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第三幕 夢と輪廻と
3-3.臆病で、醜悪※
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馬車に揺られながら、談笑するヨーたちを尻目にトゥトゥナは一人考える。汚れたサンダルを隠すように丸まり、カルゼやリッケルのことを思う。配給や炊き出しにも参加できない彼ら。きっと、盗みや非合法のやり方で食いつないでいるのだろう。
まさに町の暗部を垣間見たようで、気分が落ち込んでくる。
――彫り師ってなんなのかしら。闇商売だって言ってたけれど。それに……偉い人に気をつけろって意味も気になるし。
シュテインに思いきって聞いてみよう、と決意するが、今日も帰ってくるかどうかはわからない。
トゥトゥナが考えているうちに馬車は再び皇領市へと入り、神殿の前で止まった。今日はこれで終わりだ。あとは帰るだけ。
図書室に向かうというヨーや他の巫女たちと別れて、トゥトゥナは歩き出す。派閥の区画で軽いいざこざはあるが、ここは平和だ。あまりにも平和すぎて、死が遠くに感じる。
ダリエが嘘をついたのはきっと、自分を危機に陥れるためだろう、と推測できた。裏道に入っただけであんな状態の町なのだ。命の危険だってありえた。我ながら危ないことをしたと反省し、気を引き締める。
陽が少し、頭頂から傾いていた。今頃シュテインは議論の真っ最中だろうか――
そんなことを思いつつ歩いていたら、館の前に彼の馬車があるのが見える。シュテインが丁度降りてきたのも。
シュテインがふと、こちらを見た。トゥトゥナは軽く頭を下げ、早足で近付く。
「お疲れ様です、リシュ卿。今日はお帰りになったんですね」
「トアもご苦労。議論が平行線で……」
そこまで言ったシュテインの目線が、トゥトゥナの足下に注がれた。
「随分汚れているね。今日は炊き出しだったと聞いてはいるけれど」
「え、ええ。ちょっとしたことがありまして」
「……イスク、後は頼んだよ。他の皆も休んで構わない。トア、こちらに来なさい」
今回はイスクが馭者だった。館に入っていく護衛の神官たちをよそに、シュテインがローブを翻して庭の方へと歩き出す。
――怒って……るのかしら? どうして?
なんとなくシュテインは不機嫌そうだ。疑問を胸に、トゥトゥナは彼のあとに続いた。
庭には中庭と同じく、ガラス張りの温室がある。こちらの方が大きい。有事の際、いつでも医者が薬を作れるように、様々な薬草が植えられているのだ。
シュテインが構わず中に入ったものだから、トゥトゥナも泥の汚れを気にしつつ、そっと温室に邪魔した。湿気が肌を撫でていく。
「他の男の匂いがする」
「え?」
扉を閉めた瞬間、近くの木の幹へと体を押しつけられた。
「リ、リシュ卿?」
「饐えた、しかも酒精の匂いまでする男の香りだ。誰に近付いた」
「それ、は……あの、手当てをしたんです。町の路地裏にいた人を……それで」
「どうして裏になんて行く必要が?」
「つっ……」
無造作に、強く乳房を服の上から握られた。痛みに顔が歪むも、そのまま乳房の尖りを爪弾かれ、ん、とつい甘い声を漏らしてしまう。
シュテインがそのまま、耳朶を食んできた。舌は耳をくまなく舐め尽くすと、今度は首筋を這う。トゥトゥナは感じる箇所を責められて、体を震わせた。
「な、何も……他に何もありません……」
「当然だよ。トゥトゥナ、君は僕のものだ。他の男に色目を使うことは許さない」
「色目だなんて……あ」
唇を吸われる。数日ぶりの熱い口付けに心臓が脈打った。舌が口腔に侵入してくる。唾液や舌を啜られて、トゥトゥナもまた無意識にその動きに応えた。
シュテインの手は胸をまさぐり、乱雑に服を剥ぐ。乳房を両方露わにされ、生暖かい空気の元に晒された。慌てて胸を隠そうとするも、両手を掴まれてしまえば身動きできない。
「へ、部屋で……します、から……っ」
「お仕置きだよ。ここで君を抱く」
「そんな……!」
「確かめないといけないからね。他の男の痕がないか」
笑顔すらないシュテインの言葉に、トゥトゥナの顔は青ざめる。草木で隠れているとはいえ、ここは神官の部屋の近くだ。窓から見られてしまうのではないか、そんな不安が頭をよぎる。
だが、シュテインは唇を離し、すぐさまトゥトゥナの乳暈ごと胸の尖りを口に含んだ。しかもわざとらしく、ぴちゃぴちゃといやらしい水音を立てながら。
敏感な場所を舌でつつかれ、吸われ、転がされてトゥトゥナの息が上がる。
「んあ……や、いや……ぁんっ」
「すっかり固くしてるくせに。全く嘘つきだね、トゥトゥナは」
「だめ、吸っちゃ……ふあ……」
「ここは他の男の匂いはしないね……でもまだ、ちゃんと確認する」
久しぶりにもたらされる悦楽は、たやすくトゥトゥナの思考を奪う。自然と力が抜けた。自由になった手はシュテインの頭と肩に乗る。
シュテインの指がうごめく。下の切れ込み部分から入った手が、妖しく太股をなぞった。トゥトゥナは下着を穿いていない。規則で帯状の布しか着けられないのだ。
「これも脱いでいないね。中は、どうかな」
「や、あぁっ!」
和毛の下、隠れていた淫芽を探られた。乳頭と淫核、両方から来る淫悦に嬌声が上がる。ぬるぬるとした愛蜜を掬われ、雌芯を執拗に擦られた。
「トゥトゥナ、そんなに可愛い声を出したら誰かが来てしまうよ?」
「んっ、んぅ……っ」
「まあ、僕たちの関係はとっくに知れてるだろうけれど」
「え、あ、ふあっ……」
「イスクたち神官は知っている。僕が君の淫らな姿を堪能しているのを。あれだけ毎夜、愛らしく喘いでいれば当然だね」
トゥトゥナは何も答えられなかった。羞恥で顔が赤くなる。それでもシュテインの動きは止まらない。蜜口へ指を進め、二本の指でより善く感じる場所を責め立ててくる。
「だめ、だめ……そこ、だめ、ぇっ」
「指まで咥えて放そうとしない。本当に淫らで、いやらしく、可愛いよ」
「あ、ああ……私、わた、し……っ。もう……」
絶頂に達しそうだった瞬間、無残にも指が引き抜かれた。
「あ……」
「お仕置きだと言っただろう。君が懇願するまでいかせない」
木の幹に背中を預け、荒い息をしながら赤い顔でシュテインを見上げた。シュテインは愛蜜に塗れた指を舐めて、蠱惑的な笑みを浮かべる。
「君のいい香りはするけれど。中はどうかな」
体の向きを変えられ、尻を突き出すような姿勢を取らされた。無造作に服を捲られる。
昼間、陽射しが降り注ぐ場所で、秘路を見せていることに対する恥ずかしさ。イスクたちも知っているという事実が、トゥトゥナの体に熱を帯びさせる。
「相変わらず狭い……聞こえるかい? 恥ずかしい音を立てているのが」
「あ、ああ……んぅ……っ」
後ろから胸を揉み、また隘路に指を挿入するシュテインは、どこか楽しそうだ。嗜虐的な台詞に、自らの股間から漏れ出る水音に、思考が蕩けていく。
何度も、何度も、絶頂の間近で止めて繰り返される愛撫は、トゥトゥナを壊した。
「い、れて……」
秘路と愛芯を舌で舐め尽くされ、奥が疼く。木の幹に手をつきながら、惚けたままで振り返る。もう限界だった。奥を穿つものが欲しい。シュテインが、欲しい。
「お願い……入れて、シュテイン……」
なぜ、彼の名を呼んだのかわからなかった。彼の名を口にしたのはこれが二度目だ。呼ばれたシュテインが、呆然とした顔を作るのを見た。
「トゥトゥナ……っ」
ローブが地面に落ちる。下衣の前をくつろがせ、取り出した男根を、シュテインはゆっくりと淫筒へ突き立ててくる。来た、とトゥトゥナが吐息を漏らした瞬間だった。
「トゥトゥナ……!」
「んあぁあーっ!」
ずん、と一度に貫かれ、法悦に至る。それでも足りない。淫路はひくつき、肉竿を奥へ、もっと奥へといざなう。
「あ、あ、っ。シュテ、インっ……もっと、お願い……っ」
腰を強く掴まれた。蜜路の中で膨らんだ肉楔が容赦なく淫壁を擦り、最奥を突く。シュテインの荒い呼気が耳元にかかる。
トゥトゥナの名を呼びながら、彼は腰を振り続ける。漏れた愛液がトゥトゥナの足を伝い、雫は地面に跡を残した。
「んっ、んっ、いい……っ。いいの、これっ……」
突かれるたび、敏感になった体は絶頂へと駆け上る。思考は蕩け、ただ快楽だけを貪る。シュテイン、と名を呼んで請う。最奥に熱い欲の飛沫が欲しい。舌を絡ませ合いながら、トゥトゥナはそれだけを願う。
「ああ……トゥトゥナ……トゥトゥナ、そろそろ、出すよ」
「私、も……また……あ、ああん……っ」
打擲音が激しくなった。自分の中で、肉槍がより膨張しているのがわかる。子宮口の近くをゴリっと擦られた瞬間、今まで以上に凄まじい淫悦が体中を襲った。
「ひあ、あぁぁぁ――っ!」
「く、ぅあっ……」
陰茎を締めつける媚襞の中に流れ込む、灼熱の奔流。全身に法悦の稲妻が走る。ずり落ちそうになった体を、シュテインが抱き留めてくれた。
「トゥトゥナ、足りない……もっと君を感じたい」
後ろから熱く抱きしめられ、トゥトゥナは小さくうなずく。もう外であることや、イスクたちに見られても構わなかった。ただただ体はシュテインを求めている。
近くにあった椅子で、下から激しく突かれる悦び。立ちながら子種を受け止める悦び。幾度となく体位を変えて、陽が落ちる寸前まで淫悦に溺れた。
椅子の上、シュテインに抱き締められながら呼吸をなんとか整える。はだけた服が、汗ばんだ肌に張りついていた。シュテインのローブも土で汚れてしまっている。衣服にも体液がついてぐしゃぐしゃだ。
「ここまでさせたのは君が悪いよ」
「……どうして?」
「君が煽るから。……僕の名前を呼んだりして、どういう風の吹き回しかな」
「それはこちらの台詞だわ……スネーツ男爵は革新派だったのね。大切な票を失ってまで私を助けるなんて、あなたこそどういうつもりなの?」
肩に頬を預け、問うトゥトゥナの顔をシュテインの手が撫でる。また、はぐらかされるだろうか。トゥトゥナはじっとシュテインを見つめた。夕陽に近い色の太陽が、シュテインの髪を照らしている。美しい銀の瞳がこちらを射貫いて放さない。
「彼が君を狙っていたことは、村人たちから聞いていてね。念のため間者として送りこんでいた一人から、スネーツがそろそろ動くと連絡が来た。駆けつけられたのはぎりぎりだったけれど」
「彼はあなたの顔も知らない様子だったわ」
「男爵風情に見せる顔は持っていないよ」
「傲慢ね。それで? 私を連れて巫女にしたのはどうしてかしら」
「……数年前、君に助けられたとき。あのときから僕は悪夢を見るようになった。君が火刑になり、あるいは斬首になる夢を」
シュテインがささやきながら、額に優しく口付けを落としてくる。
「そうさせたくないと思った。一度は諦めたんだ。夫がいると知っていたからね。けれど……僕はトゥトゥナ、君のことを」
「それ以上はだめ」
トゥトゥナは静かに、シュテインの唇に触れた。切なげに、苦しげにシュテインの顔が歪む。
これ以上、心をかき乱されたらどうなってしまうのか、トゥトゥナはそれが怖かった。
自分は夫を救えなかった、夫の思いをもくむことができなかった情けない未亡人だ。それに、この身に起こる繰り返しにシュテインを巻き込みたくはない。別の意味ですでに、シュテインは輪廻に組み込まれているのかも知れないが。
神秘的な面が、瞳が、ただこちらを見つめている。今はそれでいい。それ以上望めば、自分は多分、幸せになってしまう。それがなぜか恐ろしくてたまらないのだ。
「……シュテイン」
でも、名前を呼ぶことくらいは許して欲しい。二人きりのときだけ、敬語も捨てたい。全部で自分を求めて果ててもらいたい――
臆病なもう一人の自分を嘲笑いながら、トゥトゥナは形容しがたい思いを込めて頬に口付けした。
「悪いことを忘れさせて。あなたの手で、怖い夢を追い払って。繰り返す悪夢を」
身勝手すぎる、醜悪な女としての顔。思いを伝えようとしたシュテインの心を無下にしながら、それでもどこかで彼を求める自分がいた。
シュテインは微笑んでくれる。愚かで臆病なトゥトゥナを、慈しむように。
――この人なら、国の暗部を変えられるかしら……私の輪廻を終わらせてくれるかしら。
神々しいほどに見える彼の笑みに、そんなことをぼんやり、思う。
「トゥトゥナ。君の心がどこにあろうと僕は君をもらうよ」
シュテインがまた、トゥトゥナの体を弄る。吐息を漏らし、トゥトゥナは与えられる淫楽に全てを委ねた。思考、恐怖、思い、その全部を。
強く、きつく抱き合う。まだどこか、体に伝わるシュテインの温もりに怯えながら。
まさに町の暗部を垣間見たようで、気分が落ち込んでくる。
――彫り師ってなんなのかしら。闇商売だって言ってたけれど。それに……偉い人に気をつけろって意味も気になるし。
シュテインに思いきって聞いてみよう、と決意するが、今日も帰ってくるかどうかはわからない。
トゥトゥナが考えているうちに馬車は再び皇領市へと入り、神殿の前で止まった。今日はこれで終わりだ。あとは帰るだけ。
図書室に向かうというヨーや他の巫女たちと別れて、トゥトゥナは歩き出す。派閥の区画で軽いいざこざはあるが、ここは平和だ。あまりにも平和すぎて、死が遠くに感じる。
ダリエが嘘をついたのはきっと、自分を危機に陥れるためだろう、と推測できた。裏道に入っただけであんな状態の町なのだ。命の危険だってありえた。我ながら危ないことをしたと反省し、気を引き締める。
陽が少し、頭頂から傾いていた。今頃シュテインは議論の真っ最中だろうか――
そんなことを思いつつ歩いていたら、館の前に彼の馬車があるのが見える。シュテインが丁度降りてきたのも。
シュテインがふと、こちらを見た。トゥトゥナは軽く頭を下げ、早足で近付く。
「お疲れ様です、リシュ卿。今日はお帰りになったんですね」
「トアもご苦労。議論が平行線で……」
そこまで言ったシュテインの目線が、トゥトゥナの足下に注がれた。
「随分汚れているね。今日は炊き出しだったと聞いてはいるけれど」
「え、ええ。ちょっとしたことがありまして」
「……イスク、後は頼んだよ。他の皆も休んで構わない。トア、こちらに来なさい」
今回はイスクが馭者だった。館に入っていく護衛の神官たちをよそに、シュテインがローブを翻して庭の方へと歩き出す。
――怒って……るのかしら? どうして?
なんとなくシュテインは不機嫌そうだ。疑問を胸に、トゥトゥナは彼のあとに続いた。
庭には中庭と同じく、ガラス張りの温室がある。こちらの方が大きい。有事の際、いつでも医者が薬を作れるように、様々な薬草が植えられているのだ。
シュテインが構わず中に入ったものだから、トゥトゥナも泥の汚れを気にしつつ、そっと温室に邪魔した。湿気が肌を撫でていく。
「他の男の匂いがする」
「え?」
扉を閉めた瞬間、近くの木の幹へと体を押しつけられた。
「リ、リシュ卿?」
「饐えた、しかも酒精の匂いまでする男の香りだ。誰に近付いた」
「それ、は……あの、手当てをしたんです。町の路地裏にいた人を……それで」
「どうして裏になんて行く必要が?」
「つっ……」
無造作に、強く乳房を服の上から握られた。痛みに顔が歪むも、そのまま乳房の尖りを爪弾かれ、ん、とつい甘い声を漏らしてしまう。
シュテインがそのまま、耳朶を食んできた。舌は耳をくまなく舐め尽くすと、今度は首筋を這う。トゥトゥナは感じる箇所を責められて、体を震わせた。
「な、何も……他に何もありません……」
「当然だよ。トゥトゥナ、君は僕のものだ。他の男に色目を使うことは許さない」
「色目だなんて……あ」
唇を吸われる。数日ぶりの熱い口付けに心臓が脈打った。舌が口腔に侵入してくる。唾液や舌を啜られて、トゥトゥナもまた無意識にその動きに応えた。
シュテインの手は胸をまさぐり、乱雑に服を剥ぐ。乳房を両方露わにされ、生暖かい空気の元に晒された。慌てて胸を隠そうとするも、両手を掴まれてしまえば身動きできない。
「へ、部屋で……します、から……っ」
「お仕置きだよ。ここで君を抱く」
「そんな……!」
「確かめないといけないからね。他の男の痕がないか」
笑顔すらないシュテインの言葉に、トゥトゥナの顔は青ざめる。草木で隠れているとはいえ、ここは神官の部屋の近くだ。窓から見られてしまうのではないか、そんな不安が頭をよぎる。
だが、シュテインは唇を離し、すぐさまトゥトゥナの乳暈ごと胸の尖りを口に含んだ。しかもわざとらしく、ぴちゃぴちゃといやらしい水音を立てながら。
敏感な場所を舌でつつかれ、吸われ、転がされてトゥトゥナの息が上がる。
「んあ……や、いや……ぁんっ」
「すっかり固くしてるくせに。全く嘘つきだね、トゥトゥナは」
「だめ、吸っちゃ……ふあ……」
「ここは他の男の匂いはしないね……でもまだ、ちゃんと確認する」
久しぶりにもたらされる悦楽は、たやすくトゥトゥナの思考を奪う。自然と力が抜けた。自由になった手はシュテインの頭と肩に乗る。
シュテインの指がうごめく。下の切れ込み部分から入った手が、妖しく太股をなぞった。トゥトゥナは下着を穿いていない。規則で帯状の布しか着けられないのだ。
「これも脱いでいないね。中は、どうかな」
「や、あぁっ!」
和毛の下、隠れていた淫芽を探られた。乳頭と淫核、両方から来る淫悦に嬌声が上がる。ぬるぬるとした愛蜜を掬われ、雌芯を執拗に擦られた。
「トゥトゥナ、そんなに可愛い声を出したら誰かが来てしまうよ?」
「んっ、んぅ……っ」
「まあ、僕たちの関係はとっくに知れてるだろうけれど」
「え、あ、ふあっ……」
「イスクたち神官は知っている。僕が君の淫らな姿を堪能しているのを。あれだけ毎夜、愛らしく喘いでいれば当然だね」
トゥトゥナは何も答えられなかった。羞恥で顔が赤くなる。それでもシュテインの動きは止まらない。蜜口へ指を進め、二本の指でより善く感じる場所を責め立ててくる。
「だめ、だめ……そこ、だめ、ぇっ」
「指まで咥えて放そうとしない。本当に淫らで、いやらしく、可愛いよ」
「あ、ああ……私、わた、し……っ。もう……」
絶頂に達しそうだった瞬間、無残にも指が引き抜かれた。
「あ……」
「お仕置きだと言っただろう。君が懇願するまでいかせない」
木の幹に背中を預け、荒い息をしながら赤い顔でシュテインを見上げた。シュテインは愛蜜に塗れた指を舐めて、蠱惑的な笑みを浮かべる。
「君のいい香りはするけれど。中はどうかな」
体の向きを変えられ、尻を突き出すような姿勢を取らされた。無造作に服を捲られる。
昼間、陽射しが降り注ぐ場所で、秘路を見せていることに対する恥ずかしさ。イスクたちも知っているという事実が、トゥトゥナの体に熱を帯びさせる。
「相変わらず狭い……聞こえるかい? 恥ずかしい音を立てているのが」
「あ、ああ……んぅ……っ」
後ろから胸を揉み、また隘路に指を挿入するシュテインは、どこか楽しそうだ。嗜虐的な台詞に、自らの股間から漏れ出る水音に、思考が蕩けていく。
何度も、何度も、絶頂の間近で止めて繰り返される愛撫は、トゥトゥナを壊した。
「い、れて……」
秘路と愛芯を舌で舐め尽くされ、奥が疼く。木の幹に手をつきながら、惚けたままで振り返る。もう限界だった。奥を穿つものが欲しい。シュテインが、欲しい。
「お願い……入れて、シュテイン……」
なぜ、彼の名を呼んだのかわからなかった。彼の名を口にしたのはこれが二度目だ。呼ばれたシュテインが、呆然とした顔を作るのを見た。
「トゥトゥナ……っ」
ローブが地面に落ちる。下衣の前をくつろがせ、取り出した男根を、シュテインはゆっくりと淫筒へ突き立ててくる。来た、とトゥトゥナが吐息を漏らした瞬間だった。
「トゥトゥナ……!」
「んあぁあーっ!」
ずん、と一度に貫かれ、法悦に至る。それでも足りない。淫路はひくつき、肉竿を奥へ、もっと奥へといざなう。
「あ、あ、っ。シュテ、インっ……もっと、お願い……っ」
腰を強く掴まれた。蜜路の中で膨らんだ肉楔が容赦なく淫壁を擦り、最奥を突く。シュテインの荒い呼気が耳元にかかる。
トゥトゥナの名を呼びながら、彼は腰を振り続ける。漏れた愛液がトゥトゥナの足を伝い、雫は地面に跡を残した。
「んっ、んっ、いい……っ。いいの、これっ……」
突かれるたび、敏感になった体は絶頂へと駆け上る。思考は蕩け、ただ快楽だけを貪る。シュテイン、と名を呼んで請う。最奥に熱い欲の飛沫が欲しい。舌を絡ませ合いながら、トゥトゥナはそれだけを願う。
「ああ……トゥトゥナ……トゥトゥナ、そろそろ、出すよ」
「私、も……また……あ、ああん……っ」
打擲音が激しくなった。自分の中で、肉槍がより膨張しているのがわかる。子宮口の近くをゴリっと擦られた瞬間、今まで以上に凄まじい淫悦が体中を襲った。
「ひあ、あぁぁぁ――っ!」
「く、ぅあっ……」
陰茎を締めつける媚襞の中に流れ込む、灼熱の奔流。全身に法悦の稲妻が走る。ずり落ちそうになった体を、シュテインが抱き留めてくれた。
「トゥトゥナ、足りない……もっと君を感じたい」
後ろから熱く抱きしめられ、トゥトゥナは小さくうなずく。もう外であることや、イスクたちに見られても構わなかった。ただただ体はシュテインを求めている。
近くにあった椅子で、下から激しく突かれる悦び。立ちながら子種を受け止める悦び。幾度となく体位を変えて、陽が落ちる寸前まで淫悦に溺れた。
椅子の上、シュテインに抱き締められながら呼吸をなんとか整える。はだけた服が、汗ばんだ肌に張りついていた。シュテインのローブも土で汚れてしまっている。衣服にも体液がついてぐしゃぐしゃだ。
「ここまでさせたのは君が悪いよ」
「……どうして?」
「君が煽るから。……僕の名前を呼んだりして、どういう風の吹き回しかな」
「それはこちらの台詞だわ……スネーツ男爵は革新派だったのね。大切な票を失ってまで私を助けるなんて、あなたこそどういうつもりなの?」
肩に頬を預け、問うトゥトゥナの顔をシュテインの手が撫でる。また、はぐらかされるだろうか。トゥトゥナはじっとシュテインを見つめた。夕陽に近い色の太陽が、シュテインの髪を照らしている。美しい銀の瞳がこちらを射貫いて放さない。
「彼が君を狙っていたことは、村人たちから聞いていてね。念のため間者として送りこんでいた一人から、スネーツがそろそろ動くと連絡が来た。駆けつけられたのはぎりぎりだったけれど」
「彼はあなたの顔も知らない様子だったわ」
「男爵風情に見せる顔は持っていないよ」
「傲慢ね。それで? 私を連れて巫女にしたのはどうしてかしら」
「……数年前、君に助けられたとき。あのときから僕は悪夢を見るようになった。君が火刑になり、あるいは斬首になる夢を」
シュテインがささやきながら、額に優しく口付けを落としてくる。
「そうさせたくないと思った。一度は諦めたんだ。夫がいると知っていたからね。けれど……僕はトゥトゥナ、君のことを」
「それ以上はだめ」
トゥトゥナは静かに、シュテインの唇に触れた。切なげに、苦しげにシュテインの顔が歪む。
これ以上、心をかき乱されたらどうなってしまうのか、トゥトゥナはそれが怖かった。
自分は夫を救えなかった、夫の思いをもくむことができなかった情けない未亡人だ。それに、この身に起こる繰り返しにシュテインを巻き込みたくはない。別の意味ですでに、シュテインは輪廻に組み込まれているのかも知れないが。
神秘的な面が、瞳が、ただこちらを見つめている。今はそれでいい。それ以上望めば、自分は多分、幸せになってしまう。それがなぜか恐ろしくてたまらないのだ。
「……シュテイン」
でも、名前を呼ぶことくらいは許して欲しい。二人きりのときだけ、敬語も捨てたい。全部で自分を求めて果ててもらいたい――
臆病なもう一人の自分を嘲笑いながら、トゥトゥナは形容しがたい思いを込めて頬に口付けした。
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「トゥトゥナ。君の心がどこにあろうと僕は君をもらうよ」
シュテインがまた、トゥトゥナの体を弄る。吐息を漏らし、トゥトゥナは与えられる淫楽に全てを委ねた。思考、恐怖、思い、その全部を。
強く、きつく抱き合う。まだどこか、体に伝わるシュテインの温もりに怯えながら。
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