36 / 40
兎小屋の口封じ
ミサンガと人探し
しおりを挟む
連続乱心事件が浪人集団「兎小屋」による四杉大臣襲撃のために行われた仕込みだったという形で幕を閉じて早々のこと。
銀刀──杉田銀時らの活躍により無傷で生還した大臣は急病により亡くなってしまった。
死去が公表されて世間が大騒ぎの最中、これ以上は士の領分ではないということで、事件終息の立役者たる係長たちには久々の休暇が舞い込む。
銀髪の美丈夫も青みがかった美女もこの日は骨休め。
年齢相応のカジュアルコーデで待ち合わせをしていた。
そんなことなど知る由もなく、まだ独り身の探偵は事務所で暇を持て余していた。
いくらAKMから妖刀絡みの事件依頼が入るようになったとは言え、肝心の稼ぎ頭が出勤するのは週末だけ。
そうなると所長である律子一人でやれる仕事は限られるわけだが、そもそも依頼が積み重ならないうちはやることがない。
昨日は甫と別れてから1日中ゴロゴロと休んでいたのだが流石にそろそろ仕事が欲しくなる。
「仕事がないんだったら、そのぶん早く報酬を振り込んで欲しいわよ。特に日曜日のは金一封があっても良いくらいじゃない」
財布と通帳を確認しながらボヤいていた律子だったわけだが、そんな彼女も急な来客に飛び上がってしまった。
事務所を設立してから数えるほどしか鳴らなかった呼び鈴に驚いた彼女が玄関先に向かうとサングラスをかけたモジャモジャ頭の男性。
傍らに控えているのは貧弱そうな痩せた男性という何処となく生臭みのある雰囲気を醸し出す二人組である。
出迎えた律子に明かした彼らの素性は「フォー・カス」という週刊誌の編集者で、伝説の探偵と呼ばれた天樹の後継者である律子の能力を頼りに来たらしい。
「──というわけで、このおまもりを使って下須を探してほしいのです」
サングラスをかけた男──小山内(おさない)が差し出したブレスレット型のおまもりは捜索対象である下須フミハルが肌見放さず身につけているのと同じモノ。
彼は編集部の関係者全員で妖気がこもった揃いのおまもりを持っているので祖母譲りのトランス能力を使ってフミハルを探してほしいと言うのだがその裏側はだいぶ黒い。
律子もおまもりから発する妖気の質と彼らの雰囲気に不信感を抱いたわけだが提示された目先の報酬に目がくらんでしまう。
なにせ前金だけで30万円。
全財産をかき集めても高校生のお小遣いに毛が生えた程度しか財布に残っていない今の律子には目に毒な金額だった。
「わかりました。この名探偵に、まっかせなさい」
契約が成立したことに、ニヤニヤとしながら事務所を出ていく小山内たち。
彼らからすればフミハルが手元に戻れば30万円など安いものであり、戻らなければ別の方法で元を取ればいい。
幸いあの女は使えるだろう。
普段であれば律子もそんな悪意に気が付かないほど愚鈍ではないのだが、悲しきは懐の寂しさか。
この金があれば気がかりだった甫の歓迎パーティーを景気よく開けると思った彼女は警戒心が緩くなっていた。
銀刀──杉田銀時らの活躍により無傷で生還した大臣は急病により亡くなってしまった。
死去が公表されて世間が大騒ぎの最中、これ以上は士の領分ではないということで、事件終息の立役者たる係長たちには久々の休暇が舞い込む。
銀髪の美丈夫も青みがかった美女もこの日は骨休め。
年齢相応のカジュアルコーデで待ち合わせをしていた。
そんなことなど知る由もなく、まだ独り身の探偵は事務所で暇を持て余していた。
いくらAKMから妖刀絡みの事件依頼が入るようになったとは言え、肝心の稼ぎ頭が出勤するのは週末だけ。
そうなると所長である律子一人でやれる仕事は限られるわけだが、そもそも依頼が積み重ならないうちはやることがない。
昨日は甫と別れてから1日中ゴロゴロと休んでいたのだが流石にそろそろ仕事が欲しくなる。
「仕事がないんだったら、そのぶん早く報酬を振り込んで欲しいわよ。特に日曜日のは金一封があっても良いくらいじゃない」
財布と通帳を確認しながらボヤいていた律子だったわけだが、そんな彼女も急な来客に飛び上がってしまった。
事務所を設立してから数えるほどしか鳴らなかった呼び鈴に驚いた彼女が玄関先に向かうとサングラスをかけたモジャモジャ頭の男性。
傍らに控えているのは貧弱そうな痩せた男性という何処となく生臭みのある雰囲気を醸し出す二人組である。
出迎えた律子に明かした彼らの素性は「フォー・カス」という週刊誌の編集者で、伝説の探偵と呼ばれた天樹の後継者である律子の能力を頼りに来たらしい。
「──というわけで、このおまもりを使って下須を探してほしいのです」
サングラスをかけた男──小山内(おさない)が差し出したブレスレット型のおまもりは捜索対象である下須フミハルが肌見放さず身につけているのと同じモノ。
彼は編集部の関係者全員で妖気がこもった揃いのおまもりを持っているので祖母譲りのトランス能力を使ってフミハルを探してほしいと言うのだがその裏側はだいぶ黒い。
律子もおまもりから発する妖気の質と彼らの雰囲気に不信感を抱いたわけだが提示された目先の報酬に目がくらんでしまう。
なにせ前金だけで30万円。
全財産をかき集めても高校生のお小遣いに毛が生えた程度しか財布に残っていない今の律子には目に毒な金額だった。
「わかりました。この名探偵に、まっかせなさい」
契約が成立したことに、ニヤニヤとしながら事務所を出ていく小山内たち。
彼らからすればフミハルが手元に戻れば30万円など安いものであり、戻らなければ別の方法で元を取ればいい。
幸いあの女は使えるだろう。
普段であれば律子もそんな悪意に気が付かないほど愚鈍ではないのだが、悲しきは懐の寂しさか。
この金があれば気がかりだった甫の歓迎パーティーを景気よく開けると思った彼女は警戒心が緩くなっていた。
0
お気に入りに追加
6
あなたにおすすめの小説
海の見える家で……
梨香
キャラ文芸
祖母の突然の死で十五歳まで暮らした港町へ帰った智章は見知らぬ女子高校生と出会う。祖母の死とその女の子は何か関係があるのか? 祖母の死が切っ掛けになり、智章の特殊能力、実父、義理の父、そして奔放な母との関係などが浮き彫りになっていく。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話
桜井正宗
青春
――結婚しています!
それは二人だけの秘密。
高校二年の遙と遥は結婚した。
近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。
キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。
ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。
*結婚要素あり
*ヤンデレ要素あり
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/horror.png?id=d742d2f035dd0b8efefe)
【フリー声劇台本】地下劇場あるかでぃあ(男性3人用または不問3人用)
摩訶子
キャラ文芸
『いらっしゃいませ。カフェではなく、【劇場】の方のお客様ですか。……それなら、あなたはヒトではないようですね』
表向きは、美しすぎる男性店主と元気なバイトの男の子が迎える女性に大人気のカフェ。
しかしその地下に人知れず存在する秘密の【朗読劇場】こそが、彼らの本当の仕事場。
観客は、かつては物語の主人公だった者たち。
未完成のまま葬られてしまった絵本の主人公たちにその【結末】を聴かせ、在るべき場所に戻すのが彼らの役目。
そんな二人の地下劇場の、ちょっとダークな幻想譚。
どなたでも自由にご使用OKですが、初めに「シナリオのご使用について」を必ずお読みくださいm(*_ _)m
極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる