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真夜中 痛覚 月

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突然だが、俺は幽霊だ。しかも、死んだ場所にこびりつく地縛霊や、目的もなくフラフラしてる浮浪者のような浮遊霊でもない。俺は、自分の意思と、希望と、恨み辛みをその身に宿した、生粋の悪霊だ。

生前のことはほとんど覚えてはいないが、この霊体になっても閉じることの無い腹に空いた刺傷が致命傷だったのは覚えている。
クザッと音がしたような気がし、腹が熱くなる。
「え、は?えぇ...?」
疑問と恐怖に遅れて鋭い痛みがじんわりと全身に染み渡る。痛覚を感じたことが、まだ死んでいないことを確認できるただ1つだった。まぁあの状況ではおかしなことだが。
んで、その記憶だけを持って今は幽霊やってる訳だが、俺を殺した犯人も、場所も、時刻も分からない、なぜ殺されなきゃいけなかったのか、なにも分からないままだ。けど、俺を殺した恨みは晴らさないと気が済まねぇ。
そうやって、あっちをフラフラ、こっちをフラフラと、記憶を探して、犯人探して渡り歩いている、流浪の幽霊つう訳だ。

さてさてさてさて。今日も今日とて、放浪放浪。そこらに湧いてる幽霊共に話を聞きつつ、宛先探しの一人旅。どこにでもある住宅街を進み、最近火事があったらしいボロアパート跡地を過ぎ去る。
なんてことなしに、家と家の間にできた細い隙間へ曲がってみる。まぁこういうとこって幽霊溜まりやすいしな。
優しく照らす月明かりと、暗く深い影の美しさ。真夜中という特別感ある時間帯に少し気分が上がる。
「ふんふんふふーん♪」
そう鼻歌でも歌っていた時。その細い道は終わりを迎えた。
目の前に広がったのは、長い長い石階段。知識としては覚えている、神社とかにあるやつだ。
周囲は森と闇が覆う。石階段の脇には灯篭が等間隔で並べられ、月光と共に辺りを照らしていた。
なにかに導かれるように、その長い石階段を登っていく。まぁ足ないから、浮いてるんだけどな。
長い長い石階段。先が見えない石階段を登る。
そして、登りきった時、また世界が変わったように見えた。階段を上がってすぐには、巨大な鳥居、対に並ぶ狛犬が多分10組は並んでたと思う。
そこを抜けるとあったのは、知識には一切ないほど大きい神社の社。巨大な社の前には、これまたどデカいあのガシャガシャやる紐と、お賽銭箱。
「いや、金ねぇしなぁ」
と、つぶやくと、右手に感触が現れた。お金だ。不気味に思ったが、そもそも幽霊である俺もそっち側だと思い、チャリンチャリンとお金を投げ入れ、ガチャンガチャンと鈴を鳴らす。パンパンと鳴らし、『俺の記憶が戻って、犯人が見つかりますように』そう願ってみた。その瞬間、社の扉がパァァァァン!!!と、大きい音を立てて開いた。
「そなたの願いしかと聞き届けた!この私と、私のお嫁さんのこの子が、叶えてやろう!その代わり、貴様も手伝え!!!」
そう、言ったのは、幼い感じの巫女。そしてその横には呆けて立つ社畜のような女性がいた。
そこから、俺のよく分からない幽霊人生が始まったらしい。
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