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第1章 大きな森の小さな家

20.上手く言えないが、すまなかった

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走って小屋に戻ると、庭に大きな布がかけられた何かがあった。
クリスは無感情にそれを一瞥し、クリーンの魔法を自分にかけて返り血を落とすと、家の中に入っていった。

家の中はグチャグチャだった。中ではロバートが傷の手当てをしているが、他の3人は無傷のようだった。

戻ってきたクリスを見たウィルは顔を強張らせた。


「―――クリス、何があった?」


クリスは淡々と山の麓の小屋であったことを聞かせた。暗殺者2人と騎士1人がいたこと、騎士を倒したこと、こちらの状況が本部にまだ伝わっていないこと、応援を要請する水手紙が未送信なこと。

ただ、3人がターゲットの話をしていたことだけはどうしても言えなかった。クリスには、何の根拠もないが、そのターゲットがウィルだという確信があった。そして、それは今言うべきではないと直感的に思っていた。


「なるほどな。ということは、その水手紙を送ると援軍が来る、ということだな」

「騎士の話だと、今連絡したら明け頃に到着すると言っていたから、多分6時間くらい離れた位置にいるんだと思います」

「よし!今すぐ出る準備だ!ウィルもクリスももう戻って来ないつもりで準備するんだ!2時間後に出発するぞ。下山してすぐにその小屋に寄って水手紙を出せばギリギリ怪しまれないだろうし、こちらも逃げ切れるだろう」


シドは叫んだ。


「クリス、もう<錬金空間収納>が使えるな。急いでお前の空間収納に必要なもの全部詰め込め。
入らないものは、ガーネット、お前の空間収納に入れてやれ。ロバートは俺と庭にあるものを何とかするぞ」





2時間後、5人を乗せた馬車は出発した。

必要なものは全てクリスの空間収納に詰め込まれ、持って行かないものはシドとガーネットが素材単位まで<逆行錬成>し、家の中も外をくまなく魔法で清掃した。
シド曰く、「どこのどいつが狙ってきたか分からないが、証拠は残さないに越したことはない」らしい。

馬車は山の麓に到着した。


「あの小屋です。ちょっと行ってきます」


クリスは馬車から飛び降りた。
正直戻りたくはないが、仕方ない。

すると、ウィルも馬車から飛び降りた。


「一緒に行こう。」


一瞬、あの現場をウィルが見たら何と言うだろうと不安になったが、クリスは頷いた。現実は現実だ。隠しても仕方ない。

2人は小屋に入り、ウィルが魔法で光を灯した。

そこには、クリスが出て行った時と変わらない光景があった。布をかけられた死体に、壁に飛び散った血、状態保存をかけた切り飛ばされた右腕。

クリスは無表情に右腕を拾い上げ、机の上に置いてある水手紙のお盆を確認した。
文章は変わっていない。
右腕の人差し指を魔道具に置くと、水が揺れて文字が消えた。送信完了だ。

仕事が終わったとクリスが振り返ると、ウィルがクリスの頭を優しくなでた。


「兄上?」

「いや・・・。上手く言えないが。・・・すまなかった。」


こんな場所で優しくされても困る。
クリスは目を瞬いて涙が出るのを防いだ。

2人はシドに言われた通り騎士の装備を全て剥ぎ、小屋に火を放った。ウィルの火魔法は強力だ。跡形もなく燃え尽きるだろう。

2人を乗せた馬車は、大急ぎで北に向かった。

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