僕は底辺、家族は最強

ショマスター

文字の大きさ
上 下
9 / 9

シェナの過去話②

しおりを挟む
のどかな日差しが森の木々たちの隙間からこぼれ落ちている。そんな平和な森を快調に馬車は走っていく。教会のある村へ明日には着く予定だ。
「シェナちゃん。」
「ん?どしたの」
「それ、そんなに食べて大丈夫?」
「ん?」
そう、シェナの口にはフライシープの干し肉があった。あっただけならともかく、出発してからというもの、寝る時と食事の時以外はずっとかじっている。
「大丈夫ですよ。シェナは幼い頃からそれが大好きで、ずっと食べてるもんだから私達も心配だったんですが、これがしっかりご飯も食べるし、太らないし、病気になることもないんです。」
「へぇ...不思議っすね」
「フライシープへの愛は全てに勝つのだ...!」
「なるほど!俺の酒みたいなもんだな!」
「あんたは二日酔いで死にそうになってるでしょ」
「うん。酒盛りの次の日はいつもガンダ抜きで仕方なく報酬が低い仕事してる。」
「お前ら...」
「ま、まぁそういう時もありますって!元気だしてください?」
「フェリヌーニさん...!!」
「お父さんも酒盛りの次の日は仕事になってない」
「シェナ!?」
「あはは!シェナちゃんも言うわね~」
「言うことは言う女...!!」
「私そういう子好きよ。」
「ネナもズバズバ言うからねぇ。やっぱり相性良さそうね!2人は」
「あっちの2人もね。」
女子達が擬似的女子会をしている間、男ふたりは腕をくみかわしていた。






「さて、今日はここで野宿をしましょうか!明日にはキュルナに着くはずよ。」
「キュルナ?村じゃないの?」
「あぁ。キュルナは村じゃないな。ここら辺の村の中心にある、中心都市だよ。そこには領主様もいるんだ。」
「へぇ。それは楽しみ」
「あそこは美味いもんもいっぱいあるしな!明日は宴だ!!」
バコンッ
「イデッ」
「バカ言わないの。明後日はシェナちゃんの天啓の日なのよ?見なくてどうするの!」
「大丈夫だって!程々にしとくからよ!」
「ほどほどって言って、程々にした試しがないでしょ!」
「うぐ...」
「ありゃ、ハートにクリーンヒットッスねぇ」
「ガンダに10のダメージ」
「ガンダは倒れた。」
「あれは尻に敷かれますね~。私みたいに」
「お父さん、お母さんには勝てないもんね」
「母さんは怖いぞ...」
「ガンダさんとフェリヌーニさんは似たもの同士っすね!」
「さて、準備をしましょうか!」
「「「「「はーい(はいっす!)(おう!)(分かりました!)」」」」」









「ほら、これがキュルナよ。」
「おおー」
見たこともないほど大きな門を抜けるとそこには賑やかな大通りがまっすぐ伸びていた。
門近くの広場には噴水があり、そこでは大道芸人が技を披露し、その噴水を中心に伸びる3つの道には所狭しと家と店が並んでいた。
「おっきい...」
「ここにはギルドや教会、防具屋や武器屋などなどなんでも揃ってる。少し外れには魔法学校もあるよ。」
「ネナと俺はここの出身なんすよ。」
「そうだったんですね!通りで詳しいもんだ!」
「俺たちはここを拠点に活動をしてるから、そのせいってのもあるな!東の通りには美味い飲み屋があるんだ、シェナがおっきくなったら連れてってやるよ!」
「うん、ガンダの奢りね?楽しみにしておく。」
「ちゃっかりしてんなぁ」
「さ、おしゃべりはここまでにして、宿をとってしまいましょ。」
「宿なら、いつものとこでいいか!」
「あれ?宿って、帰りも同行してくださるのですか?」
「え?そうじゃないんすか?」
「私もそうおもってたんですが...?」
「わたしも」
「俺もだ」
「て、提示しておいた値段しか出せませんが...」
「それ込みでですよ?あの金額で、食事代を考えなくていいなんて、私たちぐらいのパーティには十分なんです。」
「そ、そうなんですか...で、では今度ともよろしくお願い致します!」 
「よろしく頼んだ、ガンダ、ネナ、ファンブ、ナナス」
「はい!よろしく頼まれました!」 
「じゃ、宿っすね!ギルドに報告がてら、宿空いてるか確認してみるっす!」
「頼んだわ、ファンブ。」
「ショッピングしよ、シェナ」
「ショッピング...!」
「なら俺は武器屋にでも行くか!」
「あ、私も行くわ。そろそろメンテナンスしたかったから。」
「では、私はファンブさんとギルドに行きますね。」
「父さんやる事あるの?」
「あぁ、ちょっと用事があるんだ。大丈夫だよ」
「了解...!」





「......いつものとこ、満室らしいっす...。」
各々の用事を済ませ、噴水のある広場に集まった。そこではまるで飼い犬が怒られた時のようにしょげるファンブ。
「仕方ない、あそこは意外と人気店。」
「そうそう仕方ないわ。」
「じゃあどうする?いつものとこ以外俺は知らねぇぞ?」
「それでよくやってこれたね、ガンド」
「これは、どこでも寝れるから。気しないで」
「でもどうするっすか?このままじゃ日が暮れちまいますよ?」
「ご安心ください...。」
「え?」
父さんがまるで絵本の中の貴族に使える執事のように右手を胸に当て、9腰を90度に曲げている。こころなしか父さんにライトが当たってるように見えた。
「このようなことがあっても良いよう、ギルドに居た人達に良い宿を聞いておりました。」
「でかした!フェリヌー二さん!で、どこだ!?」
「こちらでございます」
「フェリヌーニさんかっこいいっす!!」
と、男たちはどんどん進んでいく。
「はぁ...男どもは...」
「やっぱりバカ。」
「父さん恥ずかしい」
そうこぼしながらシェナたちも後ろをついていく。



「ここです、皆様方...。」
相変わらず執事のような立ち振る舞いで父さんが指さす先には、二階建ての少しボロボロな建物があった。
「ここは、『猪の寝床』というそうです。見た目は少しボロっちいですが、サービスと中の綺麗さはここの宿泊代では、少し経営が厳しいんじゃないかっていうほどだそうです。」
「ほう...酒は?」
「バッチリです。」
「そりゃいい!よし、ここにしよう!」
「酒酒酒って...いい加減にしなさいよ!?今日は酒抜き!もし破ったら、報酬の山分けなしにするからね!」
「そりゃねぇだろ...」
「父さんも...お酒禁止。破ったら、お母さんに言いつけるから。」
「な、シェナ!?」
「ある意味酒で身を滅ぼしてるっすね...」
「ファンブも気をつけて。あなたのちっちゃい子好きも度が過ぎればああなる。」
「な、何故それを...!?」
「私にあなたのことで知らないことは無い...!」
「まじっすか...」
「さ、それじゃ、早速宿に入りましょ。」
「はーい」
中に入ると、多くの冒険者や商人、旅人などがワイワイと騒いでいた。
「いらっしゃいませー!」
と、従業員の女性がこちらに来た。
「6名様ですか?何部屋にしましょう?」
「2人1組で3部屋で。なるべく部屋は近い方がいい。空いてる?」
「そうですね...」
と、宿場帳のようなものを見て、部屋を探す
「1部屋だけ角部屋になってしまいますが、よろしいでしょうか?」
「大丈夫です。それでお願いします。」
「わかりました。では、1部屋一日銀貨3枚です。」
「2日分お願い。はい、銀貨18枚ね。」
「はい、頂戴しました。当宿は風呂があります。15時から18時までは男性、18時半から21時半までは女性となっております。もし、間違いでもあった場合は、当店主が直々に追い出すそうなので、お気を付けください。では、鍵はこちらです。そちらの階段から2階へ行き、奥の突き当たり右側から3部屋続いてとなっております。ごゆっくりお楽しみください。」
「ありがとうございます。じゃあ、わたしたちはいつも通り、シェナちゃんとフェリヌーニにさんで1部屋使ってください。今は17時なので、それぞれ準備が終わったら、男性陣はお風呂に入りましょう。その間シェナちゃんは私の部屋に来てね。部屋は206号室よ。」
「はーい。」
「了解っす」
「では行きましょうか。シェナ、わたしたちは角部屋にしようか。」
「いえ、真ん中の部屋でお願いしたいです。何かあっても、直ぐに両側から動けるように。」
「なるほど、わかりました。ありがとうございます。」
「じゃあ、18時にここ集合っすよ!」
「うん。ご飯楽しみ」
「フライシープの干し肉より美味しいものはあるのか...!」
「2人とも大人しいと思ったら、そんなことかんがえてたの...」
「まぁ、2人ともいつものことだろ!ほら、行くぞ!」
そう言って、部屋はフェリヌーニ1家、ネナとナナス、ファンブとガンドに別れて部屋に入った。
お風呂やまぁフライシープの干し肉には及ばないけど、美味しいご飯を食べ、ネナとナナスと夜どうしお話して、うちよりも良い布団で3人でぐっすり眠った。父さん達3人は酒を飲めない寂しさを語り合うことで慰めてたみたい。
そして、天啓の日、運命の日の夜が明ける。
しおりを挟む

この作品の感想を投稿する


処理中です...