうに屹立を締めつけ、射精をうながすように子宮へと誘う。
「ああ、ん、あぁあ……っ!」
言葉の通り、逃がすまいと肌の上から肉竿が入った箇所、子宮付近を押さえつけられた途端、望んでいた熱い飛沫が胎内で弾けるのを感じた。全身を震わせ、絶頂の余韻で陶然としつつも、頭の片隅にまた、虚しさがよぎる。
エンファニオに抱かれることを夢想し、流されてしまった。なんて馬鹿なんだろう――ただ、アーベとの約束を守るためにこの身を捧げたというのに。エンファニオに迷惑をかけたくなんてないのに。
後悔する中、体から雄茎がゆっくりと抜かれていき、耳元でアーベが笑う声を拾う。
「いつもより乱れていたな、シュトリカ。そんなにもあいつに抱かれたかったか」
「……そんなこと、ないです……目のこれ、外して下さい……」
素直にもすぐに、アーベは目隠しをとってくれた。その布きれで名残を始末してくれようとするものだから、慌てて足を閉じる。
「安心しろ、今日はもう、抱かない。溜まった分は出し切ったからな……お前の中に」
気恥ずかしくてつい、そっぽを向く自分に構わず、アーベは丁寧に処理をしてくれる。乱れた寝間着を直してもくれる手つきは優しく、どこかエンファニオを想起させた。
同じく、自らの処理を終えたアーベを見ると、どこかふてくされたような顔をしている。シュトリカは疑問に思って気怠い体を動かし、寝台に座り直してから首を傾げた。
「あ、あの……何か……?」
「抱かれる直前まで、俺以外のことを考えていたのには不愉快だ。お前、何をそんなに気にしていたんだ?」
「それは、その……つまらないことです……」
「俺になら話せることもあるんじゃないのか。言ってみろ、あいつには秘密にしてやる」
横柄な態度であぐらをかくアーベの声は、意外に優しい。どうしよう、と悩む。エンファニオはディーンを信頼しきっている。だが、アーベはどうだろう。もしかしたら、エンファニオとは違う思想を抱いているかもしれない。
「……ディーンさんのことを、アーベ様はどう思ってますか?」
「うるさい小姑だな。仕事はできるが、お前のことといい、色々とやかましい」
「じゃ、じゃあ、コルとサミーのことは?」
「コルは生意気なガキだ。サミーはまあ、あまり接点はないから知らんが、お前をここまでの淑女に仕立て上げた。褒めてやるには充分な侍女だな……そいつらがどうした」
「あ、その……昨日のことなんですけど……」
ばっさり切り捨てていくアーベの言葉にいくらか惚けながら、胸のつかえを吐き出すようにたどたどしく言葉を紡いでいく。
昨夜、ディーンと誰かが話していたこと。呪い師のこと。今回の呪いは比較的軽いものだったことも含め、自分が疑問に思っている全てを。
「ほう、あのディーンがな。なるほど、お前はディーンが怪しいと見たか」
「み、見るというより……話を聞いちゃいましたから、余計に……。相手が誰だかわからないから、どうしても気になってしまって」
「いや、この館に誰かを招いて話したその次の日、この身に呪いがかかった。お前の言う通り、ディーンが怪しいと感じるのは筋が通っている。問題はそれにも関わらず、あいつが未だディーンを信頼しきっている事実だ」
「わ、わたしが見たことを言わなかったからです。エンファニオ様は悪くないです……」
チッ、と舌打ちし、不機嫌な様子でアーベは頬杖をつく。だがすぐに、ふてぶてしい笑顔を作り片手で髪を撫でてきた。
「お前がそれを言えなかったのは、あいつがディーンを信頼しきっているからだろう? 俺に言えたのは、違う視点から答えがほしかったから。違うか?」
「……そうです……」
シュトリカはうなずくことしかできない。図星を突かれた。アーベがにやりと、だがどこか納得したように笑みを深める。
「お前は俺を認めているんだな」
「え?」
「いや。そうなると、貴族どもを帰したのはまずかった。やはりあいつは間抜けだ」
「そ、そんなこと……ディーンさんが一度、全員の身元を洗い直すと言ってましたし……」
「怪しいやつにやらせてどうする。本格的に動かないとまずい事態だ。俺も命は惜しい。お前を残して死ぬわけにはいかないからな」
髪から手を離し、真剣に何かを思案しはじめるアーベの横顔をじっと見つめた。アーベに話したのは正しかったかもしれない。少し重荷がなくなり、安堵すれば喉の渇きを覚えた。昨夜のこともあり、ちゃんと水差しにはたっぷりと水を入れてある。
「お水、入れますね……」
寝台から下りて、二つのコップに水を入れる。アーベは無言で、目をつぶって考え事をしているようだった。真面目に自分の言葉を汲み取ってくれた、そのことが少し、嬉しい。相手は呪いの化身なのに、なぜこんな感情を抱いてしまうのだろう。
「ここに置いておきます」
不思議な感覚に心を惑わされつつ、思案の邪魔をしないよう、サイドテーブルにコップを置いた。アーベは寝台に座ったまま動かない。
申し訳なさを感じつつも、先に水を飲んだ、その瞬間だった。
苦みと共に強烈な熱さが喉を襲う。毒だ――理解した刹那、手が震え、コップが落ちた。いけない、そう思ってサイドテーブルにあるコップも手で払いのけた。
「シュトリカ?」
コップが割れる音、アーベの疑念に満ちた顔、それらが全て遠くなってゆく。
「飲……だ、……め」
「シュトリカっ!」
喉が針に刺されたように痛み、それは次第に首元へ広がる。アーベの焦った声音を最後に、完全に意識が闇の底へと落ちていった。
「何を惚けている、シュトリカ」
「あ、やぁ……」
しかし、後ろから覆い被さってくるアーベにささやかれ、乳房を強く揉まれてしまえば、思考が蕩け、まともな判断もできはしない。寝間着の裾はすでに腰まで捲れ上がり、何もつけていない臀部を晒している始末だ。
それでも自らの痴態を確認することはできなかった。布で、目の部分を覆われてしまっている。天蓋の柱に掴まり、ただ、アーベから時折与えられる快感に身悶えた。
「数日もお前を抱いていない。いい加減、限界だ……ほら、もっと尻を突き出せ」
「だ、だめ……です……お体に、障りますから……、んっ」
「どうせ疲れるのはあいつだ。これからも約束を果たしてほしいんだろう?」
「ふあ……っ……」
戯れるように、体中、至るところをくすぐるように触られる。耳朶を舌で嬲られ、首筋にもまた、音を立てて所有の痣をつけていくアーベに、抵抗することはできなかった。
目隠しをしているため、次にどこを触れられるかわからない。
それが恐怖と、どこか期待のような感情をもたらす。アーベはそんな内心を汲み取ったのだろう。焦らすように腹部や内股をさするように撫でるばかりで、肝心な、悦楽を強く感じる部分には手を当ててこない。
「あ、ああ……ん、ぅっ」
勝手に腰がくねる。体は知ってしまった快楽を求めようと、浅ましく動く。
「……いやらしい子だね、シュトリカ。そんなに大事な場所を触ってほしいのかい?」
耳元で、エンファニオの声がした。物言いもエンファニオそのもので、思わず肩が跳ね上がる。くぐもった笑い声はアーベのものなのだが。
「今日は私が抱いてあげるからね。ああ、こんなに乳房の先を尖らせて……可愛いよ」
「ああん……っ!」
突然、きゅっと胸の尖りを摘ままれ、強烈な淫悦に震えた。そのまま乱暴に乳首をこね回されて、口から嬌声が漏れる。痛みもあるが、それより快感の方が上回った。
「乱暴にされるのが好きなんだ。次はどこを触ってほしいのかな? 足が開いているよ」
エンファニオに抱かれている――そう考え、感じてしまえば自然と腰が浮き上がった。まるで自分から秘路を見せつけるように。胎の内側からは、蜜が溢れてくるのがわかる。アーベなのに、と心のどこかで思いながらも、胸の蕾から来る快楽に何も考えられない。
「いい子だね、シュトリカ。いやらしくて可愛い。今、触ってあげるから」
「んぁ、ああっ!」
アーベの指が恥骨下、叢を掻き分けて秘核を爪弾いた。激しい感覚が背筋を駆け上る。そのまま二本の指で挟まれ、擦り上げられていけば、淫らな水音が部屋に響いた。
「こんなに濡らして……本当に私の指で触れられるのが好きなんだね。奥もちゃんとほぐしてあげるから、もっと足を開くんだ」
「は、い……」
悦楽に、もう何も考えられなかった。恥じらいすらかなぐり捨て、足を限界まで開いた。雌壺の奥へと指が差しこまれ、蜜を掻き出すように善い部分を重点的に嬲られる。そのたび、閉じた瞼の奥で光が点滅を繰り返した。
「そこ、あ、だめ、っ……そこぉっ……」
「三本も咥えているのがわかるかい? 少しきついけれど、すっかり慣れたみたいだね」
「来ちゃう……っ! わた、しっ……来る、来るのぉっ」
背筋に稲妻が走る、そう感じ頭を振った瞬間、無惨にも指が蜜口から抜き放たれた。ひくひくと媚肉がわななくのが自分でもわかる。ずり落ちないよう、天蓋の柱に掴まるのが精一杯だ。
足りない――もっと強い快楽が欲しい――頭の中は卑しい思考で満たされ、息も荒くなる。絶頂できなかった思いは欲深く男を求め、目隠しをされたまま、怖々と振り返った。
エンファニオを求めているのか、アーベを欲しているのか、もうわからない。あるのは絶頂に達したいという気持ち、それだけだ。
「物欲しそうにしているね。入れてほしいんだろう。たっぷり私を感じるといい」
「あっ、ああ――っ!」
一気に熱い塊が蜜壺へと挿入され、ただ、仰け反る。先の方で感じる部分を穿たれれば、頭の中にいくつもの閃光が走り、甘い悲鳴を上げる他ない。
打擲音と寝台が軋む音、その合間に自分の声が大きく響く。視界を覆われていることで、余計に聴覚が、胸や尻からの愛撫への感覚が敏感となり、過激な淫悦に翻弄される。奥を突かれながら花芯をも刺激され、何度も一人、達した。
「だめぇ、だめ、来てる……っから、ぁっ……もう、わたし……!」
「締めつけが凄いよ。中にほしいと言っている。出してほしいのだろう、シュトリカ」
「それ、はぁ……中、は……ん、んん、っ」
「逃げられないよ、私からはね。逃がすつもりなんて毛頭ないけれど。ああ、シュトリカ。中に、出すよ。たくさん注いであげるから、私の子を産んでくれ」
「だめ、です……やめてぇっ」
口から嘘ばかりの悲鳴が漏れる。胎内でエンファニオが放つ灼熱の奔流を感じたい――もっともっと気持ちよくなりたい。そう考えてしまう都度、媚肉がぎゅうぎゅうに屹立を締めつけ、射精をうながすように子宮へと誘う。
「ああ、ん、あぁあ……っ!」
言葉の通り、逃がすまいと肌の上から肉竿が入った箇所、子宮付近を押さえつけられた途端、望んでいた熱い飛沫が胎内で弾けるのを感じた。全身を震わせ、絶頂の余韻で陶然としつつも、頭の片隅にまた、虚しさがよぎる。
エンファニオに抱かれることを夢想し、流されてしまった。なんて馬鹿なんだろう――ただ、アーベとの約束を守るためにこの身を捧げたというのに。エンファニオに迷惑をかけたくなんてないのに。
後悔する中、体から雄茎がゆっくりと抜かれていき、耳元でアーベが笑う声を拾う。
「いつもより乱れていたな、シュトリカ。そんなにもあいつに抱かれたかったか」
「……そんなこと、ないです……目のこれ、外して下さい……」
素直にもすぐに、アーベは目隠しをとってくれた。その布きれで名残を始末してくれようとするものだから、慌てて足を閉じる。
「安心しろ、今日はもう、抱かない。溜まった分は出し切ったからな……お前の中に」
気恥ずかしくてつい、そっぽを向く自分に構わず、アーベは丁寧に処理をしてくれる。乱れた寝間着を直してもくれる手つきは優しく、どこかエンファニオを想起させた。
同じく、自らの処理を終えたアーベを見ると、どこかふてくされたような顔をしている。シュトリカは疑問に思って気怠い体を動かし、寝台に座り直してから首を傾げた。
「あ、あの……何か……?」
「抱かれる直前まで、俺以外のことを考えていたのには不愉快だ。お前、何をそんなに気にしていたんだ?」
「それは、その……つまらないことです……」
「俺になら話せることもあるんじゃないのか。言ってみろ、あいつには秘密にしてやる」
横柄な態度であぐらをかくアーベの声は、意外に優しい。どうしよう、と悩む。エンファニオはディーンを信頼しきっている。だが、アーベはどうだろう。もしかしたら、エンファニオとは違う思想を抱いているかもしれない。
「……ディーンさんのことを、アーベ様はどう思ってますか?」
「うるさい小姑だな。仕事はできるが、お前のことといい、色々とやかましい」
「じゃ、じゃあ、コルとサミーのことは?」
「コルは生意気なガキだ。サミーはまあ、あまり接点はないから知らんが、お前をここまでの淑女に仕立て上げた。褒めてやるには充分な侍女だな……そいつらがどうした」
「あ、その……昨日のことなんですけど……」
ばっさり切り捨てていくアーベの言葉にいくらか惚けながら、胸のつかえを吐き出すようにたどたどしく言葉を紡いでいく。
昨夜、ディーンと誰かが話していたこと。呪い師のこと。今回の呪いは比較的軽いものだったことも含め、自分が疑問に思っている全てを。
「ほう、あのディーンがな。なるほど、お前はディーンが怪しいと見たか」
「み、見るというより……話を聞いちゃいましたから、余計に……。相手が誰だかわからないから、どうしても気になってしまって」
「いや、この館に誰かを招いて話したその次の日、この身に呪いがかかった。お前の言う通り、ディーンが怪しいと感じるのは筋が通っている。問題はそれにも関わらず、あいつが未だディーンを信頼しきっている事実だ」
「わ、わたしが見たことを言わなかったからです。エンファニオ様は悪くないです……」
チッ、と舌打ちし、不機嫌な様子でアーベは頬杖をつく。だがすぐに、ふてぶてしい笑顔を作り片手で髪を撫でてきた。
「お前がそれを言えなかったのは、あいつがディーンを信頼しきっているからだろう? 俺に言えたのは、違う視点から答えがほしかったから。違うか?」
「……そうです……」
シュトリカはうなずくことしかできない。図星を突かれた。アーベがにやりと、だがどこか納得したように笑みを深める。
「お前は俺を認めているんだな」
「え?」
「いや。そうなると、貴族どもを帰したのはまずかった。やはりあいつは間抜けだ」
「そ、そんなこと……ディーンさんが一度、全員の身元を洗い直すと言ってましたし……」
「怪しいやつにやらせてどうする。本格的に動かないとまずい事態だ。俺も命は惜しい。お前を残して死ぬわけにはいかないからな」
髪から手を離し、真剣に何かを思案しはじめるアーベの横顔をじっと見つめた。アーベに話したのは正しかったかもしれない。少し重荷がなくなり、安堵すれば喉の渇きを覚えた。昨夜のこともあり、ちゃんと水差しにはたっぷりと水を入れてある。
「お水、入れますね……」
寝台から下りて、二つのコップに水を入れる。アーベは無言で、目をつぶって考え事をしているようだった。真面目に自分の言葉を汲み取ってくれた、そのことが少し、嬉しい。相手は呪いの化身なのに、なぜこんな感情を抱いてしまうのだろう。
「ここに置いておきます」
不思議な感覚に心を惑わされつつ、思案の邪魔をしないよう、サイドテーブルにコップを置いた。アーベは寝台に座ったまま動かない。
申し訳なさを感じつつも、先に水を飲んだ、その瞬間だった。
苦みと共に強烈な熱さが喉を襲う。毒だ――理解した刹那、手が震え、コップが落ちた。いけない、そう思ってサイドテーブルにあるコップも手で払いのけた。
「シュトリカ?」
コップが割れる音、アーベの疑念に満ちた顔、それらが全て遠くなってゆく。
「飲……だ、……め」
「シュトリカっ!」
喉が針に刺されたように痛み、それは次第に首元へ広がる。アーベの焦った声音を最後に、完全に意識が闇の底へと落ちていった。
0
お気に入りに追加
60
あなたにおすすめの小説

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
エリート警察官の溺愛は甘く切ない
日下奈緒
恋愛
親が警察官の紗良は、30歳にもなって独身なんてと親に責められる。
両親の勧めで、警察官とお見合いする事になったのだが、それは跡継ぎを産んで欲しいという、政略結婚で⁉

【完結】今世も裏切られるのはごめんなので、最愛のあなたはもう要らない
曽根原ツタ
恋愛
隣国との戦時中に国王が病死し、王位継承権を持つ男子がひとりもいなかったため、若い王女エトワールは女王となった。だが──
「俺は彼女を愛している。彼女は俺の子を身篭った」
戦場から帰還した愛する夫の隣には、別の女性が立っていた。さらに彼は、王座を奪うために女王暗殺を企てる。
そして。夫に剣で胸を貫かれて死んだエトワールが次に目が覚めたとき、彼と出会った日に戻っていて……?
──二度目の人生、私を裏切ったあなたを絶対に愛しません。
★小説家になろうさまでも公開中
僕は君を思うと吐き気がする
月山 歩
恋愛
貧乏侯爵家だった私は、お金持ちの夫が亡くなると、次はその弟をあてがわれた。私は、母の生活の支援もしてもらいたいから、拒否できない。今度こそ、新しい夫に愛されてみたいけど、彼は、私を思うと吐き気がするそうです。再び白い結婚が始まった。
月の後宮~孤高の皇帝の寵姫~
真木
恋愛
新皇帝セルヴィウスが即位の日に閨に引きずり込んだのは、まだ十三歳の皇妹セシルだった。大好きだった兄皇帝の突然の行為に混乱し、心を閉ざすセシル。それから十年後、セシルの心が見えないまま、セルヴィウスはある決断をすることになるのだが……。

【R18】深層のご令嬢は、婚約破棄して愛しのお兄様に花弁を散らされる
奏音 美都
恋愛
バトワール財閥の令嬢であるクリスティーナは血の繋がらない兄、ウィンストンを密かに慕っていた。だが、貴族院議員であり、ノルウェールズ侯爵家の三男であるコンラッドとの婚姻話が持ち上がり、バトワール財閥、ひいては会社の経営に携わる兄のために、お見合いを受ける覚悟をする。
だが、今目の前では兄のウィンストンに迫られていた。
「ノルウェールズ侯爵の御曹司とのお見合いが決まったって聞いたんだが、本当なのか?」」
どう尋ねる兄の真意は……
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる