2 / 3
2話
しおりを挟む
アンシェイラ王国の建国以来続く由緒正しい家柄であるローゼリア公爵家の末娘である私はその日、なんの前触れもなく思い出したのだ。
前の私が死んだ時のことを。
思えば小さい頃から私は少しだけおかしかった。私は、というより私の記憶は、と言った方が正しいのかもしれないが。
前世の私の記憶は、思いの他ストンと落ちてくれて、混乱状態になることが無かったのは幸いしたと思う。なにせその時私は、王妃様主催のお茶会に参加していたのだから。それもただのお茶会ではない。今回はリアン殿下の婚約者候補たちを集めたお茶会であったのだ。今思っても本当に混乱状態に陥らなくて良かったと思う。もしかしたら記憶が戻ったショックで倒れる~なんてことだって起きていた可能性は否定できないのだから。
けれども、いくら混乱状態に陥ることが無かったとはいえ、いきなり入ってきたもう一人分の記憶に驚かないわけがない。だから私は記憶の整理と心を落ち着かせる為に会場の端っこに移動したのである。まあ、端っこに移動したのはもう一つ理由があるのだが。
前世の記憶を思い出したことで、リアン殿下の婚約者に選ばれたくない、王妃とかにならなくていいから平穏に生きたいという前世からの思いが蘇った結果でもある。
途中私と同じ公爵家のご令嬢が牽制しに私の元を訪れたり訪れなかったりしていたのだが、それは私が返り討ちにしたのでなんら問題は無かったのである。
会場の端っこでの出来事だったし木っ端微塵に叩きのめしても大丈夫だろうと大人げない考えでその令嬢と取り巻き達を締めたのだが、どうやらそれで墓穴を掘ってしまったようだ。
誰にも見られていないと思っていたのに。見られていないと思っていたのに、私が一番見ていて欲しくなかった人物、即ちリアン殿下に一部始終を観察されていた模様。その事が原因なのかは分からないけれど、(そうでなくとも少しはあると思う)気が付いたらリアン殿下にご指名されていたというのであるのだから驚きだ。
……それと同時にほんの少しだけ殿下に向けて悪態をついてしまったのは秘密の話である。
ここまでが今私がリアン殿下にお目通りしていることの全てである。
* * *
そこそこ長い長い回想を終了させがてら、私はいつの間にか用意されていた紅茶を啜った。
別に喉が乾いているわけではない。ただ挨拶以来一言も言葉を発さないこの空間にほんの少しだけ居心地の悪さを感じただけなのだ。
あの、呼んだのはリアン殿下なのだから何かしら話してくれません?居心地悪いしそもそもさっさと帰りたい。用事がないのなら呼び出さないで欲しいんですけれど……
「どうして自分が選ばれたのか気になる?」
不意に声をかけられた。恐らくはちらちらと様子を窺っていたのがばれていたのだろう。まあ、思っていたことは全く別物なのだけれどまだリアン殿下のしている勘違いの方がましだと思うから否定することはやめておいた。その代わりに曖昧に笑っておく。
それに、気になっていたのは嘘ではないのだから、教えてもらえるのなら教えて欲しい。
そう思って頷くと、リアン殿下はふっと笑いながら告げた。
「一目でフレイティア嬢に恋に落ちたからだよ」
その瞬間、私の体は硬直した。
はい?
……何を言ってるのでしょうか、この王子様は。
前の私が死んだ時のことを。
思えば小さい頃から私は少しだけおかしかった。私は、というより私の記憶は、と言った方が正しいのかもしれないが。
前世の私の記憶は、思いの他ストンと落ちてくれて、混乱状態になることが無かったのは幸いしたと思う。なにせその時私は、王妃様主催のお茶会に参加していたのだから。それもただのお茶会ではない。今回はリアン殿下の婚約者候補たちを集めたお茶会であったのだ。今思っても本当に混乱状態に陥らなくて良かったと思う。もしかしたら記憶が戻ったショックで倒れる~なんてことだって起きていた可能性は否定できないのだから。
けれども、いくら混乱状態に陥ることが無かったとはいえ、いきなり入ってきたもう一人分の記憶に驚かないわけがない。だから私は記憶の整理と心を落ち着かせる為に会場の端っこに移動したのである。まあ、端っこに移動したのはもう一つ理由があるのだが。
前世の記憶を思い出したことで、リアン殿下の婚約者に選ばれたくない、王妃とかにならなくていいから平穏に生きたいという前世からの思いが蘇った結果でもある。
途中私と同じ公爵家のご令嬢が牽制しに私の元を訪れたり訪れなかったりしていたのだが、それは私が返り討ちにしたのでなんら問題は無かったのである。
会場の端っこでの出来事だったし木っ端微塵に叩きのめしても大丈夫だろうと大人げない考えでその令嬢と取り巻き達を締めたのだが、どうやらそれで墓穴を掘ってしまったようだ。
誰にも見られていないと思っていたのに。見られていないと思っていたのに、私が一番見ていて欲しくなかった人物、即ちリアン殿下に一部始終を観察されていた模様。その事が原因なのかは分からないけれど、(そうでなくとも少しはあると思う)気が付いたらリアン殿下にご指名されていたというのであるのだから驚きだ。
……それと同時にほんの少しだけ殿下に向けて悪態をついてしまったのは秘密の話である。
ここまでが今私がリアン殿下にお目通りしていることの全てである。
* * *
そこそこ長い長い回想を終了させがてら、私はいつの間にか用意されていた紅茶を啜った。
別に喉が乾いているわけではない。ただ挨拶以来一言も言葉を発さないこの空間にほんの少しだけ居心地の悪さを感じただけなのだ。
あの、呼んだのはリアン殿下なのだから何かしら話してくれません?居心地悪いしそもそもさっさと帰りたい。用事がないのなら呼び出さないで欲しいんですけれど……
「どうして自分が選ばれたのか気になる?」
不意に声をかけられた。恐らくはちらちらと様子を窺っていたのがばれていたのだろう。まあ、思っていたことは全く別物なのだけれどまだリアン殿下のしている勘違いの方がましだと思うから否定することはやめておいた。その代わりに曖昧に笑っておく。
それに、気になっていたのは嘘ではないのだから、教えてもらえるのなら教えて欲しい。
そう思って頷くと、リアン殿下はふっと笑いながら告げた。
「一目でフレイティア嬢に恋に落ちたからだよ」
その瞬間、私の体は硬直した。
はい?
……何を言ってるのでしょうか、この王子様は。
0
お気に入りに追加
310
あなたにおすすめの小説
婚約破棄された悪役令嬢。そして国は滅んだ❗私のせい?知らんがな
朋 美緒(とも みお)
ファンタジー
婚約破棄されて国外追放の公爵令嬢、しかし地獄に落ちたのは彼女ではなかった。
!逆転チートな婚約破棄劇場!
!王宮、そして誰も居なくなった!
!国が滅んだ?私のせい?しらんがな!
18話で完結

婚約破棄されたら魔法が解けました
かな
恋愛
「クロエ・ベネット。お前との婚約は破棄する。」
それは学園の卒業パーティーでのこと。
……やっぱり、ダメだったんだ。
周りがザワザワと騒ぎ出す中、ただ1人『クロエ・ベネット』だけは冷静に事実を受け止めていた。乙女ゲームの世界に転生してから10年。国外追放を回避する為に、そして后妃となる為に努力し続けて来たその時間が無駄になった瞬間でもあった。そんな彼女に追い打ちをかけるかのように、第一王子であるエドワード・ホワイトは聖女を新たな婚約者とすることを発表する。その後はトントン拍子にことが運び、冤罪をかけられ、ゲームのシナリオ通り国外追放。そして、国外へと運ばれている途中に魔物に襲われて死ぬ。……そんな運命を辿るはずだった。
「こんなことなら、転生なんてしたくなかった。元の世界に戻りたい……」
あろうことか、最後の願いとしてそう思った瞬間に、全身が光り出したのだ。そして気がつくと、なんと前世の姿に戻っていた!しかもそれを第二王子であるアルベルトに見られていて……。
「……まさかこんなことになるなんてね。……それでどうする?あの2人復讐でもしちゃう?今の君なら、それができるよ。」
死を覚悟した絶望から転生特典を得た主人公の大逆転溺愛ラブストーリー!
※毎週土曜日の18時+気ままに投稿中
※プロットなしで書いているので辻褄合わせの為に後から修正することがあります。
公爵家に生まれて初日に跡継ぎ失格の烙印を押されましたが今日も元気に生きてます!
小択出新都
ファンタジー
異世界に転生して公爵家の娘に生まれてきたエトワだが、魔力をほとんどもたずに生まれてきたため、生後0ヶ月で跡継ぎ失格の烙印を押されてしまう。
跡継ぎ失格といっても、すぐに家を追い出されたりはしないし、学校にも通わせてもらえるし、15歳までに家を出ればいいから、まあ恵まれてるよね、とのんきに暮らしていたエトワ。
だけど跡継ぎ問題を解決するために、分家から同い年の少年少女たちからその候補が選ばれることになり。
彼らには試練として、エトワ(ともたされた家宝、むしろこっちがメイン)が15歳になるまでの護衛役が命ぜられることになった。
仮の主人というか、実質、案山子みたいなものとして、彼らに護衛されることになったエトワだが、一癖ある男の子たちから、素直な女の子までいろんな子がいて、困惑しつつも彼らの成長を見守ることにするのだった。

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?
みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。
ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる
色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く
加護を疑われ婚約破棄された後、帝国皇子の契約妃になって隣国を豊かに立て直しました
黎
ファンタジー
幼い頃、神獣ヴァレンの加護を期待され、ロザリアは王家に買い取られて王子の婚約者となった。しかし、侍女を取り上げられ、将来の王妃だからと都合よく仕事を押し付けられ、一方で、公爵令嬢があたかも王子の婚約者であるかのように振る舞う。そんな風に冷遇されながらも、ロザリアはヴァレンと共にたくましく生き続けてきた。
そんな中、王子がロザリアに「君との婚約では神獣の加護を感じたことがない。公爵令嬢が加護を持つと判明したし、彼女と結婚する」と婚約破棄をつきつける。
家も職も金も失ったロザリアは、偶然出会った帝国皇子ラウレンツに雇われることになる。元皇妃の暴政で荒廃した帝国を立て直そうとする彼の契約妃となったロザリアは、ヴァレンの力と自身の知恵と経験を駆使し、帝国を豊かに復興させていき、帝国とラウレンツの心に希望を灯す存在となっていく。
*短編に続きをとのお声をたくさんいただき、始めることになりました。引き続きよろしくお願いします。

三歳で婚約破棄された貧乏伯爵家の三男坊そのショックで現世の記憶が蘇る
マメシバ
ファンタジー
貧乏伯爵家の三男坊のアラン令息
三歳で婚約破棄され
そのショックで前世の記憶が蘇る
前世でも貧乏だったのなんの問題なし
なによりも魔法の世界
ワクワクが止まらない三歳児の
波瀾万丈
誰にも愛されずに死んだ侯爵令嬢は一度だけ時間を遡る
月
ファンタジー
癒しの能力を持つコンフォート侯爵家の娘であるシアは、何年経っても能力の発現がなかった。
能力が発現しないせいで辛い思いをして過ごしていたが、ある日突然、フレイアという女性とその娘であるソフィアが侯爵家へとやって来た。
しかも、ソフィアは侯爵家の直系にしか使えないはずの能力を突然発現させた。
——それも、多くの使用人が見ている中で。
シアは侯爵家での肩身がますます狭くなっていった。
そして十八歳のある日、身に覚えのない罪で監獄に幽閉されてしまう。
父も、兄も、誰も会いに来てくれない。
生きる希望をなくしてしまったシアはフレイアから渡された毒を飲んで死んでしまう。
意識がなくなる前、会いたいと願った父と兄の姿が。
そして死んだはずなのに、十年前に時間が遡っていた。
一度目の人生も、二度目の人生も懸命に生きたシア。
自分の力を取り戻すため、家族に愛してもらうため、同じ過ちを繰り返さないようにまた"シアとして"生きていくと決意する。

【完結】聖女にはなりません。平凡に生きます!
暮田呉子
ファンタジー
この世界で、ただ平凡に、自由に、人生を謳歌したい!
政略結婚から三年──。夫に見向きもされず、屋敷の中で虐げられてきたマリアーナは夫の子を身籠ったという女性に水を掛けられて前世を思い出す。そうだ、前世は慎ましくも充実した人生を送った。それなら現世も平凡で幸せな人生を送ろう、と強く決意するのだった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる