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序章

陽菜、召喚されて転生することになる

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佐々木陽菜が目が覚ますと、見知らぬ女性が顔を覗き込んでいた。


「うふふ。―――ようこそ!天国へ!」


陽菜は目を細めて女性を見た。
(ええっと。・・・今日は修学旅行の日で、新幹線に乗っていたはず。そしたら、急に足元が光って、暗くなって・・・)

彼女はゆっくりと起き上がって周囲を見渡した。
白い何もない空間に、知らない外人風の女性。


「ああ。なるほど。本当に天国みたいですね」


陽菜の冷めた様子を見て、金髪美人がつまらなそうな顔をした。


「16歳って、まだ子供よねえ。あなたちょっと落ち着き過ぎじゃないのお」


陽菜はムッとして金髪美人を見た。
天国に来て、いきなりディスられるってどういうこと?

その時、スパアンッといい音がして、金髪美人が「いったああい!」と頭を押さえてしゃがみこんだ。
後ろに、青い髪の眼鏡美人立っている。

眼鏡美人はハアッと深いため息をついた。


「申し訳ありません。主神フローラは説明がお得意ではありませんので、私から話をさせて頂きます」

「――彼女はアレッタ。とっても優秀なのよお。うふふ」


頭を押さえながらにっこり笑う主神フローラと、ため息をつくアレッタ。
陽菜は(うん。ここまではテンプレっぽい)と密かに思った。


* * *


アレッタの話によると、陽菜は異世界召喚に巻き込まれてしまったらしい。


「いつもは4、5人だから目をつぶってたけど、あの場所であの人数はダメよねえ」


全く「ダメ」な感じが伝わらない主神フローラの言葉を聞いて、陽菜は首を傾げた。
場所と人数によって何か違うの?


「いい観点ですね」と、アレッタ。
「――え?」
「いえ、ここは神域ですから考えていることが分かるんですよ」
「――それ先に言って下さい・・・」


陽菜が嫌そうな顔をしているのを見て、主神フローラが楽しそうに「ふふふ」と、笑った。



そこからは気分が悪くなるような話だった。

召喚目的は「軍事利用」。
しかも、召喚される異世界人の能力を上げるため、半径5mにいる人間の魂を強制的に譲渡させるらしい。


「前回の召喚は12年ほど前ですが、何か思い当たりませんか?」


アレッタに聞かれ、陽菜は思い出した。
専門学校で数十人が突然死した事件を聞いたことがある。


「あの時は、召喚対象者が5名でしたので、半径25mにいた64名が犠牲になりました。
今回は召喚対象者が20名でしたので、半径100メートル。場所が東京駅でしたから犠牲者は多大なものになったでしょう」


陽菜は眉をしかめた。
(ロクでもないな、その異世界召喚)

アレッタの話では、今回主神フローラは召喚魔法陣の周りを異空間で囲むことにより、「魂の強制譲渡」を阻止したらしい。
しかし、そこに空間のひずみができてしまい、5人が飲み込まれてしまった。

その結果、魔法陣の上にいた20人は召喚され、ひずみに飲み込まれた5人は転生することになってしまった。

陽菜は理解した。
(そうか。私は転生するんだ。新幹線の中で急に暗くなったのは異空間に飲み込まれたからなのね)

そして、同時にあることを思い出した。


(あれ?でも、私、確か魔法陣も踏んでいたような気が・・・)


疑問に思って、顔を上げると、アレッタがうなずいた。


「その通りです。
陽菜さんは、右足側が魔法陣、左足側が異空間に飲み込まれてしまいました。
前例はないですが召喚と転生と両方の行われることになります」


陽菜は「は?」という顔をした。
(前例がないって何それ。何でそんな面倒なことになってんの)

主神様がおっとりとした口調で言った。


「ホントよねえ。私もそんなことになるなんて思わなかったわあ」
「・・・・少し黙ってください」


アレッタが主神フローラの頭にチョップを入れる。

陽菜は「原因はコイツか」と、つぶやくと、大きくハアっとため息をついて額に手を当てた。


「てことは、転生する5人は“私の前に座っていた5人”で、勇者召喚されたのは“私の背中側に座っていた20人”ってことですよね」

「はい。そうなります」


前に座っていた5人とは、修学旅行で同じ班の友達5人だ。
陽菜は5人の顔を思い浮かべ、唇を噛んだ。
(――つまり、死んだってことだもんね。これは自分の話より落ち込むな)

それと同時に、陽菜は後ろに座っていた20人を思い浮かべ、眉をしかめた。
(あいつらが正義の味方勇者?――世界滅ぶでしょ)

陽菜のクラスは、いわゆる“荒れた”クラスでイジメが横行していた。
後ろに座っていたのは、そのいじめグループと放任主義の担任であった。



その時、主神フローラがコホンと咳をした。


「さて、陽菜さん。
あなたにはこれから召喚者として転生してもらいます。
召喚陣の効果を操作することはできませんが、どのような人生を送るかは選べます。

あなたは、何を望みますか?
次にどんな人生を送りたいですか?」

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