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第2章 恋のキューピッド大作戦 〜 Shape of Our Heart 〜

これから

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「それで、クリスはこれからどうするの? ずっとここに居るわけにもいかないでしょう?」

 姫様がクリスくんに尋ねる。

「……ソフィは、力になってくれるの?」
「私の愛する帝国で、不穏なことを企む輩がいるかもしれないのでしょう? 力にならない理由がありませんわ」

 さも当然とばかりに姫様は言う。

「クリス、私も力になるよ何でも言って!」
「私も」
「ありがとう、ソフィ、レイジー、ベティ姉さん」

 みんなは口々に加勢を表明する。

「おかしいな……。クリスを心配してたら、いつの間にか大事に巻き込まれた気がする……」

 一般人であるアンナだけは慎重だ。

「だって、タカヤナギ教授の殺された原因って、その秘密を知ったからでしょう? 当然その秘密を知った人は全員狙われるよね」
「……すみません。僕の配慮が足りませんでした。アンナさんはもう、このことは忘れて下さい。僕からもコンタクトは取りませんので……」

 神妙になり一歩引いた姿勢を見せるクリスくん。その様子を見て、アンナはしばらく悩む素振りを見せる。

「はぁ、わかったわよ。友達のピンチだしね。私も力になるわ。けど、あんまり危険なことはしないわよ」
「勿論です」
「クリスも。あんまり危ないことはしないでね。ううん、しちゃ駄目だからね」
「……善処します」

 なんとも言えない返答にアンナはクリスくんを睨んでいたが、やがて諦めたようにため息をついた。代わって姫様が口を開く。

「力になるとは言いましたが、私一人では限度がありますわね。父様に相談しても?」
「それは駄目です。敵味方の線引がついてない状態で、それはリスクが高すぎます」
「……父様が指示していると? そんな訳ーー」
「そうは言っていません。ですが、もっとも楽に情報統制が可能な人物です。こちらとしても味方は増やしたいですが、信頼のおける人物だけにしましょう。でないと、こちらが一網打尽にされます」
「……そうね。分かったわ」

 納得したように姫様が頷く。

「クリスはどうするんですの?」
「ひとまず、帝都から脱出しようと思います。指名手配のせいで、ここでは満足に動けないので」
「帝都を出てどうするのかしら?」
「状況を正しく認識したいので、記録の裏取りのために宇宙船の着陸地点を調査しようかなと。もっとも、そちらも隠蔽されている可能性が高いと思いますが……」
「場所は判ってますの?」
「うん。レイダースの外れに落ちたらしい」
「レイダースですか……。結構遠いですわね。帝都脱出ももちろんですけど、道中も大変ですわよ。国境超えもありますし、どうするつもりですの?」
「まあ、そこは考えがあるから大丈夫です。何とかしますよ」

 クリスくんは何でも無さそうに言う。

(本当に大丈夫なのか? 難易度高い気がするけど……)
「一応、最悪を見越して、準備は進めていましたからね。何とかなると思います」
(準備って……?)
「まあ、いろいろですね。悪霊さん達に箝口令を出したのも、その準備の一つです」

 ストークス号について黙っておくように言われたあれか。え、あのときからここまで想像してたの?

「現状、考えられる仮説の中でも、最悪に近いところですけどね」

 彼はため息をつく。あまり的中して欲しくなかったケースらしい。
 
(ちなみに最悪って?)
「父さんの死が確定していました。僕もすでに死んでいます」

 あ、それは最悪だ。俺のミッション終わってたじゃないか。そうだよ、話を聞く限り、タカヤナギ教授が居なかったら、すでに俺はミジンコだったじゃないか! いやー、命拾いしたわ。ありがとう、タカヤナギ教授。今度、墓参りさせて頂こう。
 
「分かりましたわ。私も独自に調査をしておきましょう。記録の裏とりと、怪しい人物や組織を洗い出しておきます」
「お願いします。無理しないで下さいね」
「もちろんですわ」
「私はどうしよっかなー」
「ベティ姉さんとアンナは、しばらく何もしないで下さい。僕の知り合いですので、マークされている可能性があります。いつもと違う行動は取らないほうが良いでしょう」
「え、じゃあ、私がここに居るのって……」
「割と危険かなって思いました。まあ、第一分隊プロのお墨付きがあったので、きっと大丈夫ですよ」
「きっとって……。ミヤナギさん、ラインハルトくん。本当に、大丈夫、だよね?」
「大丈夫。怪しいやつはハルっちがボコボコにしといた」
「「え゛」」

 ミヤナギさんの返答にクリスくんと姫様が固まる。

「あー、あいつらか。研究所を出たときからついてきた奴ら。姫様の護衛としては捨て置け無かったので、とりあえず気絶させておきました。……まずかった、ですかね?」
「クリス、どう思う?」
「うーん、まあセーフですね。十中八九、僕の居所を知りたい連中でしょう。帝都警察だと思います。おそらく今頃、警察から軍のほうに抗議の電話が入ってるでしょうね」
「まじか。隊長に怒られるかな?」
「大丈夫でしょう。護衛として間違ったことはしていないので。ただ、ここ電波入らないんですよね……。外に出た途端、連絡が入ると思いますので、繋がらなかった理由を考えておいたほうがいいですね」

 慌てるとまずいですし、とクリスくんは付け加える。
 護衛の二人は言い訳の相談を始めた。

「……本当に、尾行が居たんだ……。全然気づかなかった……」

 アンナはショックを受けていた。

「……巻き込んでしまってすみません」
(俺も、地下水路の地図を持ち出させちゃったな……。すまん、アンナ。怪しまれるかも……)
「クリス、悪霊さん……。地図については大丈夫。こっそりコピーした奴だし、データも消してあるから。私のせいでクリスが捕まったら嫌だしね。事情聴取に来た警察がいたし、きっとその人かな、尾行してたのは」

 うーん、とアンナは顎に手をやる。

「私もクリスが心配だったからね。巻き込まれた、なんて思ってないよ。けど、そっか。あまりいい気分じゃないよね。尾行されてるっていうのはさ。クリスは指名手配だもんね。もっと悪い気分だよね」

 うん、と彼女は頷く。

「大丈夫。私は平気。疑われないよう、しばらくはいつも通り行動するけど、力になるからね。いつでも相談して」

 彼女は拳を握りしめ、そうクリスくんに宣言する。少し無理をしているようだが、それでもやる気になってくれたらしい。「ありがとうございます」とクリスくんはお礼を言っていた。
 
「クリス、私はー?」

 レイジーちゃんが、彼の袖を引っ張る。

「レイジーもしばらく大人しくしていて下さい」
「……私も、クリスと一緒に行きたい」
「クリス。私もレイジーに賛成ですわ。これ以上、彼女を実験動物扱いされたくありません。譬え、今は前より扱いがましになったとしても、です」
(俺もそう思うぞ。二人は離れないほうがいいんじゃないかな)

 二人が離れるとミッション達成が遠のいてしまうからな。

「ソフィに悪霊さんまで……。話は最後まで聞いて下さい。僕としても、彼女を研究所に置いていくつもりはありません。本人さえ良ければ、レイジーは僕に同行して欲しいと思ってました。墜落現場を見せることで、記憶が戻るかもしれませんからね」
「でも、しばらく大人しくってーー」
「それは僕が帝都を脱出するまで、という意味です。今からレイジーを僕に帯同させてしまうのは問題でしょう」
「それは、そうね……」

 確かに。そうしてしまうと、今レイジーを連れ出している姫様達の立つ瀬がなくなる。

「ですので、レイジーは僕が帝都を脱出する直前に、研究所から抜け出してもらおうと思ってました」
(研究所から抜け出すって、電子ロックされていたけど、それはどうするんだ? まさか、黒虎騒ぎみたく停電を起こすのか?)
「その方法でもいいですけど、騒ぎが大きくなってしまいます。レイジー、これを」

 クリスくんは一枚のカードを彼女に差し出す。

「これって?」
「僕が侵入に使ったカードの予備です。これがあれば出られるはずです」
「おおー!」

 レイジーちゃんが宝物のようにカードを受け取る。そうか。記録のあった部屋に侵入したって言っていたもんな。

(こんなのよく手に入ったな)
「自作ですよ。思ったよりも簡単でした。通信の暗号化もされてませんでしたし」

 何でも無さそうに彼は言う。

(自作って、すごくない?)
「? 簡単でしたよ。システムもザルでしたし……」
「いや、十分すごいと思う……」

 うんうんと、周りのみんなも頷く。

「まあ、いいですわ。それより、すでに対策されてるんじゃないの? 大丈夫?」
「侵入に使った方はそうでしょうね。予備は別のキーを使っているので大丈夫のはずです」

 自信満々に彼は言う。

「そう。それで、いつ脱出するんですの?」
「それについてはまだ未定ですね。手段の伝手はあるんですけど、詳細はこれから決めようと思っていたので。ですので、決まったら悪霊さんにお伝えしますよ。悪霊さんは僕とレイジーのメッセンジャーになってください。定期的にここに来て頂けますか」
(分かった。任せろ)
「お願いします」
「詳細はこれからって、誰かと相談するつもりなの?」
「ええ。数少ない、僕の友人の力を頼ろうと思いまして」

 そう言って、クリスくんはちょっとだけ悪い笑顔を浮かべた。
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