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序章
未来の見える男
しおりを挟む大柄な男と髪の長い女は息を飲んだ。
元は美しかった居城の裏庭に、よく知っている美しい男が倒れていた。
美しい男はゆっくり体を起こすと、大柄な男に向かって軽く手を上げた。
「――やっぱり来たんだな。時間通りだ」
「っ、しゃべらないで下さい!」
大柄な男は小さな小瓶を取り出すと、美しい男の体にふりかけた。
髪の長い女は何か呪文を唱える。
しかし、いつもならどんな傷でも癒すそれは何の変化も起こさなかった。
美しい男が服をめくると、心臓の部分に黒い石が埋め込まれていた。
「今は何とか持ちこたえてはいるが、時間の問題だろう」
「これを外せば!」
「俺も色々やってみたが、どうやらダメらしい。これが外せるのは賢者か聖女くらいだろう」
大柄な男は唇を噛んだ。
「―――誰が、こんなことを」
「“勇者様”だ」
「まさか!」
「ジンの鑑定だ。間違いない。・・・すでにあいつはもうこの世にはいないようだが。――すまないな。記念すべき第100回目にこんなことになっちまって」
大柄の男の目から涙がこぼれた。
髪の長い女は2人の邪魔しないように離れた所に立つ。
美しい男は大柄な男を見上げた。
「お前に、頼みたいことがあるんだ。厄介事を引き寄せるかもしれんから、もちろん断ってくれてもかまわない」
「――あなたという人は。この状況で断れるはずないでしょう」
数分後。
2人は走り去り、誰もいなくなった裏庭で、美しい男は空を見上げた。
「見えてしまった運命は変わらないのか」
男は半年前から夢で見ていた光景を思い出した。
突然の襲撃、焼き尽くされる居城、裏庭で倒れる自分。
でも、だからこそ、つながれる希望もある。
男はもうほとんど見えなくなってきた目を細めて微笑んだ。
「―――頼んだぞ」
男は消え、そこには無機質な黒い石が転がっていた。
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