上 下
28 / 42
一章

27.敵か味方か2

しおりを挟む
そう言って笑ったセシリアを見て、アルベルトは眉を寄せた。
   セシリアの言葉にはいそうですか、などと簡単に頷けるはずもなく、しかしだからと言って違うなどと勝手に決めつけることもしない。
 アルベルトはその言葉の真意を見極めようとその先を続けるように促した。

「まあ、二人に疑われたままでも良かったんだけれどね?けれどレオンハルト様から手を貸してあげてって言われちゃったからさ」

 ひょっとして、とアルベルトは一つの予想を立てる。  

「……レオンハルトって第二王子のことか?」

 それ以外に何があるのと言いたげな表情でセシリアが頷く。

「私はレオンハルト様の〝影〟だから」

 そしてアルベルトの予想通りの答えが返って来た。
 そんなこと一言も言ってなかったと少しだけレオンハルトへ不満を抱きながら、そういうことかと頷いた。
 しかし、まだ信用は出来ない。
 もしかしたら嘘を言っている可能性だってまあ、僅かではあるがあるかもしれないのだ。

「レオンハルト殿下の配下だという証拠は?」
「本当に疑い深いのねぇ、貴方って」

 しみじみとセシリアが呟く。
 用心深いことは騎士として当たり前なのかしらね?と特に関係のない感想を漏らしながら懐から一枚の書状を取り出した。
 そして、それをアルベルトへと放り投げる。

「レオンハルト様の直筆よ」

 貴方なら分かるでしょう?と問われ、アルベルトは静かに頷いた。
 そして受け取った書状を丁寧に開く。



 ミルフィとアルへ    

    僕の〝影〟は有能だろう?公爵に近付けるよう、きちんと君たちが警戒するような素晴らしい演技をしてくれていたはずだから、二人共……いや、少なくともアルはきっとセシリアの話だけを聞いても疑うだろうなぁ、と思ってこの手紙をセシリアに託したんだ。僕の直筆であることくらい、二人なら簡単に分かるだろうしね。
 さて、手短に纏めておくよ。ミルフィには直接動くなと言われたからこうしてセシリアに色々探ってもらいがてら、こっそりと情報を嗅ぎまわっていたんだけれど新たに有益な情報を手に入れたからこの際セシリアの手に入れていた情報も一緒に二人に提供しておこうかと思って。多分この証拠だけでも充分に公爵を捕らえられるだろうとは思うけれど、どうせならその後ろにいる奴らも釣っておきたいだろう?
 とりあえずは渡しておくからそれをどう活用するかはそっちでやってくれ。
 では、健闘を祈っているよ。        

    レオンハルト



 手紙を一通り読み終えると、アルベルトは溜め息をつく。

「……たしかに、レオンの字だ」

 レオンハルトを愛称で呼んだアルベルトは、手紙の最後の方で脱力しかけた。

(つまり、証拠は渡すからあとはよろしくということか……)

 要は、後処理含むこれからのことを全て此方へ丸投げしたということだ。
 自分の管理下にある家のことだろうと呆れてしまう。

「まあ、そういうことだから、私はは貴方達の敵になることはないのよ?」

 その言葉の裏に込められた意味を理解したアルベルトは、苦虫を噛み潰したような表情になった。

は、か」

 その呟きを拾ったセシリアは、しかしなんの反応も示すことなく壁に固定されている本棚へとむかって行った。そしてその中から一冊の本を取り出すと、どこからともなく鍵を取り出して、そして本に取り付けられていた南京錠へと指した。
 鍵を回すとカチリ、と小気味良い音がなり、そして本が開く。
 本の中は空洞だった。そしてその中にいくつかの紙が入っていた。

「これがレオンハルト様から預かっていた証拠の書類」

 その紙を手にしたセシリアがアルベルトへと近付いてきて、そしてその近くにあった机の上に置く。

「そしてこっちが私からの情報」

 次にエプロンの裏に潜ませていた書類を机の上に置いた。
 それを手にしたアルベルトは簡潔に礼を述べるとそれらにさっと目を通してすぐさま自らの懐へと仕舞い込んだ。

「私からは以上よ。何か質問はある?」
「殿下には話してあるのか?」
「ミリアちゃんに?いいえ、話してないわよ?」

 その言葉を聞いてアルベルトはじゃあなんで俺だけ今話されたんだと疑問に思う。

「まあ、ミリアちゃんは確信が付いているわけではないけれど、私にどこか違和感を感じているみたい」

 自力でミリアちゃんの場合は私の正体に気付きそうな感じなのよね、とセシリアは続けて言う。

「それに旦那様って変なところで勘がいいから、ミリアちゃんが旦那様と話している隙に話しておいた方が暴露ばれる確率が減るのよ」

 そう言うわけだから話すなら今しかないと思って、と言うセシリアにアルベルトはそういうことかと納得した。

「なら、後で俺から殿下には話しておくことにする」
「そうして頂戴。それじゃあ、戻りましょうか」

 いつものセシリアの様な笑みを浮かべて、アルベルトと来た道を戻っていく。

「そろそろミリアちゃんも部屋に戻っている頃だし、丁度良い時間になって良かったわ」

 ほんの少しだけ安堵を滲ませた声音でセシリアが呟く。
 廊下に出て、二人はミルフィの部屋へと進んで行った。

「ミリアちゃん、旦那様から手紙預かって来たー?」

 部屋の中にいるであろうミルフィに話しかけながら扉を叩くが、中からは返事がなかった。

「ミリアちゃん?」

 不思議そうにセシリアがもう一度中へと呼びかけるが、結果は同じ。

「おかしいわね……手紙を渡すだけだって旦那様言ってたから、もう戻って来ていてもおかしくない時間帯なのだけれど……」
「ミリアがどこかに寄るとは考えられないしな……」

 どこにエドワードと裏で繋がっている人がいるか分からない場所で、迂闊な行動は最も避けている筈である。
 それなのに部屋にいないとなるならば、ミルフィは一体どこにいるのだろうか。

「まだ執務室にいるとか?」
「だって手紙を受け取るだけよ?そんなのに十分以上かかる訳ないじゃない」

 アルベルトの言葉を否定したセシリアだが、その後少し考える素振りを見せ、まさかと声を漏らした。

「え、嘘……流石にいくらなんでも早過ぎない?……いえ、でもミリアちゃんが平民だったらそんなこと気にしないかもしれないわね、……あの変態の場合は。……ああ、不味いわねこれは」

 独り言を続けるセシリアに痺れを切らしたアルベルトが、何が不味いんだと訝しげにセシリアに尋ねた。
 若干青ざめながらセシリアがアルベルトを見上げ、衝撃的な言葉を発した。

「ミリアちゃん、襲われてるかも……」

 その言葉の意味をいまいち良く理解出来ずに、アルベルトは首を捻った。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

幼妻は、白い結婚を解消して国王陛下に溺愛される。

秋月乃衣
恋愛
旧題:幼妻の白い結婚 13歳のエリーゼは、侯爵家嫡男のアランの元へ嫁ぐが、幼いエリーゼに夫は見向きもせずに初夜すら愛人と過ごす。 歩み寄りは一切なく月日が流れ、夫婦仲は冷え切ったまま、相変わらず夫は愛人に夢中だった。 そしてエリーゼは大人へと成長していく。 ※近いうちに婚約期間の様子や、結婚後の事も書く予定です。 小説家になろう様にも掲載しています。

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

初夜に「君を愛するつもりはない」と夫から言われた妻のその後

澤谷弥(さわたに わたる)
ファンタジー
結婚式の日の夜。夫のイアンは妻のケイトに向かって「お前を愛するつもりはない」と言い放つ。 ケイトは知っていた。イアンには他に好きな女性がいるのだ。この結婚は家のため。そうわかっていたはずなのに――。 ※短いお話です。 ※恋愛要素が薄いのでファンタジーです。おまけ程度です。

元侯爵令嬢は冷遇を満喫する

cyaru
恋愛
第三王子の不貞による婚約解消で王様に拝み倒され、渋々嫁いだ侯爵令嬢のエレイン。 しかし教会で結婚式を挙げた後、夫の口から開口一番に出た言葉は 「王命だから君を娶っただけだ。愛してもらえるとは思わないでくれ」 夫となったパトリックの側には長年の恋人であるリリシア。 自分もだけど、向こうだってわたくしの事は見たくも無いはず!っと早々の別居宣言。 お互いで交わす契約書にほっとするパトリックとエレイン。ほくそ笑む愛人リリシア。 本宅からは屋根すら見えない別邸に引きこもりお1人様生活を満喫する予定が・・。 ※専門用語は出来るだけ注釈をつけますが、作者が専門用語だと思ってない専門用語がある場合があります ※作者都合のご都合主義です。 ※リアルで似たようなものが出てくると思いますが気のせいです。 ※架空のお話です。現実世界の話ではありません。 ※爵位や言葉使いなど現実世界、他の作者さんの作品とは異なります(似てるモノ、同じものもあります) ※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。

まだ20歳の未亡人なので、この後は好きに生きてもいいですか?

せいめ
恋愛
 政略結婚で愛することもなかった旦那様が魔物討伐中の事故で亡くなったのが1年前。  喪が明け、子供がいない私はこの家を出て行くことに決めました。  そんな時でした。高額報酬の良い仕事があると声を掛けて頂いたのです。  その仕事内容とは高貴な身分の方の閨指導のようでした。非常に悩みましたが、家を出るのにお金が必要な私は、その仕事を受けることに決めたのです。  閨指導って、そんなに何度も会う必要ないですよね?しかも、指導が必要には見えませんでしたが…。  でも、高額な報酬なので文句は言いませんわ。  家を出る資金を得た私は、今度こそ自由に好きなことをして生きていきたいと考えて旅立つことに決めました。  その後、新しい生活を楽しんでいる私の所に現れたのは……。    まずは亡くなったはずの旦那様との話から。      ご都合主義です。  設定は緩いです。  誤字脱字申し訳ありません。  主人公の名前を途中から間違えていました。  アメリアです。すみません。    

うたた寝している間に運命が変わりました。

gacchi
恋愛
優柔不断な第三王子フレディ様の婚約者として、幼いころから色々と苦労してきたけど、最近はもう呆れてしまって放置気味。そんな中、お義姉様がフレディ様の子を身ごもった?私との婚約は解消?私は学園を卒業したら修道院へ入れられることに。…だったはずなのに、カフェテリアでうたた寝していたら、私の運命は変わってしまったようです。

婚約破棄された検品令嬢ですが、冷酷辺境伯の子を身籠りました。 でも本当はお優しい方で毎日幸せです

青空あかな
恋愛
旧題:「荷物検査など誰でもできる」と婚約破棄された検品令嬢ですが、極悪非道な辺境伯の子を身籠りました。でも本当はお優しい方で毎日心が癒されています チェック男爵家長女のキュリティは、貴重な闇魔法の解呪師として王宮で荷物検査の仕事をしていた。 しかし、ある日突然婚約破棄されてしまう。 婚約者である伯爵家嫡男から、キュリティの義妹が好きになったと言われたのだ。 さらには、婚約者の権力によって検査係の仕事まで義妹に奪われる。 失意の中、キュリティは辺境へ向かうと、極悪非道と噂される辺境伯が魔法実験を行っていた。 目立たず通り過ぎようとしたが、魔法事故が起きて辺境伯の子を身ごもってしまう。 二人は形式上の夫婦となるが、辺境伯は存外優しい人でキュリティは温かい日々に心を癒されていく。 一方、義妹は仕事でミスばかり。 闇魔法を解呪することはおろか見破ることさえできない。 挙句の果てには、闇魔法に呪われた荷物を王宮内に入れてしまう――。 ※おかげさまでHOTランキング1位になりました! ありがとうございます! ※ノベマ!様で短編版を掲載中でございます。

処理中です...