上 下
4 / 9

4話 天啓の日③

しおりを挟む
「次、シャーム=テリクス。」
「はい!」
ついに俺の番が来た。
俺が一歩踏み出すと、そこに天啓台への道ができる。まるで、この世界が全人類が俺を祝福してくれてるかのような、世界を統べる王となったかのような感覚に襲われる。
「さ!シャーム様!」
「おう!!」
一歩一歩天啓台へ向けて足を踏み出す。
この先に待ち受けるみらいへ今、一歩。
「さぁ。シャーム=テリクス。手を。」
神殿に静寂が訪れる。
誰も息を飲み、視線を俺に向ける。
ゆっくりと、天啓球に触れる。

.....................。
冷や汗が飛び出る。
鼓動が早くなる。
息が荒れる。
何度も、何度も天啓球に触れる。
けど...それでも光らない。
いや、光っていない訳では無い。
すこし。ほんの少しだけ、今にも消えそうなほど小さく弱い光だ。
神官を見る。目を合わせない。
なんで...。
何度も、何度も、何度も、何度も、何度も、何度も、触れる。触れる。触れる。触れる。
なぜ、どうして、うそだ、そんなはずは無い、夢だ、嫌だ......嫌、だ...。
...後ろから突き刺すような目線を感じる。
まるで壊れた玩具のように俺は目線の方へ顔を向ける。
そこには、落胆し泣き出している母さんと、まるで害虫を見るかのような目で俺を見る父さんがいた。
やめて...なんで、なんでそんな目で見るのさ...。
そんな、敵を見つめるような、仇を見つめるような目で俺を見るんだよ...。
なんで...だよ...。
「うわぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!」
もうどうしたらいいのか分からない。
でもここにはいたくない。
あんな痛い視線を受けたくない。
だから、走る。
神殿に詰め込まれている人の波をかき分けて、目線とは逆の出入口へ逃げる。


もうとこまで来たかも分からない。
息が切れ、日も落ちかけた頃、1度俺は止まった。
「あ...あ、あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」
叫ぶ。ただ叫ぶ。何かも分からないこの気持ちを全て吐き出すかのようにただ叫ぶ。
意味もない言葉を、ただの文字の羅列を叫ぶ。
そして、叫ぶことにも疲れ呆然と立っていると、後ろから光が来る。
「シャーム様。」
「...ユリトス。」
そこには馬車に乗った執事ユリトスがいた。
「お迎えに上がりました。」
「...そつか。」
「さぁ、戻りましょう。」
「......うん。」
ユリトスの引く馬車で家路につく。
外はもう暗く、いくらかある農家の家の明かりだけが見える。
それからうちに着くまで俺とユリトスは一言も交わさなかった。

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
「...ただいま。」
誰の返事もない。
いつもなら、ルーン姉が1番に俺の下へ来て「おかえり!シャーム!」と綺麗な笑顔で言ってくれるのに。
メイドもいない。ユリトス以外の執事もいない。
俺は重いのか軽いのか分からない足で歩を進め、部屋につき、ベットに倒れ込む。
そして、まるでそこから消えるかのように、深い、深い眠りにつく。

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
強い日差しがあたり、目が覚める。
昨日の事が脳裏に蘇る。
「......はぁ。」
1つ大きなため息をつく。その時、部屋の扉が開いた。
「シャーム様。ガランス様がお呼びです。」
ユリトスだ。
「わかった。」
昨日、服を着替えずに眠ってしまったので、汚れた服そのままの格好でユリトスに続いて歩く。
俺が通った通路には誰もいない。家族どころか、メイドや執事でさえも。
そして、父さんの書斎の前に着く。
コンコン...
「ガランス様。シャーム様をお連れ致しました。」
「入れ...。」
重く低い声が扉の奥から聞こえる。
その声を聞いた瞬間、震えが止まらなくなる。
昨日の、あの、目線が、蘇る。
ガチャ...。
「どうぞ。」
ユリトスに促され、中に入る。
バタン....。無慈悲にもユリトスは中へ入らず、扉は閉まる。
「シャーム。お前にいくつか話があって呼んだ。」
「...はい。」
「まずお前の職についてだ。」
重い口を開け、さらに重たい声に言葉を乗せて言う。
「お前の職は最弱職『見守る者』だ。」
全身から冷や汗が滲み出る。
震えが一層激しくなる。
「まさか、我がテリクス家から最弱職が出るとは思わなかった。」
一つ一つの言葉が俺の心へとつきささる。
「そしてだ。シャーム、お前を我が家から追放することにした。」
「え......?」
思考が止まる。
追放?ついほう?ツイホウ?つい...ほう?
<追放>という単語のみが脳内を駆け巡る。
「そうだ。追放だ。お前は今この時点からただの<シャーム>となる。猶予は1日。明日の早朝にはこの家を出ていってもらう。わかったな。それまでに準備しておけ。」
何も言えない。言葉が見つからない。
「要件は以上だ。部屋に戻れ。」
ただ、父さんの言うことに従い、書斎を出て部屋へ向かう。
書斎を出たところには母さんとバース兄さん、ライナ姉さんにシンガー兄さんがいた。
「シャーム。あなたはもう私の息子でも、あの人、ガランスの息子でもありません。」
母さんはまるで罪人を見るかのような目で俺を見て言った。
兄さんや姉さん達は何も言わず、バース兄さんは哀れみの表情で、ライナ姉さんは悔しそうに目線をそらし、シンガー兄さんはいつもと変わらない表情で俺を見る。
「...はい。お世話になりました。」
そう言って俯き、部屋に向かうおうとしたところでシンガー兄さんが耳打ちしてくる。
「笑えるな。」
悟る。この一言に全てが詰まってる。
俺の家族は...家族だったものは俺に存在価値を見出していない。それどころか、罪人と同じような存在と思っているんだ。職が良くなければゴミ同然。罪人同然なのだと。俺が生まれた時からそう考えていたんだ。
怒りもわかない。呆れもしない。ただ、納得がいっただけだ。
あの視線も。あの対応も。何もかも。
母さんがルーン姉が俺の部屋に来た時に写真を撮りに来たのもルーン姉と同じぐらいの歳の誰かの2人組を撮りたいから。そうすればルーン姉が映えるから。
父さんが俺に厳しく鍛錬させたのも、部隊として使うため。
兄さんたちも同じだろう。
なんだか、心が少し軽くなった気がする。
まるで世界の全てを理解したかのようなそんな気持ちだ。
少し軽くなった足取りで部屋へ向かう。
部屋に着く前、ひとつのことに気づく。
「...あれ?」
1人、会っていない。そう。ルーン姉だ。
ルーン姉はどこにいるのだろうか。ルーン姉も俺を他の家族のように見ているのだろうか。
そう考えているともう部屋に着いていた。
部屋を開ける。
「え...??」
「おかえり。シャーム。」
そこにはルーン姉が立っていた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】父が再婚。義母には連れ子がいて一つ下の妹になるそうですが……ちょうだい癖のある義妹に寮生活は無理なのでは?

つくも茄子
ファンタジー
父が再婚をしました。お相手は男爵夫人。 平民の我が家でいいのですか? 疑問に思うものの、よくよく聞けば、相手も再婚で、娘が一人いるとのこと。 義妹はそれは美しい少女でした。義母に似たのでしょう。父も実娘をそっちのけで義妹にメロメロです。ですが、この新しい義妹には悪癖があるようで、人の物を欲しがるのです。「お義姉様、ちょうだい!」が口癖。あまりに煩いので快く渡しています。何故かって?もうすぐ、学園での寮生活に入るからです。少しの間だけ我慢すれば済むこと。 学園では煩い家族がいない分、のびのびと過ごせていたのですが、義妹が入学してきました。 必ずしも入学しなければならない、というわけではありません。 勉強嫌いの義妹。 この学園は成績順だということを知らないのでは?思った通り、最下位クラスにいってしまった義妹。 両親に駄々をこねているようです。 私のところにも手紙を送ってくるのですから、相当です。 しかも、寮やクラスで揉め事を起こしては顰蹙を買っています。入学早々に学園中の女子を敵にまわしたのです!やりたい放題の義妹に、とうとう、ある処置を施され・・・。 なろう、カクヨム、にも公開中。

【完結】言いたいことがあるなら言ってみろ、と言われたので遠慮なく言ってみた

杜野秋人
ファンタジー
社交シーズン最後の大晩餐会と舞踏会。そのさなか、第三王子が突然、婚約者である伯爵家令嬢に婚約破棄を突き付けた。 なんでも、伯爵家令嬢が婚約者の地位を笠に着て、第三王子の寵愛する子爵家令嬢を虐めていたというのだ。 婚約者は否定するも、他にも次々と証言や証人が出てきて黙り込み俯いてしまう。 勝ち誇った王子は、最後にこう宣言した。 「そなたにも言い分はあろう。私は寛大だから弁明の機会をくれてやる。言いたいことがあるなら言ってみろ」 その一言が、自らの破滅を呼ぶことになるなど、この時彼はまだ気付いていなかった⸺! ◆例によって設定ナシの即興作品です。なので主人公の伯爵家令嬢以外に固有名詞はありません。頭カラッポにしてゆるっとお楽しみ下さい。 婚約破棄ものですが恋愛はありません。もちろん元サヤもナシです。 ◆全6話、約15000字程度でサラッと読めます。1日1話ずつ更新。 ◆この物語はアルファポリスのほか、小説家になろうでも公開します。 ◆9/29、HOTランキング入り!お読み頂きありがとうございます! 10/1、HOTランキング最高6位、人気ランキング11位、ファンタジーランキング1位!24h.pt瞬間最大11万4000pt!いずれも自己ベスト!ありがとうございます!

愛していました。待っていました。でもさようなら。

彩柚月
ファンタジー
魔の森を挟んだ先の大きい街に出稼ぎに行った夫。待てども待てども帰らない夫を探しに妻は魔の森に脚を踏み入れた。 やっと辿り着いた先で見たあなたは、幸せそうでした。

【完結】20年後の真実

ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。 マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。 それから20年。 マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。 そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。 おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。 全4話書き上げ済み。

晴れて国外追放にされたので魅了を解除してあげてから出て行きました [完]

ラララキヲ
ファンタジー
卒業式にて婚約者の王子に婚約破棄され義妹を殺そうとしたとして国外追放にされた公爵令嬢のリネットは一人残された国境にて微笑む。 「さようなら、私が産まれた国。  私を自由にしてくれたお礼に『魅了』が今後この国には効かないようにしてあげるね」 リネットが居なくなった国でリネットを追い出した者たちは国王の前に頭を垂れる── ◇婚約破棄の“後”の話です。 ◇転生チート。 ◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。 ◇なろうにも上げてます。 ◇人によっては最後「胸糞」らしいです。ごめんね;^^ ◇なので感想欄閉じます(笑)

「不細工なお前とは婚約破棄したい」と言ってみたら、秒で破棄されました。

桜乃
ファンタジー
ロイ王子の婚約者は、不細工と言われているテレーゼ・ハイウォール公爵令嬢。彼女からの愛を確かめたくて、思ってもいない事を言ってしまう。 「不細工なお前とは婚約破棄したい」 この一言が重要な言葉だなんて思いもよらずに。 ※約4000文字のショートショートです。11/21に完結いたします。 ※1回の投稿文字数は少な目です。 ※前半と後半はストーリーの雰囲気が変わります。 表紙は「かんたん表紙メーカー2」にて作成いたしました。 ❇❇❇❇❇❇❇❇❇ 2024年10月追記 お読みいただき、ありがとうございます。 こちらの作品は完結しておりますが、10月20日より「番外編 バストリー・アルマンの事情」を追加投稿致しますので、一旦、表記が連載中になります。ご了承ください。 1ページの文字数は少な目です。 約4500文字程度の番外編です。 バストリー・アルマンって誰やねん……という読者様のお声が聞こえてきそう……(;´∀`) ロイ王子の側近です。(←言っちゃう作者 笑) ※番外編投稿後は完結表記に致します。再び、番外編等を投稿する際には連載表記となりますこと、ご容赦いただけますと幸いです。

【本編完結】さようなら、そしてどうかお幸せに ~彼女の選んだ決断

Hinaki
ファンタジー
16歳の侯爵令嬢エルネスティーネには結婚目前に控えた婚約者がいる。 23歳の公爵家当主ジークヴァルト。 年上の婚約者には気付けば幼いエルネスティーネよりも年齢も近く、彼女よりも女性らしい色香を纏った女友達が常にジークヴァルトの傍にいた。 ただの女友達だと彼は言う。 だが偶然エルネスティーネは知ってしまった。 彼らが友人ではなく想い合う関係である事を……。 また政略目的で結ばれたエルネスティーネを疎ましく思っていると、ジークヴァルトは恋人へ告げていた。 エルネスティーネとジークヴァルトの婚姻は王命。 覆す事は出来ない。 溝が深まりつつも結婚二日前に侯爵邸へ呼び出されたエルネスティーネ。 そこで彼女は彼の私室……寝室より聞こえてくるのは悍ましい獣にも似た二人の声。 二人がいた場所は二日後には夫婦となるであろうエルネスティーネとジークヴァルトの為の寝室。 これ見よがしに少し開け放たれた扉より垣間見える寝台で絡み合う二人の姿と勝ち誇る彼女の艶笑。 エルネスティーネは限界だった。 一晩悩んだ結果彼女の選んだ道は翌日愛するジークヴァルトへ晴れやかな笑顔で挨拶すると共にバルコニーより身を投げる事。 初めて愛した男を憎らしく思う以上に彼を心から愛していた。 だから愛する男の前で死を選ぶ。 永遠に私を忘れないで、でも愛する貴方には幸せになって欲しい。 矛盾した想いを抱え彼女は今――――。 長い間スランプ状態でしたが自分の中の性と生、人間と神、ずっと前からもやもやしていたものが一応の答えを導き出し、この物語を始める事にしました。 センシティブな所へ触れるかもしれません。 これはあくまで私の考え、思想なのでそこの所はどうかご容赦して下さいませ。

婚約者に消えろと言われたので湖に飛び込んだら、気づけば三年が経っていました。

束原ミヤコ
恋愛
公爵令嬢シャロンは、王太子オリバーの婚約者に選ばれてから、厳しい王妃教育に耐えていた。 だが、十六歳になり貴族学園に入学すると、オリバーはすでに子爵令嬢エミリアと浮気をしていた。 そしてある冬のこと。オリバーに「私の為に消えろ」というような意味のことを告げられる。 全てを諦めたシャロンは、精霊の湖と呼ばれている学園の裏庭にある湖に飛び込んだ。 気づくと、見知らぬ場所に寝かされていた。 そこにはかつて、病弱で体の小さかった辺境伯家の息子アダムがいた。 すっかり立派になったアダムは「あれから三年、君は目覚めなかった」と言った――。

処理中です...