訳あり令嬢の偽りごと(仮)

七宮 ゆえ

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真実のお話編

遠い遠いおとぎ話

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 遠い遠い昔のお話。
 エリスハント大陸にある大国、リエラネル王国には、それはそれはとても優秀な王子様がおりました。
 王子様は品行方正、公明正大、眉目秀麗と絵に書いたような素晴らしい方でした。
 そんな王子様は年頃になると、毎日のように縁談話が持ち込まれるようになりました。王子様の妃にと、多くの貴族やその令嬢が次々に名乗り上げてきたのです。
 婚約者のいなかった王子様はそれらを無闇やたらと無下にすることも出来ずに大変困り果てていました。
 そしてある日、毎日持ち込まれる令嬢達の書類を眺めるのにうんざりし果てた王子様は、誰にも内緒でこっそりとお城を抜け出してしまったのです。
 久しぶりに城下町へと訪れた王子様は、王子という肩書きを気にせずにいられるように魔法で自分の姿を変えて、思う存分羽を伸ばしていました。

 そんな時、王子様は一人の少女と出会うのです。

 その少女は、大輪の花が綻ぶ寸前の如く可憐で美しく、またそれはそれは心優しい少女でした。
 王子様は、少女と言葉を交わすうちにその少女に興味を持つようになりました。
 王子様は、次第に少女へ惹かれていったのです。
 少女を自分の妃へと迎えたい。彼女とならこれからの時を共に過ごしていける。
 そう思った王子様はしばらく経ったある日、とうとう少女に想いを告げたのでした。
 初めは驚いたものの、少女もまた何度も王子様と会ううちに惹かれていたため、その言葉にとても喜びました。

 しかし、お話しは簡単にハッピーエンドで終わらせてはくれませんでした。
 王子様の正体を知った少女は、あまりの身分の違いから一緒になることが出来ないと絶望してしまうのです。少女の家は子爵家ではありましたが、少女自身は庶子で半分しか貴族の血を引いていなかったのですから。
 しかし、王子様は決して少女のことを諦めたりはしませんでした。
 既に両思いとなっていた二人に残る障害、つまりは身分の差をなんとかしようと王子様は奮闘することになります。
 そんな王子様に天は味方をしたのでしょう。ある日偶然、王子様は少女の出生の秘密を知ることになるのです。
 庶子だとされていた少女は、実は母親が今は亡き公爵家の出身だったのです。その公爵家はとある事件が原因で一家諸共亡くなってしまっていたので、実質公爵家の血を引く者は少女一人だったのです。
 その事を知った王子様はすぐさま行動に移します。少女の母親の公爵家を立て直させて跡取りとし、そうすることで身分という越えられない壁を壊したのでした。
 そうして二人はめでたく結ばれることが出来たのでした。

 このお話は、何百年たった今でも尚有名なおとぎ話として受け継がれてきました。
 お互いのことを最期まで愛し続け、また愛され続けた二人の恋物語は、国民が憧れる物語でもありましたから。


 ですがそんな夢のような物語は、実際のところ仕組まれたお話でしかありませんでした。
 その物語の、本当の事実を知るものはごく一部の人のみ。
『めでたしめでたし』で終わったこの物語は、果たしてどこまでが真実でどこからが嘘なのでしょうか。
   



 ———これは、そんな物語の元となった少女と王子様の、殆どの人が知る由もない真実の物語———


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