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一章

41.終幕に向けて1

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そして三日後。人身売買の準備の為にテオやエドワードが動き始める日。
その日ミルフィはテオから少し私用があり一週間程孤児院を離れるという説明を受けていた。

「それじゃあ、もうこれから出発なんですか?」
「そうなるな。用事が片付き次第、なるべく早く戻ってこれるようにはするつもりなんだけどな……」

驚きに満ちた声音でミルフィが尋ねると、少しだけ困ったかのように眉を下げたテオ。つまりは早く戻りたくても戻れないということらしい。
そんなこと、というよりもそもそもテオの本来の予定を知っているミルフィからしてみれば、でしょうねと思わずにはいられなかった。
けれどもミリアがその事を知っているのはおかしいので、「そうなんですね……」と寂しそうに笑うだけに留める。

「でも、それもお仕事なんですもんね。テオさん、頑張ってきてくださいね」

拳をぐっと握り締めて、ミルフィは言った。
内心で「本当は手を抜いていてもらった方がありがたいのだけれど」と呟きながら。
しかし、ミルフィの心情など知る由もないテオは、その言葉に力強く頷いた。

「ああ。それまでの間、申し訳ないけれど子供達のことをよろしくな」
「お任せ下さい!!」

ビシッという効果音が付きそうな程に切れよく敬礼をしたミルフィに、テオは思わずというふうに笑う。
そんなテオを見て、ミルフィは恥ずかしそうに、そしてほんの少し恨めしそうにテオを睨みつけた。だが、本人にとって睨みつけているそれは、テオからしてみれば拗ねた子供が上目遣いにこちらを見ているようにしか見えなかったようだ。
ふっと息を漏らして笑いを堪えるテオに、ミルフィは酷く傷ついた表情を作ると、弱々しく抗議するかのように呟く。

「そ、そんなに笑わなくたって……」
「いや、うん、ミリアちゃんはきっと良い衛兵になれと思うよ」
「そんな噴き出す寸前の顔で言われても余計に居た堪れないんですけど……。もういっそ爆笑された方がましなんですけど……」

拗ねたようにふいっと顔を背けるミルフィを見て、堪えきれなくなったテオがとうとう噴き出した。

「あっはっはっはっは!!駄目だ、腹が痛い!」
「な、何もそこまで笑わなくたって」

顔を真っ赤にしながらますます拗ねてしまうミルフィに、今度は微笑ましそうに笑みを浮かべて、してその頭の上にぽんっと手を置いた。
突然のことに目を瞬かせたミルフィに、テオはそのまま数度ぽんぽんっと優しく叩く。

「ま、取り敢えずよろしくな。ミリアちゃんなら大丈夫だろうし」
「……大丈夫ですよ。ちゃんとみんなのことは見てますから」

でも、用事は早く終わらせてきて下さいね、と若干むくれたまま告げると、テオは苦笑しながらも頷いてくれた。

「それじゃあ、行ってくるよ」
「はい、行ってらっしゃいませ」





「さて、私も準備を致しましょうか」

ミルフィはテオを見送るために外へと出て、その後ろ姿が見えなくなるまで大きく手を振っていたが、テオが見えなくなった途端にすっと〝ミリア〟としての笑みを消した。

(ペンダントはフィルに持たせたままだから、制御が効かなくて困るのよね……。最初から本気になるのもまた大変なんだけれど)

仕方が無いことだとは理解しているが、それでもとミルフィは愚痴をこぼしてしまう。

「でも、そうは言ってられないのよね。急がないと」

そうして、ミルフィは最後の下準備を始めるのだった。
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みんなの感想(2件)

リリーフ
2019.07.30 リリーフ

とっても、面白いです。

解除
モルガナ
2018.11.23 モルガナ
ネタバレ含む
七宮 ゆえ
2018.11.25 七宮 ゆえ

モルガナ 様

感想ありがとうございます。

アルベルトについては私が言ってしまうとネタバレに継ってしまうので何も言えないのですけれど、モルガナ様が憤りを感じるのも無理ないかと思います。
我ながら書いていて一度目のアルベルト最低だなって思いますし。
最終的にどうなるのかは今はまだ言えませんが、これからもミルフィのことをそっとみまもっていてほしいです( ´・ω・`)

そして最近は中々更新出来ていないのですが、頑張って近いうちに更新する予定ですのでこれからもお楽しみくださればと思います( ˙꒳​˙ )

解除

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