【R18】妖精姫の蜜は苦くて、甘い【完結】

双真満月

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第三幕 芽生えたものは何?

3-3.皆が幸せならそれでいい※

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 ソルタオとエルテに、アレグリアが妖精郷への見回りを頼んだところ、二人は快諾してくれた。ソルタオの方は、顔を合わせたとき少し寂しそうだったのが印象的だ。きっと、フィロンのことが心配なのだろう。

 だが、フィロンが身籠もっていることはまだ言えない。アレグリアとしては今すぐに報告したい気持ちがあるのだけれど、姉の心を無下にすることはどうしてもできなかった。

「縁談? 兄上に?」

 妖精郷の近く、森の中、一緒に歩いていたエルテが目を丸くしてこちらを見る。

「う、うん。そんな話は出てないのかなって」
「あー、何人か候補は挙がってたみたいだけど、兄上は蹴ってる。全部」
「そう……」

 アレグリアはほっとした。これで婚約者が現れたとなれば、ソルタオに抗議するところだ。例えフィロンが身を引こうとしていようとも。思い合う二人を邪魔するのは、今のところ王の地位だけで、それなら自分の努力でなんとかすることができる。

 少しの間沈黙が続き、鳥の鳴き声だけが大きい。ごく微かにだが、ソルタオが貸してくれた兵士たちの声も遠くに聞こえた。

 今、森の中は兵士たちとエルテに見守られている。一般の人間は、結界が弱まっても妖精郷に入ることは難しい。ビドゥーリが来ても包囲網を敷いている限り、安全だ。

「……どうしてそんなことを気にするんだよ、リア」
「ソルタオ様は王位を継がれる。もう、婚約者やそういった人がいても、全然おかしくないんじゃないかって」
「まだ兄上のことが気になるんだな」
「私が気にしてるのは姉様のことだよ」

 どこか不服そうにしているエルテに苦笑した。思った以上に吹っ切りが早かったな、と自分で感じる。ソルタオに対しての思慕は、綺麗さっぱり消え去ってしまった。もちろん、尊敬の念は抱いたままだが。

「あの二人は好き同士だから、か。リアはそれでいいわけ?」
「姉様とソルタオ様、そして皆が幸せになってくれるなら」
「その幸せの中に、リアはいないのかよ」
「私?」

 話しているうちに湖畔まで来た。秋の陽射しが水面が反射していて、とても美しい。

「私のことはいいんだ。皆が幸せになるのが、私の幸せ」

 大言を吐いたな、と小さく苦笑した。それでも本当の願いだ。フィロン、ソルタオ、妖精郷に住む同族たち。彼らが笑顔になってくれれば、自分は満足できる。それにはやはり、長老と意志の疎通ができなければいけないだろう。

「……その中にオレはいる?」
「もちろん。エルテにだって幸せになってほしいって思う」
「オレが他の誰かと一緒になっても?」
「え」

 石を蹴飛ばしたエルテを見た。どこか不満げなその顔に、もしかして、と口を開く。

「誰かとの婚約が決まった……とかなのか」
「オレも成人になったから。候補は出てる」
「そ、そっか」

 エルテが結婚する――考えるとなぜか、胸が軋んだ。無視してほとりに近付き、加護によって未だ温い水を掬う。水には自分の顔が映っていて、それはあまりに強張っていた。

「リアはそれでも、オレを祝うつもりなんだな」
「……エルテが幸せなら、それでいいよ」

 ぱちゃん、と掬った水を落として、隣にしゃがんだエルテに笑う。エルテは真剣な顔で何も言わない。水を手にして、それから。

「それ」
「わぷっ」

 いきなり水をかけてきた。しかもアレグリアの顔面に。

「な、何をするんだ!」
「ちょっとムカついたから」
「なんで……わっ」

 エルテの動きは止まらない。今度は水を、全身に浴びせるように大量にかけてくる。菜の花色のドレスが水で重みを帯びた。手で防護しても飛沫の量が酷く、アレグリアの体は全身水浸しになる。ふるふると頭を振って、怒りのために立ち上がった。

「な、なんてことするんだ……せっかく降ろしたばかりのドレスなのに!」
「リア」
「……なんだ」
「肌、透けてる」

 へ、と自分の体を見下ろした。しとどになった体、ドレスが水によって肌に張りついたためか、確かに素肌が露わになっている。下着をつけない癖が仇となった。

「ば、馬鹿っ。見るな!」

 声を上げて腕を使い、体を隠す。身を丸めたこちらへ、エルテが無言のまま近付いてくるものだから、一歩、後退った。

「な、何?」
「こうして昼のときに素肌見るの、はじめてだなって思ってさ」
「当たり前だろう……って、わわっ」

 強引に手を引かれ、思わずたたらを踏んだ。そのまますっぽりとエルテの両腕に抱き留められる。胸板に顔を押しつけられ、知らずのうちに鼓動が速まった。

 鳥の声が遠くに聞こえる。心臓の音だけが大きく全身を支配していた。身動ぎしても、エルテの腕は微動だにしない。

「エルテ……?」
「オレはリアにも幸せになってほしい」
「う、うん……」
「ついでに、気持ちよくなってほしい」
「気持ちよく……?」

 顔を上げた瞬間、エルテが額に口付けしてきた。頬が赤くなる。唇から伝わる熱は熱く感じた。慌てふためく自分を無視して、瞼、耳、頬とキスを続けるエルテは、どこか扇情的な視線でこちらを捉える。

 唇の柔らかさ、情熱を灯す赤い瞳。触れられている、見つめられている、そう思うたび心臓が高鳴った。顎を持ち上げられて、すぐ間近に自分の顔がある、エルテの瞳に自分が映っていることがありありとわかる。

 あ、と吐息を漏らした瞬間、声を塞ぐように唇を重ねられた。心臓が今にも破裂しそうで動悸がやまない。思わず目を閉じる。ゆっくり、愛撫するようにエルテの舌先が唇の輪郭をなぞってきて、背筋に甘い痺れが走った。

 体から力が抜けた、その刹那を見計らってか、エルテの舌がやんわりと口腔をまさぐってくる。あの夜とは違って優しく、熱烈な口付け。緊張がほどけ、心までも蕩けていく気がした。

 エルテの片手が胸にあてがわれる。そのまま、柔らかく揉みほぐされた。尖った乳頭を執拗に指で嬲られ、淫悦がアレグリアの理性を壊していく。

「だ、だめ。エルテ」
「リアを気持ちよくさせるだけだから」

 残った悟性が静止の声を出させたが、エルテの手つきは妖しいままだ。再び口付けされ、ふかふかの草むらに体を横たえられる。透けたスカート部分をたくし上げられた。水滴が草に落ち、腹までが露わとなる。

「可愛い、リア」
「やっ……んんっ」

 乳暈全部をドレスの上ごと口に含まれ、舐められた。張りついた乳房の尖りは、エルテの口の中で舌先によっていじめられている。そのつど体が勝手に跳ね上がる。

「こんなのだめ……あ、んっ」

 快楽に流されてはいけない。自分にはすべきことがある――そう思うのに、エルテの頭を押す手に力が入らなかった。上擦った声が自分のものだと信じられない。自ら弄るのとでは段違いの悦楽は、少し怖かった。

「人……来ちゃう、から……っ」
「平気だよ。オレがいる場所に、他の奴らは来ない」

 口で手を押さえるこちらを見下ろし、エルテは優しく微笑む。その手が伸びた。アレグリアの股間へと。

「ふあっ……!」

 下着の上から秘芽を爪弾かれ、びくんと体を震わせた。何度も、何度も、指の腹で嬲られるたび、体の奥から愛蜜が溢れてくるのがわかる。

「リアの体、やっぱり甘いな」
「やめ、てぇ……そこ、だめ……」
「やめない。可愛いから」

 言うとエルテは胸から腹、下腹部を舐めて、ついには蜜で湿った淫芽すらも口に含む。

「んん! やっ、あ、ああん!」

 じゅる、と音を立てて秘部を吸われ、アレグリアの口から嬌声が上がった。下着の横から指を入れられて、隘路の中でゆっくりと抽送がはじまる。

「絹みたいだな。狭くてきついけど……触り心地がいい」
「怖い……エルテ! やめて、私っ、私、もうっ」

 自分の指では届かなかった箇所、弱点のような部分を掻き回され、つつかれるつど、電撃のような感覚が全身に走った。自慰では決して得られない快感に、頭がおかしくなりそうだ。

「イきそうか? イって、リア」
「い、く……私、だめ、イく……ぅっ!」

 おとがいをのけ反らせ、絶頂に甘い悲鳴を喉から迸らせた。四肢に力が入らない。しかし法悦の余韻に浸る余裕など、なかった。

「甘いな、リアの愛液。ずっと吸ってられる。ちゃんと綺麗にするから」
「やあ、舐めちゃ……だめぇ……っ」

 下着を剥ぎ取られ、秘路と肉芯をいじられては達する――

 幾度絶頂へと導かれたのだろう。アレグリアが気を失うまで淫らな行為は続き、次に目を覚ましたときにはもう、黄昏が空に広がっていた。

 目の前には焚き火があり、暖かい。いつくらいから気絶していたのかわからなかったが、ドレスは乾いていた。下着もはいている。体中がすっきりしていて、でも少し、気怠い。

「おはよう、リア」
「……何がおはようだ、馬鹿」

 寄りかかっていたのはエルテの肩で、エルテが悪びれもせず挨拶をしてくるものだから、アレグリアは慌てて離れて睨みつけた。

「なんで怒ってんだ?」
「あ、あんなことするから……に決まってるだろう」
「最後まではしてない。今日はリアを悦ばせたかっただけだから」
「悦ばせるって……」

 いやらしい声を外で出してしまったこと、そして何より、エルテに唇だけじゃなく、大事な箇所を預けてしまったことに顔が熱くなった。使命があるというのに、悦楽に溺れた自分が恨めしい。

「……帰る。長老の木と思念、通じ合わせないといけないし」
「少しは気分転換できたろ?」
「馬鹿っ」

 エルテが明るく笑いながら、焚き火を消しはじめる。その横顔、所作を見てるとなぜか胸がまた、どきどきした。体を許してしまったからだろうか。それとも。

「妖精郷まで送るから」
「うん……」

 エルテといると、普段ならとても落ち着くのだ。なのに今は胸の鼓動が大きい。きっと、と皺になったドレスをはたいて立ち上がる。恥ずかしいところを見られたからだろう。

 焚き火を完全に消し終えたエルテが、そっと手を握ってきた。温かい掌を、どうしてもアレグリアは払いのけることができない。

 手を繋いだまま妖精郷近くへと戻る。数人の兵士が、そこにはいた。

「エルテ王子、現在ビドゥーリの姿はございません」
「ご苦労。交代で見回りを続けてくれ。リアも気をつけて帰ること」
「子供じゃあるまいし。……でもありがとう、エルテ。皆も」

 手を外し、微笑んでエルテを見る。エルテに笑みを返され、また小さく胸が疼いた。うつむきつつ羽を出して、オーロラのような壁に飛びこむ。少し、結界が弱い気がした。やはりフィロンの力が弱まってしまっている。

 ――皆のためにも、早く長老を操れるようにならなくちゃ。

 決意し、ほらへと向かう。焦りと共にそれでも脳裏に浮かぶのは、エルテの顔だった。
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