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一章

19.掴んだ情報 2

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 宿に辿り着くと一番奥の部屋へと案内され、そして四人が中に入ってから鍵を閉めた。

「本当なら夜中にアルベルトと私の二人でこっそりと情報交換する予定でしたが、フェリクス殿下がどうしてもというのでこの時間帯になってしまいました」
「よく今抜け出していると分かったな」
「姉上がきちんと知らせてくれましたからぁ」

 アルベルトの感心したような声にフェリクスが誇らしげに言い放つ。
 離れていたのにどうやって伝えるんだなどとはもう思わないことにした。考えても分かるわけのないことを延々と考え続けるのは少々辛いものがある。
 因みにリュディガーも二人とは長い付き合いなのでそこら辺は疑問に思ってもいつもスルーしていた。
 どうしたってこの二人は教えてはくれなかったからだ。そもそもミルフィがなにかと不思議なことがあり過ぎるため、もう受け流すのが早いと判断したのが一番の理由であるのだが。

「それで、何か掴めたの?」
「あ、そうなんですよぉ。ちょっとこれ見てもらっていいですかぁ?」

 そう言ってフェリクスはミルフィの手に持ってきた資料を乗せる。
 それを読もうとするとアルベルトも横から覗き込んで来たので、ミルフィは見やすいように少し傾けてやる。
 そして、その文字を追っていくと。

「あら」
「これは……」

 ミルフィは少し弾んだ声を、アルベルトは少し低くなった声を同時に発した。

「姉上の予想通りでしたよねぇ?」
「そうね。……よりも真相に近付いているから全てが予想通りというわけではないけれど、大体はその通りよ」

 そう言ってくすりと笑った。

「あの変態狸、わたしが単純で素直で愚かで扱いやすい娘だって簡単に信じてくれたわ。それもまだ5日しか経っていないのにも関わらず」

 丁度良かったじゃないと嬉しそうに笑うミルフィを見てアルベルトはなんとも言えない微妙そうな表情をする。

「とても有益な情報をありがとう、フィル」
「姉上のお役に立てたようでなによりですよぉ~」

 そして二人はお互いに微笑んだ。
 その姿はとても絵になるそれだったが、実際は寒気すら漂わせる雰囲気になっていた。

「……殿下方、程々にして下さいよ」

 その様子を見て、リュディガーは苦笑しながらそう言う。

「なんのことかしら?」
「さぁ、なんのことでしょうかねぇ~」

 しかし二人は首を傾げながらしらを切る。
 その様子にリュディガーは溜め息を吐き、やれやれといった様子で肩を竦めた。

「あとはないかしら?」
「他のものはまだ調べる最中なのでまた分かり次第連絡させて頂きますねぇ」
「分かったわ、それならわたし達はもう戻るわね。長い時間空けていると怪しまれるかもしれないもの」

 行くわよと、ミルフィはアルベルトに言い、扉へと向かって行った。
 その後ろからフェリクスが追いかけてくる。

「姉上」
「フィル?」

 突然腕を掴まれ、手を握られたミルフィは不思議そうにフェリクスに視線を向けた。

「〝例の人〟がどうやら動いているようです」

 フェリクスがミルフィの耳元に唇を寄せて囁く。それと同時にミルフィの手に何かを握らされた。
 その言葉を聞いて眉間に皺を寄せながらもミルフィが頷くと、満足そうにしてフェリクスは離れていった。

「姉上の健闘を祈ってますよぉ~」
「ええ、ありがとうフィル」

 そしてミルフィは今度こそ扉を開けて、宿を後にした。
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