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第二幕
11.悪の吼える夜⑥
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「へえ~、こうなった経緯を、向田さんにちゃんと説明してもらおうかな」
国枝はようやく、視界の中に向田を入れた。向田は景虎に踏まれている腹を押さえながら、しかし気丈に返した。メガネのフレームが歪んでしまっている。
「……はっ。お前んンとこの新入りが、俺の女に手ェ出したから、ケジメをつけさせようと思ってよォ……」
「そうなの? ん~そっかぁ。まあ庄助のほうはそこの“織原の虎”にお仕置きをお願いしようかな?」
「おしお……っ!?」
庄助の声が裏返った。
かまいもせず、国枝はもう一度庄助の頭から足の先までじっと見ると、
「でもねえ向田さん。ウチの営業のエースを傷つけてもらっちゃ困るよ、信頼して貸し出してんだからさぁ。キズモノにしたら、その分は払ってもらわないと、ね? ウチは、レンタル業者なの。貸したものは必ずちゃんと返却してもらうってのがポリシーなんでね」
と、向田に向けて破顔してみせた。
「憶えてる? 昔、向田さんがまだホスト崩れだったとき、俺と喧嘩になったよね。あの時俺、若かったから、勢いで向田さんの大事な歯、ほとんど砕いちゃったんだよね。ごめんね……」
「は……!? おいっやめろっ!」
国枝の目配せを受けた景虎は、素早く向田を立たせると背後に回り、羽交い締めにした。
向田も屈強な男だが、負傷のダメージが大きすぎるのか、若い力には勝てないのか、大した抵抗をできずにいる。
「ね、何本か金歯にしたんでしょ? 今、金の相場上がってるからよかったね」
ポケットから医療用のゴム手袋を取り出すと、ふっと息を吹き込んでそれを膨らませ、慣れた手つきでサポーターの上から右手に装着した。
一連の流れを見てようやく、庄助は何がなされようとしているのか気づいた。
飛び上がるように部屋の入口まで走っていくと、すっかり震え上がってへたり込んでいるヒカリを立ち上がらせ、耳打ちした。
「イヤホン持ってる? なるべくデカい音でそれ使って音楽聴いて。こん中に入っとって……!」
「なにっなに!? なんなの? もう帰りたい!」
「ごめん!」
バスルームの明かりもつけずにヒカリを中に押し込むと、背中で蓋をするようにドアを閉めた。
何度か中からドアノブを回したり、ドンドンと背後に衝撃が来たが、向田が悲痛な叫び声を上げるにつれて、中に居るヒカリも動かなくなり、代わりにすすり泣きが聞こえてきた。
庄助は、ベッドの方から顔を必死に背けたまま、立ち尽くした。
耳を塞ごうと思ったが、自分が蒔いた種だという自戒のために、あらゆる音も声も、あえて聞こえるままにしていた。
項垂れた頭にはまだ、ツインテールと猫耳がついていた。
国枝はようやく、視界の中に向田を入れた。向田は景虎に踏まれている腹を押さえながら、しかし気丈に返した。メガネのフレームが歪んでしまっている。
「……はっ。お前んンとこの新入りが、俺の女に手ェ出したから、ケジメをつけさせようと思ってよォ……」
「そうなの? ん~そっかぁ。まあ庄助のほうはそこの“織原の虎”にお仕置きをお願いしようかな?」
「おしお……っ!?」
庄助の声が裏返った。
かまいもせず、国枝はもう一度庄助の頭から足の先までじっと見ると、
「でもねえ向田さん。ウチの営業のエースを傷つけてもらっちゃ困るよ、信頼して貸し出してんだからさぁ。キズモノにしたら、その分は払ってもらわないと、ね? ウチは、レンタル業者なの。貸したものは必ずちゃんと返却してもらうってのがポリシーなんでね」
と、向田に向けて破顔してみせた。
「憶えてる? 昔、向田さんがまだホスト崩れだったとき、俺と喧嘩になったよね。あの時俺、若かったから、勢いで向田さんの大事な歯、ほとんど砕いちゃったんだよね。ごめんね……」
「は……!? おいっやめろっ!」
国枝の目配せを受けた景虎は、素早く向田を立たせると背後に回り、羽交い締めにした。
向田も屈強な男だが、負傷のダメージが大きすぎるのか、若い力には勝てないのか、大した抵抗をできずにいる。
「ね、何本か金歯にしたんでしょ? 今、金の相場上がってるからよかったね」
ポケットから医療用のゴム手袋を取り出すと、ふっと息を吹き込んでそれを膨らませ、慣れた手つきでサポーターの上から右手に装着した。
一連の流れを見てようやく、庄助は何がなされようとしているのか気づいた。
飛び上がるように部屋の入口まで走っていくと、すっかり震え上がってへたり込んでいるヒカリを立ち上がらせ、耳打ちした。
「イヤホン持ってる? なるべくデカい音でそれ使って音楽聴いて。こん中に入っとって……!」
「なにっなに!? なんなの? もう帰りたい!」
「ごめん!」
バスルームの明かりもつけずにヒカリを中に押し込むと、背中で蓋をするようにドアを閉めた。
何度か中からドアノブを回したり、ドンドンと背後に衝撃が来たが、向田が悲痛な叫び声を上げるにつれて、中に居るヒカリも動かなくなり、代わりにすすり泣きが聞こえてきた。
庄助は、ベッドの方から顔を必死に背けたまま、立ち尽くした。
耳を塞ごうと思ったが、自分が蒔いた種だという自戒のために、あらゆる音も声も、あえて聞こえるままにしていた。
項垂れた頭にはまだ、ツインテールと猫耳がついていた。
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