20 / 42
一章
19.掴んだ情報 2
しおりを挟む
宿に辿り着くと一番奥の部屋へと案内され、そして四人が中に入ってから鍵を閉めた。
「本当なら夜中にアルベルトと私の二人でこっそりと情報交換する予定でしたが、フェリクス殿下がどうしてもというのでこの時間帯になってしまいました」
「よく今抜け出していると分かったな」
「姉上がきちんと知らせてくれましたからぁ」
アルベルトの感心したような声にフェリクスが誇らしげに言い放つ。
離れていたのにどうやって伝えるんだなどとはもう思わないことにした。考えても分かるわけのないことを延々と考え続けるのは少々辛いものがある。
因みにリュディガーも二人とは長い付き合いなのでそこら辺は疑問に思ってもいつもスルーしていた。
どうしたってこの二人は教えてはくれなかったからだ。そもそもミルフィがなにかと不思議なことがあり過ぎるため、もう受け流すのが早いと判断したのが一番の理由であるのだが。
「それで、何か掴めたの?」
「あ、そうなんですよぉ。ちょっとこれ見てもらっていいですかぁ?」
そう言ってフェリクスはミルフィの手に持ってきた資料を乗せる。
それを読もうとするとアルベルトも横から覗き込んで来たので、ミルフィは見やすいように少し傾けてやる。
そして、その文字を追っていくと。
「あら」
「これは……」
ミルフィは少し弾んだ声を、アルベルトは少し低くなった声を同時に発した。
「姉上の予想通りでしたよねぇ?」
「そうね。……前回よりも真相に近付いているから全てが予想通りというわけではないけれど、大体はその通りよ」
そう言ってくすりと笑った。
「あの変態狸、わたしが単純で素直で愚かで扱いやすい娘だって簡単に信じてくれたわ。それもまだ5日しか経っていないのにも関わらず」
丁度良かったじゃないと嬉しそうに笑うミルフィを見てアルベルトはなんとも言えない微妙そうな表情をする。
「とても有益な情報をありがとう、フィル」
「姉上のお役に立てたようでなによりですよぉ~」
そして二人はお互いに微笑んだ。
その姿はとても絵になるそれだったが、実際は寒気すら漂わせる雰囲気になっていた。
「……殿下方、程々にして下さいよ」
その様子を見て、リュディガーは苦笑しながらそう言う。
「なんのことかしら?」
「さぁ、なんのことでしょうかねぇ~」
しかし二人は首を傾げながらしらを切る。
その様子にリュディガーは溜め息を吐き、やれやれといった様子で肩を竦めた。
「あとはないかしら?」
「他のものはまだ調べる最中なのでまた分かり次第連絡させて頂きますねぇ」
「分かったわ、それならわたし達はもう戻るわね。長い時間空けていると怪しまれるかもしれないもの」
行くわよと、ミルフィはアルベルトに言い、扉へと向かって行った。
その後ろからフェリクスが追いかけてくる。
「姉上」
「フィル?」
突然腕を掴まれ、手を握られたミルフィは不思議そうにフェリクスに視線を向けた。
「〝例の人〟がどうやら動いているようです」
フェリクスがミルフィの耳元に唇を寄せて囁く。それと同時にミルフィの手に何かを握らされた。
その言葉を聞いて眉間に皺を寄せながらもミルフィが頷くと、満足そうにしてフェリクスは離れていった。
「姉上の健闘を祈ってますよぉ~」
「ええ、ありがとうフィル」
そしてミルフィは今度こそ扉を開けて、宿を後にした。
「本当なら夜中にアルベルトと私の二人でこっそりと情報交換する予定でしたが、フェリクス殿下がどうしてもというのでこの時間帯になってしまいました」
「よく今抜け出していると分かったな」
「姉上がきちんと知らせてくれましたからぁ」
アルベルトの感心したような声にフェリクスが誇らしげに言い放つ。
離れていたのにどうやって伝えるんだなどとはもう思わないことにした。考えても分かるわけのないことを延々と考え続けるのは少々辛いものがある。
因みにリュディガーも二人とは長い付き合いなのでそこら辺は疑問に思ってもいつもスルーしていた。
どうしたってこの二人は教えてはくれなかったからだ。そもそもミルフィがなにかと不思議なことがあり過ぎるため、もう受け流すのが早いと判断したのが一番の理由であるのだが。
「それで、何か掴めたの?」
「あ、そうなんですよぉ。ちょっとこれ見てもらっていいですかぁ?」
そう言ってフェリクスはミルフィの手に持ってきた資料を乗せる。
それを読もうとするとアルベルトも横から覗き込んで来たので、ミルフィは見やすいように少し傾けてやる。
そして、その文字を追っていくと。
「あら」
「これは……」
ミルフィは少し弾んだ声を、アルベルトは少し低くなった声を同時に発した。
「姉上の予想通りでしたよねぇ?」
「そうね。……前回よりも真相に近付いているから全てが予想通りというわけではないけれど、大体はその通りよ」
そう言ってくすりと笑った。
「あの変態狸、わたしが単純で素直で愚かで扱いやすい娘だって簡単に信じてくれたわ。それもまだ5日しか経っていないのにも関わらず」
丁度良かったじゃないと嬉しそうに笑うミルフィを見てアルベルトはなんとも言えない微妙そうな表情をする。
「とても有益な情報をありがとう、フィル」
「姉上のお役に立てたようでなによりですよぉ~」
そして二人はお互いに微笑んだ。
その姿はとても絵になるそれだったが、実際は寒気すら漂わせる雰囲気になっていた。
「……殿下方、程々にして下さいよ」
その様子を見て、リュディガーは苦笑しながらそう言う。
「なんのことかしら?」
「さぁ、なんのことでしょうかねぇ~」
しかし二人は首を傾げながらしらを切る。
その様子にリュディガーは溜め息を吐き、やれやれといった様子で肩を竦めた。
「あとはないかしら?」
「他のものはまだ調べる最中なのでまた分かり次第連絡させて頂きますねぇ」
「分かったわ、それならわたし達はもう戻るわね。長い時間空けていると怪しまれるかもしれないもの」
行くわよと、ミルフィはアルベルトに言い、扉へと向かって行った。
その後ろからフェリクスが追いかけてくる。
「姉上」
「フィル?」
突然腕を掴まれ、手を握られたミルフィは不思議そうにフェリクスに視線を向けた。
「〝例の人〟がどうやら動いているようです」
フェリクスがミルフィの耳元に唇を寄せて囁く。それと同時にミルフィの手に何かを握らされた。
その言葉を聞いて眉間に皺を寄せながらもミルフィが頷くと、満足そうにしてフェリクスは離れていった。
「姉上の健闘を祈ってますよぉ~」
「ええ、ありがとうフィル」
そしてミルフィは今度こそ扉を開けて、宿を後にした。
0
お気に入りに追加
422
あなたにおすすめの小説
5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?
gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。
そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて
「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」
もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね?
3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。
4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。
1章が書籍になりました。
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
幼妻は、白い結婚を解消して国王陛下に溺愛される。
秋月乃衣
恋愛
旧題:幼妻の白い結婚
13歳のエリーゼは、侯爵家嫡男のアランの元へ嫁ぐが、幼いエリーゼに夫は見向きもせずに初夜すら愛人と過ごす。
歩み寄りは一切なく月日が流れ、夫婦仲は冷え切ったまま、相変わらず夫は愛人に夢中だった。
そしてエリーゼは大人へと成長していく。
※近いうちに婚約期間の様子や、結婚後の事も書く予定です。
小説家になろう様にも掲載しています。
婚約破棄された検品令嬢ですが、冷酷辺境伯の子を身籠りました。 でも本当はお優しい方で毎日幸せです
青空あかな
恋愛
旧題:「荷物検査など誰でもできる」と婚約破棄された検品令嬢ですが、極悪非道な辺境伯の子を身籠りました。でも本当はお優しい方で毎日心が癒されています
チェック男爵家長女のキュリティは、貴重な闇魔法の解呪師として王宮で荷物検査の仕事をしていた。
しかし、ある日突然婚約破棄されてしまう。
婚約者である伯爵家嫡男から、キュリティの義妹が好きになったと言われたのだ。
さらには、婚約者の権力によって検査係の仕事まで義妹に奪われる。
失意の中、キュリティは辺境へ向かうと、極悪非道と噂される辺境伯が魔法実験を行っていた。
目立たず通り過ぎようとしたが、魔法事故が起きて辺境伯の子を身ごもってしまう。
二人は形式上の夫婦となるが、辺境伯は存外優しい人でキュリティは温かい日々に心を癒されていく。
一方、義妹は仕事でミスばかり。
闇魔法を解呪することはおろか見破ることさえできない。
挙句の果てには、闇魔法に呪われた荷物を王宮内に入れてしまう――。
※おかげさまでHOTランキング1位になりました! ありがとうございます!
※ノベマ!様で短編版を掲載中でございます。
勘当されたい悪役は自由に生きる
雨野
恋愛
難病に罹り、15歳で人生を終えた私。
だが気がつくと、生前読んだ漫画の貴族で悪役に転生していた!?タイトルは忘れてしまったし、ラストまで読むことは出来なかったけど…確かこのキャラは、家を勘当され追放されたんじゃなかったっけ?
でも…手足は自由に動くし、ご飯は美味しく食べられる。すうっと深呼吸することだって出来る!!追放ったって殺される訳でもなし、貴族じゃなくなっても問題ないよね?むしろ私、庶民の生活のほうが大歓迎!!
ただ…私が転生したこのキャラ、セレスタン・ラサーニュ。悪役令息、男だったよね?どこからどう見ても女の身体なんですが。上に無いはずのモノがあり、下にあるはずのアレが無いんですが!?どうなってんのよ!!?
1話目はシリアスな感じですが、最終的にはほのぼの目指します。
ずっと病弱だったが故に、目に映る全てのものが輝いて見えるセレスタン。自分が変われば世界も変わる、私は…自由だ!!!
主人公は最初のうちは卑屈だったりしますが、次第に前向きに成長します。それまで見守っていただければと!
愛され主人公のつもりですが、逆ハーレムはありません。逆ハー風味はある。男装主人公なので、側から見るとBLカップルです。
予告なく痛々しい、残酷な描写あり。
サブタイトルに◼️が付いている話はシリアスになりがち。
小説家になろうさんでも掲載しております。そっちのほうが先行公開中。後書きなんかで、ちょいちょいネタ挟んでます。よろしければご覧ください。
こちらでは僅かに加筆&話が増えてたりします。
本編完結。番外編を順次公開していきます。
最後までお付き合いいただき、ありがとうございました!
元侯爵令嬢は冷遇を満喫する
cyaru
恋愛
第三王子の不貞による婚約解消で王様に拝み倒され、渋々嫁いだ侯爵令嬢のエレイン。
しかし教会で結婚式を挙げた後、夫の口から開口一番に出た言葉は
「王命だから君を娶っただけだ。愛してもらえるとは思わないでくれ」
夫となったパトリックの側には長年の恋人であるリリシア。
自分もだけど、向こうだってわたくしの事は見たくも無いはず!っと早々の別居宣言。
お互いで交わす契約書にほっとするパトリックとエレイン。ほくそ笑む愛人リリシア。
本宅からは屋根すら見えない別邸に引きこもりお1人様生活を満喫する予定が・・。
※専門用語は出来るだけ注釈をつけますが、作者が専門用語だと思ってない専門用語がある場合があります
※作者都合のご都合主義です。
※リアルで似たようなものが出てくると思いますが気のせいです。
※架空のお話です。現実世界の話ではありません。
※爵位や言葉使いなど現実世界、他の作者さんの作品とは異なります(似てるモノ、同じものもあります)
※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。
そろそろ前世は忘れませんか。旦那様?
氷雨そら
恋愛
結婚式で私のベールをめくった瞬間、旦那様は固まった。たぶん、旦那様は記憶を取り戻してしまったのだ。前世の私の名前を呼んでしまったのがその証拠。
そしておそらく旦那様は理解した。
私が前世にこっぴどく裏切った旦那様の幼馴染だってこと。
――――でも、それだって理由はある。
前世、旦那様は15歳のあの日、魔力の才能を開花した。そして私が開花したのは、相手の魔力を奪う魔眼だった。
しかも、その魔眼を今世まで持ち越しで受け継いでしまっている。
「どれだけ俺を弄んだら気が済むの」とか「悪い女」という癖に、旦那様は私を離してくれない。
そして二人で眠った次の朝から、なぜかかつての幼馴染のように、冷酷だった旦那様は豹変した。私を溺愛する人間へと。
お願い旦那様。もう前世のことは忘れてください!
かつての幼馴染は、今度こそ絶対幸せになる。そんな幼馴染推しによる幼馴染推しのための物語。
小説家になろうにも掲載しています。
【完結】聖女にはなりません。平凡に生きます!
暮田呉子
ファンタジー
この世界で、ただ平凡に、自由に、人生を謳歌したい!
政略結婚から三年──。夫に見向きもされず、屋敷の中で虐げられてきたマリアーナは夫の子を身籠ったという女性に水を掛けられて前世を思い出す。そうだ、前世は慎ましくも充実した人生を送った。それなら現世も平凡で幸せな人生を送ろう、と強く決意するのだった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる