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第2章 恋のキューピッド大作戦 〜 Shape of Our Heart 〜
コンちゃん vs 剣神と闘神と創造神と課長2
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(ふぉおお、コンちゃんがー!!)
処理能力の向上した俺でも追いきれない速度で剣神さんは剣を振るったらしい。コンちゃんの身体は無残にもバラバラに切り裂かれてしまった。実行したのは剣神さんだが、指示したのは上司さんのはず。おのれ上司さん! 会話するんじゃなかったのか! 貴重な狐っ娘なのに!
「あ、悪霊さん、あれを見てください!」
(あれって……うぉえ!?)
上司さんへの怒りに滾っていると、死神さんが突然声を上げた。死神さんの視界には、バラバラにされたコンちゃんの身体がひとりでに動き、そのまま元の形に戻って行く過程が収められていた。そのあんまりな超常現象を目の前にして、思わず変な声が出る。
「ほっほっほ。やるのう、お主。急に速度が上がりおったわ。なんじゃ、今までは手加減でもしていたのかの。性格のひねた奴め」
バラバラ状態から復活したコンちゃんは、さもそれが普通であるかのように気にもせず、剣神さんに話しかける。
痛がる様子は微塵も見えないけど、本当に大丈夫なんだろうか。
「……ふうん、課長から聞いたときは半信半疑だったけど、本当にバラバラ程度じゃ止まんねぇのな。まったく、『理の外』にも程があるぜ。ちなみに手加減なんかしてねえよ。オレっちはいつでも全力全開。さっきのは時間制限つきの奥の手みたいなもんだ。そう連発できない」
「なんじゃ、つまらん。いつもその状態でもこっちは全然構わなんのだぞ?」
「っへ。こういうのは使い所があるんだよ。まあいい、仕切り直しするぜ」
直後にドチュンと音がし、コンちゃんの姿が土煙に紛れて消える。土煙からと姿を現したのは、上空に居たはずの闘神さんだ。不意打ちを仕掛けたのだろう。コンちゃんはすんでのところでその攻撃を回避したようで、二人から少し離れたところに悠々と立っていた。
「こら、不意打ちか、闘神」
「……」
「へいへい、分かったよ。仕事中に無駄口叩くなってことだろ? まったく、闘神は真面目だなぁ」
「……」
無言なはずの闘神さんと会話する剣神さん。闘神さん、実は声が小さいだけじゃないだろうか。ちょっと、死神さん、マイクもっと近づけて!
「ーー駄目ですね。闘神さんは恥ずかしがり屋ですから、テレパシーで会話してるみたいです」
あの体格で恥ずかしがり屋って! 常日頃から目立っちゃうでしょうが!
(ちなみにそのテレパシー、死神さんは拾えないんですか?)
「駄目です。個人回線みたいなものなんで」
そうか、それは残念。それにしても、あんなバラバラ状態から復活するなんてコンちゃんすごいな。前の世界の住人みたいだ。しかも、時間停止中でも動けるとあっては彼らより人外度合いは上である。
(死神さん、さっき上司さんが言っていた『理の外』って一体何なんですか?)
「そうですね。悪霊さん基準でいうと、神の世界って意味ですね」
神の世界? 死神さんたちの世界ってことか。上司さん曰く、コンちゃんもその存在ってことは、やっぱり死神さんの関係者ってことですよね。やっぱり、セーフですよ、セーフ! 俺は悪くねぇ!
「まあその辺は課長が判断すると思いますが、でも同じ『理の外』にいる私でも、コンちゃんさんのこと見たことも聞いたことも無いんですよね。どうして悪霊さんがそんな存在と知り合いなんですか?」
(どうしてって聞かれると答えるのが難しいな。俺にも分かんない)
「分かんないって……。じゃあ、初めて知り合ったのは? いつ、どこでですか?」
(えっと、昨日か一昨日、かな。場所は夢の中で)
「夢の中?」
(そう。俺が気絶しているとき、夢の中であったんだ)
「……悪霊さん、私のこと謀ってます?」
(いや、本当なんだって!)
俺は頑張って夢の世界でコンちゃんと会ったときの話をする。訝しがりながらも、死神さんは最後まで俺の話を聞き、最後にはしぶしぶと納得してくれた。
その間、コンちゃんと剣神さん、それに闘神さんはずっと戦っていた。何回かコンちゃんがバラバラになったり潰されたりしたが、その度に彼女は平然と復活する。一方で剣神さんと闘神さんには傷一つついていない。これは彼らがコンちゃんの攻撃を一太刀も受けずに躱しきっているわけではなく、単にコンちゃんが彼らに攻撃をしていないからだ。どうして攻撃をしないんだろう。
「……なるほど。悪霊さんがコンちゃんと知り合いというのはよく分かりました。けれど、どうして夢の存在であるコンちゃんさんが現実にいるんですか?」
(さあ、それはなんとも。けど、コンちゃんは俺の身体から出てきたよ)
「……はい? 悪霊さんの身体から出てきた?」
(うん。貞○みたいに)
「貞○って……」
死神さんは嫌そうな声を発する。どうやら貞○は知っているらしい。
「えーと、悪霊さんの夢にいた、『コンちゃんさん』が悪霊さんを通ってこちらの世界に来たと。これであってます?」
(うん、あってるあってる)
「……」
俺の返事を聞いた死神さんが、何かを考えているかのように黙り込む。
(死神さん?)
「あ、ええ、大丈夫です。聞いてますよ。お話ありがとうございます。課長はコンちゃんさんについて何か知ってると思うので、悪霊さんの情報も合わせて聞いてみますね」
(お願いします)
狐っ娘な見た目だが、神様みたいなもんと自称したり、神様だと嘯いてみたりと、コンちゃんは正体が謎だ。神様達と互角にバトってるし、実は本当に神様だったりするんだろうか。
そんなことを考えていると、視界の先で変化が起こった。今まで戦局を見守っていた課長神もとい上司さんと創造神さんのうち、創造神さんのほうが三人に近づき始めたのだ。二人は剣神さんと闘神さんを加勢するでもなく、時折会話するだけであった。小さくて言葉はちょっと聞き取れなかったけど、そんな二人のうちの片方がようやく腰を上げたようである。
「もういいぞ、剣神と闘神。下がれ」
「……おっと、姉さんの登場だ。闘神、下がるぞ」
「……」
「剣神コラ、私はいつからお前の姉さんになったんだ? 寝言は寝て言え」
そう吐き捨てるように言うと、創造神さんはポケットからタバコを取り出した。ぷかりとそれを吹かしながら、戦っていた二人と入れ替わるようにコンちゃんへと近づく。
「ほっほ、次の相手はお主か。お主はどうやって儂を楽しませてくれるのじゃ?」
「別に。大して面白くないよ。それよか、■■■■は本当に話がしたいだけなのだけど、してあげちゃくれないかい?」
「嫌じゃ。あいつは好かん」
「嫌われたもんだねぇ。まあ、胡散臭いやつだから分からなくもないけどさ。ちなみに、私とだったらいいのかい?」
「うーん、してもよいが、どうじゃろうな。個人的には死神とやらと話したいのじゃがのう」
「そう。まあ、私としてはどっちでもいいか。あなたと会話するのは私の仕事じゃないし。というか、ここにいるのも意味不明。私にとっては一銭にもならない。ああ、さっさと帰って家で寝たい」
というわけでーー。
創造神さんは微動だにしない。
ただ、発動したと思しきスキルの結果のみが訪れる。
何の前兆もなく、何の前触れもなく、何の訪れもなく、
「会話ができればいいんでしょ?」
コンちゃんの身体が、首から上を残して消し飛んだ。
「ひぃッ」
見ていた死神さんが恐怖の入り混じった悲鳴を上げる。
「!? ……よく分からんが、こんなもの再生すればーー」
「あ、目も要らないか」
「!」
思いついたように埒外の台詞を口にする創造神さん。その言葉を合図に、残った頭部の眼の部分が、真一文字に消し飛ぶ。けれど、コンちゃんはいくらダメージを受けても問題なく復活するーー。
「再生しようとしても無駄だよ。ターゲット指定の回避不能型。それでいて単発式でなく、常時発動型スキル。再生するそばから次の瞬間に頭部以外の身体と眼は擦り切れて消えるから。あ、移動不可のオマケ付きね」
再びぷかりとタバコを吹かす創造神さん。その表情にはスキルの決まった喜びも、正体不明のコンちゃんを封じた安堵も見られない。コンちゃんと会話していたときと何も変わらない表情で、淡々と創造神さんはスキルの説明をする。
(創造神さんっておっかないですね。死神さん、あのスキルは一体何なんですか?)
「……私も知らない。こんなスキル、私も知りません!」
え、死神さんも知らないスキルがあるんですか?
「一般的なスキルだったら全部知ってますが、私だって全てのスキルを把握しているわけではありませんよ。私の知らないスキルがあってもおかしくないです。けれど、こんなの、スキルとかいうレベルじゃない。こんな埒外なスキル、絶対にあってはいけませんし、あることを許されません! ということはおそらく……」
ごくりと、隣の死神さんが生唾を飲み込む。
「創造神さん、スキル創造しちゃいましたね……」
眼球を失い頭部だけの状態でコンちゃんは固定されている。しばらく経ってもその状態から特に変化がないことを確認すると、ヒト仕事終えたとばかりに創造神さんは上司さんのところへと戻る。
「……相変わらず、おっかないな。君の力は」
「別に。大したことないよ。とりあえず首だけにするスキルだから。あ、目も要らないかと思ったから目つぶしも追加しといた。名前どうしようかな。……『見ざる籠の鳥』でいいか。考えるの面倒くさいし。意思疎通に必要な部分だけ残しておいたから、後は頑張って」
「助かるよ」
創造神さんに礼を言って、上司さんはコンちゃんの元へと近づく。
「ふいー、さすが、おっかないですね姉さん。お仕事お疲れ様です!」
「……」
「私の話を聞いてた? あと、私、あんたらの上司じゃないから。自分の主の元へ行きな」
おべっかを使う剣神さんと、タオルとスポドリを渡そうとする闘神さんを創造神さんしっしと追い払う。二人は慌てて上司さんの元へと移動する。
三人はコンちゃんへと近づいて、彼女を囲うように立ち止まる。
「さてと、これでやっと話し合いの場が整いました。ああ、これ以上危害を加えるつもりは無いのでご心配なく」
にこにこと柔和な笑みを浮かべて上司さんは話しかける。
「……」
「もっとも、黙秘するようなら話は別ですが」
しれっと前言撤回する上司さん。死神さんの言う通り、上司さん怒ると怖そう。
「……はぁ、仕方ないのう」
と、首から下と目の無い状態でコンちゃんは呟く。ようやくコンちゃんが大人しくなったことを察すると、思わずといった様子で「おぉ」と上司さんは感嘆符を漏らす。
「……さて、それでは、私が話を伺いましょうか。安心してください。死神よりは力になれると思いますよ」
「遊びも飽きたしの。お主らは、少々儂を舐め過ぎじゃ」
「は……? !! 二人とも離れろ!!」
上司さんの叫び声が聞こえた瞬間、
死神さんの視界は白く、白く染まりーー、
俺が今まで聞いた爆音とは似ても似つかぬ、それでいて大音量の音の暴力が、俺達を襲う。
「キャッ!!」
死神さんの悲鳴が聞こえた途端、視界共有は停止し、俺の視界は自分のものとなった。
(死神さん、大丈夫ですか!?)
彼女は目と耳を抑えていた。が、かろうじて「大丈夫です」と声を絞り出す。
(いったい何が……)
「分かりません。思わず千里眼を解除してしまいました。もう一度、発動します」
死神さんはそう宣言すると、俺の頭をふにふにといじる。再び視界共有してくれるようだ。
(これは……)
「どうして、こんなことに……」
千里眼の先は、大変なことになっていた。
ところどこパッチのようなモザイクの走る歪んだ視界。
間断なく続くホワイトノイズと、雷鳴のように突如として響くボリューム最大のノイズ音。
剣神さんと闘神さんの爪痕も相まって、ますます世界が壊れていく。
(コンちゃんと上司さんは……居るな……)
コンちゃんは先程までと同じ、首から上の目潰しされた状態だ。やや離れたところに上司さんも居る。身体に傷はないようだが、如何なる事態にも対応できるよう身構えている。
「創造神さんも居ますね」
創造神さんは少し離れたところでブツブツと何か呟いていた。どうしたんだろう。それと、剣神さんと闘神さんの姿が見当たらない。死神さんが千里眼で周囲の様子を探るが、影も形も見えなかった。
(高速で移動している……?)
「いえ、私にも見えません。二人共、どこにも見当たりません……」
恐れの入り混じった声で死神さんが答える。
「まずは二人かの」
にっしっし、と眼のないコンちゃんの口元が笑みを浮かべた。
処理能力の向上した俺でも追いきれない速度で剣神さんは剣を振るったらしい。コンちゃんの身体は無残にもバラバラに切り裂かれてしまった。実行したのは剣神さんだが、指示したのは上司さんのはず。おのれ上司さん! 会話するんじゃなかったのか! 貴重な狐っ娘なのに!
「あ、悪霊さん、あれを見てください!」
(あれって……うぉえ!?)
上司さんへの怒りに滾っていると、死神さんが突然声を上げた。死神さんの視界には、バラバラにされたコンちゃんの身体がひとりでに動き、そのまま元の形に戻って行く過程が収められていた。そのあんまりな超常現象を目の前にして、思わず変な声が出る。
「ほっほっほ。やるのう、お主。急に速度が上がりおったわ。なんじゃ、今までは手加減でもしていたのかの。性格のひねた奴め」
バラバラ状態から復活したコンちゃんは、さもそれが普通であるかのように気にもせず、剣神さんに話しかける。
痛がる様子は微塵も見えないけど、本当に大丈夫なんだろうか。
「……ふうん、課長から聞いたときは半信半疑だったけど、本当にバラバラ程度じゃ止まんねぇのな。まったく、『理の外』にも程があるぜ。ちなみに手加減なんかしてねえよ。オレっちはいつでも全力全開。さっきのは時間制限つきの奥の手みたいなもんだ。そう連発できない」
「なんじゃ、つまらん。いつもその状態でもこっちは全然構わなんのだぞ?」
「っへ。こういうのは使い所があるんだよ。まあいい、仕切り直しするぜ」
直後にドチュンと音がし、コンちゃんの姿が土煙に紛れて消える。土煙からと姿を現したのは、上空に居たはずの闘神さんだ。不意打ちを仕掛けたのだろう。コンちゃんはすんでのところでその攻撃を回避したようで、二人から少し離れたところに悠々と立っていた。
「こら、不意打ちか、闘神」
「……」
「へいへい、分かったよ。仕事中に無駄口叩くなってことだろ? まったく、闘神は真面目だなぁ」
「……」
無言なはずの闘神さんと会話する剣神さん。闘神さん、実は声が小さいだけじゃないだろうか。ちょっと、死神さん、マイクもっと近づけて!
「ーー駄目ですね。闘神さんは恥ずかしがり屋ですから、テレパシーで会話してるみたいです」
あの体格で恥ずかしがり屋って! 常日頃から目立っちゃうでしょうが!
(ちなみにそのテレパシー、死神さんは拾えないんですか?)
「駄目です。個人回線みたいなものなんで」
そうか、それは残念。それにしても、あんなバラバラ状態から復活するなんてコンちゃんすごいな。前の世界の住人みたいだ。しかも、時間停止中でも動けるとあっては彼らより人外度合いは上である。
(死神さん、さっき上司さんが言っていた『理の外』って一体何なんですか?)
「そうですね。悪霊さん基準でいうと、神の世界って意味ですね」
神の世界? 死神さんたちの世界ってことか。上司さん曰く、コンちゃんもその存在ってことは、やっぱり死神さんの関係者ってことですよね。やっぱり、セーフですよ、セーフ! 俺は悪くねぇ!
「まあその辺は課長が判断すると思いますが、でも同じ『理の外』にいる私でも、コンちゃんさんのこと見たことも聞いたことも無いんですよね。どうして悪霊さんがそんな存在と知り合いなんですか?」
(どうしてって聞かれると答えるのが難しいな。俺にも分かんない)
「分かんないって……。じゃあ、初めて知り合ったのは? いつ、どこでですか?」
(えっと、昨日か一昨日、かな。場所は夢の中で)
「夢の中?」
(そう。俺が気絶しているとき、夢の中であったんだ)
「……悪霊さん、私のこと謀ってます?」
(いや、本当なんだって!)
俺は頑張って夢の世界でコンちゃんと会ったときの話をする。訝しがりながらも、死神さんは最後まで俺の話を聞き、最後にはしぶしぶと納得してくれた。
その間、コンちゃんと剣神さん、それに闘神さんはずっと戦っていた。何回かコンちゃんがバラバラになったり潰されたりしたが、その度に彼女は平然と復活する。一方で剣神さんと闘神さんには傷一つついていない。これは彼らがコンちゃんの攻撃を一太刀も受けずに躱しきっているわけではなく、単にコンちゃんが彼らに攻撃をしていないからだ。どうして攻撃をしないんだろう。
「……なるほど。悪霊さんがコンちゃんと知り合いというのはよく分かりました。けれど、どうして夢の存在であるコンちゃんさんが現実にいるんですか?」
(さあ、それはなんとも。けど、コンちゃんは俺の身体から出てきたよ)
「……はい? 悪霊さんの身体から出てきた?」
(うん。貞○みたいに)
「貞○って……」
死神さんは嫌そうな声を発する。どうやら貞○は知っているらしい。
「えーと、悪霊さんの夢にいた、『コンちゃんさん』が悪霊さんを通ってこちらの世界に来たと。これであってます?」
(うん、あってるあってる)
「……」
俺の返事を聞いた死神さんが、何かを考えているかのように黙り込む。
(死神さん?)
「あ、ええ、大丈夫です。聞いてますよ。お話ありがとうございます。課長はコンちゃんさんについて何か知ってると思うので、悪霊さんの情報も合わせて聞いてみますね」
(お願いします)
狐っ娘な見た目だが、神様みたいなもんと自称したり、神様だと嘯いてみたりと、コンちゃんは正体が謎だ。神様達と互角にバトってるし、実は本当に神様だったりするんだろうか。
そんなことを考えていると、視界の先で変化が起こった。今まで戦局を見守っていた課長神もとい上司さんと創造神さんのうち、創造神さんのほうが三人に近づき始めたのだ。二人は剣神さんと闘神さんを加勢するでもなく、時折会話するだけであった。小さくて言葉はちょっと聞き取れなかったけど、そんな二人のうちの片方がようやく腰を上げたようである。
「もういいぞ、剣神と闘神。下がれ」
「……おっと、姉さんの登場だ。闘神、下がるぞ」
「……」
「剣神コラ、私はいつからお前の姉さんになったんだ? 寝言は寝て言え」
そう吐き捨てるように言うと、創造神さんはポケットからタバコを取り出した。ぷかりとそれを吹かしながら、戦っていた二人と入れ替わるようにコンちゃんへと近づく。
「ほっほ、次の相手はお主か。お主はどうやって儂を楽しませてくれるのじゃ?」
「別に。大して面白くないよ。それよか、■■■■は本当に話がしたいだけなのだけど、してあげちゃくれないかい?」
「嫌じゃ。あいつは好かん」
「嫌われたもんだねぇ。まあ、胡散臭いやつだから分からなくもないけどさ。ちなみに、私とだったらいいのかい?」
「うーん、してもよいが、どうじゃろうな。個人的には死神とやらと話したいのじゃがのう」
「そう。まあ、私としてはどっちでもいいか。あなたと会話するのは私の仕事じゃないし。というか、ここにいるのも意味不明。私にとっては一銭にもならない。ああ、さっさと帰って家で寝たい」
というわけでーー。
創造神さんは微動だにしない。
ただ、発動したと思しきスキルの結果のみが訪れる。
何の前兆もなく、何の前触れもなく、何の訪れもなく、
「会話ができればいいんでしょ?」
コンちゃんの身体が、首から上を残して消し飛んだ。
「ひぃッ」
見ていた死神さんが恐怖の入り混じった悲鳴を上げる。
「!? ……よく分からんが、こんなもの再生すればーー」
「あ、目も要らないか」
「!」
思いついたように埒外の台詞を口にする創造神さん。その言葉を合図に、残った頭部の眼の部分が、真一文字に消し飛ぶ。けれど、コンちゃんはいくらダメージを受けても問題なく復活するーー。
「再生しようとしても無駄だよ。ターゲット指定の回避不能型。それでいて単発式でなく、常時発動型スキル。再生するそばから次の瞬間に頭部以外の身体と眼は擦り切れて消えるから。あ、移動不可のオマケ付きね」
再びぷかりとタバコを吹かす創造神さん。その表情にはスキルの決まった喜びも、正体不明のコンちゃんを封じた安堵も見られない。コンちゃんと会話していたときと何も変わらない表情で、淡々と創造神さんはスキルの説明をする。
(創造神さんっておっかないですね。死神さん、あのスキルは一体何なんですか?)
「……私も知らない。こんなスキル、私も知りません!」
え、死神さんも知らないスキルがあるんですか?
「一般的なスキルだったら全部知ってますが、私だって全てのスキルを把握しているわけではありませんよ。私の知らないスキルがあってもおかしくないです。けれど、こんなの、スキルとかいうレベルじゃない。こんな埒外なスキル、絶対にあってはいけませんし、あることを許されません! ということはおそらく……」
ごくりと、隣の死神さんが生唾を飲み込む。
「創造神さん、スキル創造しちゃいましたね……」
眼球を失い頭部だけの状態でコンちゃんは固定されている。しばらく経ってもその状態から特に変化がないことを確認すると、ヒト仕事終えたとばかりに創造神さんは上司さんのところへと戻る。
「……相変わらず、おっかないな。君の力は」
「別に。大したことないよ。とりあえず首だけにするスキルだから。あ、目も要らないかと思ったから目つぶしも追加しといた。名前どうしようかな。……『見ざる籠の鳥』でいいか。考えるの面倒くさいし。意思疎通に必要な部分だけ残しておいたから、後は頑張って」
「助かるよ」
創造神さんに礼を言って、上司さんはコンちゃんの元へと近づく。
「ふいー、さすが、おっかないですね姉さん。お仕事お疲れ様です!」
「……」
「私の話を聞いてた? あと、私、あんたらの上司じゃないから。自分の主の元へ行きな」
おべっかを使う剣神さんと、タオルとスポドリを渡そうとする闘神さんを創造神さんしっしと追い払う。二人は慌てて上司さんの元へと移動する。
三人はコンちゃんへと近づいて、彼女を囲うように立ち止まる。
「さてと、これでやっと話し合いの場が整いました。ああ、これ以上危害を加えるつもりは無いのでご心配なく」
にこにこと柔和な笑みを浮かべて上司さんは話しかける。
「……」
「もっとも、黙秘するようなら話は別ですが」
しれっと前言撤回する上司さん。死神さんの言う通り、上司さん怒ると怖そう。
「……はぁ、仕方ないのう」
と、首から下と目の無い状態でコンちゃんは呟く。ようやくコンちゃんが大人しくなったことを察すると、思わずといった様子で「おぉ」と上司さんは感嘆符を漏らす。
「……さて、それでは、私が話を伺いましょうか。安心してください。死神よりは力になれると思いますよ」
「遊びも飽きたしの。お主らは、少々儂を舐め過ぎじゃ」
「は……? !! 二人とも離れろ!!」
上司さんの叫び声が聞こえた瞬間、
死神さんの視界は白く、白く染まりーー、
俺が今まで聞いた爆音とは似ても似つかぬ、それでいて大音量の音の暴力が、俺達を襲う。
「キャッ!!」
死神さんの悲鳴が聞こえた途端、視界共有は停止し、俺の視界は自分のものとなった。
(死神さん、大丈夫ですか!?)
彼女は目と耳を抑えていた。が、かろうじて「大丈夫です」と声を絞り出す。
(いったい何が……)
「分かりません。思わず千里眼を解除してしまいました。もう一度、発動します」
死神さんはそう宣言すると、俺の頭をふにふにといじる。再び視界共有してくれるようだ。
(これは……)
「どうして、こんなことに……」
千里眼の先は、大変なことになっていた。
ところどこパッチのようなモザイクの走る歪んだ視界。
間断なく続くホワイトノイズと、雷鳴のように突如として響くボリューム最大のノイズ音。
剣神さんと闘神さんの爪痕も相まって、ますます世界が壊れていく。
(コンちゃんと上司さんは……居るな……)
コンちゃんは先程までと同じ、首から上の目潰しされた状態だ。やや離れたところに上司さんも居る。身体に傷はないようだが、如何なる事態にも対応できるよう身構えている。
「創造神さんも居ますね」
創造神さんは少し離れたところでブツブツと何か呟いていた。どうしたんだろう。それと、剣神さんと闘神さんの姿が見当たらない。死神さんが千里眼で周囲の様子を探るが、影も形も見えなかった。
(高速で移動している……?)
「いえ、私にも見えません。二人共、どこにも見当たりません……」
恐れの入り混じった声で死神さんが答える。
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