薄幸バラード【Hakko Ballade】

ずぅパパ

文字の大きさ
上 下
3 / 11

2話 内気な2人の昼ごはん

しおりを挟む
フリールームには、やっぱり#__・__#というべきか誰も居なかった。

「ここはいつも空いてるね?誰も居ないし1番奥の席行く?」
こういう時、僕の性格的に隅と角が1番落ち着く。高島さんもきっと隅の方が落ち着くと思う。

「うん。私も奥の方が落ち着くしそっちの方がいい。」
やっぱり。

僕は6本100円のスティックパンと、ブラックの缶コーヒー、高島さんは卵とハムのサンドイッチと紫色のスムージーを机に広げた。

「………」

こうなることは分かってたけど、2人とも座ってから一言も喋ってない。
菓子パンの袋の擦れる音と、モグモグと食べる音だけが虚しく響く。

「あ、春樹くんメガネ変えた?」
なにか話しかけなきゃと考えてたら高島さんが話題を振ってくれて助かった。

「うん。前の眼鏡、駅で落として割っちゃったから変えたんだ。変かな…?」
女の子に自分の見た目のことを聞くのは少し恥ずかしい。

「うんうん。凄くいいと思う!似合ってるよ!」

「あ…ありがとう。」
褒められ慣れてないから、突然褒められたりすると恥ずかしくて仕方なくなる。
僕の顔は今、にやけを必至に堪えて変な顔になってると、断言できる。

チラッと高島さんを見るとこっちを見てニコッとしていた。
目が合ったのが恥ずかしくて、目線を少し下に落とした。

5秒くらい経って、気づいてしまった。

僕は今高島さんの胸あたりをマジマジと見つめていた。
ハッとして、高島さんを見ると顔を赤らめて恥ずかしそうにしていた。

はぁ。
絶対に胸を見てると思われたよね…
絶対に胸を見てると…
絶対に…

「そう言えば今日は何でご飯誘ってくれたの?」
胸を見ていたことが恥ずかしくてとっさに高島さんに話しかける。

「春樹くん最近中で食べてるみたいだったし、それに…」
高島さんが普通に答えてくれてホッとした。

「それに?」

「は…春樹くんとお喋りしたいなぁ…と思って!」
高島さんの顔が赤らんでる。やっぱり恥ずかしかったのかな…。

「そう言えば、最近あんまり話す機会なかったね。」
最後にこうやって普通の会話をしたのいつ以来だろう。
そもそも2人で話すのは初めてかもしれない。
すれ違った時に「お疲れ様」って言うくらいだったもんな。
僕も2人になるのを避けてたのもあるし…。


それからしばらく高島さんと他愛もない話をした。

意外と言うか何と言うか、話をしてみると僕が一歩踏み出せなかっただけで、高島さんとは話しが合うことに入社してから3年間で初めて気づいた。


「あっ、時間。ごめんなさい私戻るね。」
高島さんが、時計を見て慌てている。
時間を見ると12時45分だったので、昼休憩はまだ15分あるが、会計部は女性の縦社会が厳しい部署で先輩帰ってくる前に戻っとかないと後で何を言われるか分からないという同じ会社ながらに同情する部署だったな。

「会計も大変だね。また誘ってよ。」

「うん…本当にごめんなさい!」
そういうと高島さんはフリールームを小走りに出て行った。

残ったスティックパンを頬張り、菓子パンの袋を丸めてゴミ箱にいれ、部屋を出ようとしたら、さっき外にランチに出ていた畑中が入ってきた。

「お、春樹ここで食べてたのか。」
畑中は財布を開けて小銭を人差し指で探している。
フリールームにある自動販売機で飲み物を買いに来たようだ。

「高島さんとさっきまでここで食べてた。」

「た…高島さんと?」
100円を自販機に入れ損ねて落とした。
慌てて拾い、自販機に100円を入れた。

「うん?」
動揺したように見えた。

「よし、俺も明日からコンビニ飯にしようかな…。」

ピッ
ガタン
畑中は買った缶コーヒーを取り出し、蓋を開けてチビチビ飲んでいる。

「畑中って…」
グッと言葉を堪え、このことは胸に閉まっておくことにした。

畑中…応援するぞ。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

すれ違ってしまった恋

秋風 爽籟
恋愛
別れてから何年も経って大切だと気が付いた… それでも、いつか戻れると思っていた… でも現実は厳しく、すれ違ってばかり…

【完結】仰る通り、貴方の子ではありません

ユユ
恋愛
辛い悪阻と難産を経て産まれたのは 私に似た待望の男児だった。 なのに認められず、 不貞の濡れ衣を着せられ、 追い出されてしまった。 実家からも勘当され 息子と2人で生きていくことにした。 * 作り話です * 暇つぶしにどうぞ * 4万文字未満 * 完結保証付き * 少し大人表現あり

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

【コミカライズ&書籍化・取り下げ予定】お幸せに、婚約者様。私も私で、幸せになりますので。

ごろごろみかん。
恋愛
仕事と私、どっちが大切なの? ……なんて、本気で思う日が来るとは思わなかった。 彼は、王族に仕える近衛騎士だ。そして、婚約者の私より護衛対象である王女を優先する。彼は、「王女殿下とは何も無い」と言うけれど、彼女の方はそうでもないみたいですよ? 婚約を解消しろ、と王女殿下にあまりに迫られるので──全て、手放すことにしました。 お幸せに、婚約者様。 私も私で、幸せになりますので。

あの子を好きな旦那様

はるきりょう
恋愛
「クレアが好きなんだ」  目の前の男がそう言うのをただ、黙って聞いていた。目の奥に、熱い何かがあるようで、真剣な想いであることはすぐにわかった。きっと、嬉しかったはずだ。その名前が、自分の名前だったら。そう思いながらローラ・グレイは小さく頷く。 ※小説家になろうサイト様に掲載してあります。

皇太子夫妻の歪んだ結婚 

夕鈴
恋愛
皇太子妃リーンは夫の秘密に気付いてしまった。 その秘密はリーンにとって許せないものだった。結婚1日目にして離縁を決意したリーンの夫婦生活の始まりだった。 本編完結してます。 番外編を更新中です。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

私のドレスを奪った異母妹に、もう大事なものは奪わせない

文野多咲
恋愛
優月(ゆづき)が自宅屋敷に帰ると、異母妹が優月のウェディングドレスを試着していた。その日縫い上がったばかりで、優月もまだ袖を通していなかった。 使用人たちが「まるで、異母妹のためにあつらえたドレスのよう」と褒め称えており、優月の婚約者まで「異母妹の方が似合う」と褒めている。 優月が異母妹に「どうして勝手に着たの?」と訊けば「ちょっと着てみただけよ」と言う。 婚約者は「異母妹なんだから、ちょっとくらいいじゃないか」と言う。 「ちょっとじゃないわ。私はドレスを盗られたも同じよ!」と言えば、父の後妻は「悪気があったわけじゃないのに、心が狭い」と優月の頬をぶった。 優月は父親に婚約解消を願い出た。婚約者は父親が決めた相手で、優月にはもう彼を信頼できない。 父親に事情を説明すると、「大げさだなあ」と取り合わず、「優月は異母妹に嫉妬しているだけだ、婚約者には異母妹を褒めないように言っておく」と言われる。 嫉妬じゃないのに、どうしてわかってくれないの? 優月は父親をも信頼できなくなる。 婚約者は優月を手に入れるために、優月を襲おうとした。絶体絶命の優月の前に現れたのは、叔父だった。

処理中です...