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第二幕 番外編
納涼・雀荘に巣食う怪異〜呪いのリャンピン牌〜②
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「おっちゃん、大丈夫なんですか?」
「ああ、ユニバーサルさんの。取り調べはおわったけど、ドアから卓からだいぶ壊されたんで、とりあえずしばらく休業かなあ。ほんともう……打ち筋を悪く言われて怒る気持ちはわかるけど、何もそこまで……ねえ」
その大きなため息を聞いて庄助は、玄関先に置いている分厚いパンフレットを掴み、『まだら』の店長に押し付けた。
「ドアはちょっとわからんけど、雀卓の貸し出しやったらウチでもやってるんで。勉強するから、よかったら考えてください!」
店長と連絡先を交換すると、庄助は素早く事務所に戻った。
工具の入った棚の中から、ストラップのついたコンベックスのメジャーを手に取ると、尻のポケットに入れた。そして景虎に「用事できたから先に帰っとってええで!」とにこやかに告げると、また事務所を出ていった。
雀卓があるなら真剣に考えてみようかな、と店長は言っていた。わりと真面目なトーンだったように思うし、パンフレットも持って帰ってくれた。
今置いている雀卓のサイズ測っていいですか。借りる借りないは別で、似たようなの探す参考に。と、庄助は店に立ち入る許可を得た。
別に営業として成功したいわけじゃない。でもそこにチャンスがあって、しかも困ってる人を助ける形になるんやったら、ちょっとくらい頑張ってもええかな。ヤクザの仕事じゃなくても、それは人の道やしな。
なにより取引が決まったら、国枝が褒めてくれるのが嬉しいし、成功したら回転してない寿司に連れて行ってほしい。赤身のマグロが好きや。
ほんの少しの邪な期待を胸に、庄助は階段を上った。本日2度目に訪れた4階の廊下は、さっきとは打って変わって照明が落とされている。
短い廊下に数か所配置されている常夜灯の光を頼りに、庄助は麻雀屋の前に立った。
件の客はどれだけ暴れたのか、ステンレスの入り口ドアが蝶番ごと外れて、廊下に立てかけられている。
「わ~、えらい派手にやったな……」
独り言をぽつりと漏らすと、薄暗い店内に踏み入る。あらかたの片付けは終わっているものの、折れた椅子や天板が割れた雀卓が、店の隅に雑に退けられていた。
中でも目を引くのが壁に空いた大きな穴だ。壁紙を貼り付けた石膏ボードをぶち抜くどころか、中の壁材まで貫いているように見える。庄助はスマホのライトを点けると、そっと壁面を照らした。
歪な形に砕けた木の壁材は、割れた箇所をギザギザと牙のように尖らせて、真っ黒な口を開けている。
その口内に光を向けると、なんと向こうの部屋―おそらく従業員用の事務所だろうか―が見えていた。いくらボロい建物といえど、一度や二度叩いただけでは、こうはならないだろう。よほど執拗に、硬いもので殴りつけたに違いない。
姿を見てはいないが、犯人は50代の男だという。そんな歳になってまでたかが遊びで、突発的な怒りをコントロールできないものなのだろうか。
「ん?」
壁の向こうで何かが光った気がした。腰の高さに空いた穴を、身体を屈めて覗き込む。
どうやって飛ばされたのか、隣の部屋の床にリャンピンの牌が転がっているのが見えた。何だかかわいそうに見えるそれは、穴に身体を入れて、手を少し伸ばせば届きそうな位置にあった。
よせばいいのに、余計な仏心なのか何なのか、庄助は壁の穴に頭を突っ込んだ。埃っぽくて空咳が出た。
「ああ、ユニバーサルさんの。取り調べはおわったけど、ドアから卓からだいぶ壊されたんで、とりあえずしばらく休業かなあ。ほんともう……打ち筋を悪く言われて怒る気持ちはわかるけど、何もそこまで……ねえ」
その大きなため息を聞いて庄助は、玄関先に置いている分厚いパンフレットを掴み、『まだら』の店長に押し付けた。
「ドアはちょっとわからんけど、雀卓の貸し出しやったらウチでもやってるんで。勉強するから、よかったら考えてください!」
店長と連絡先を交換すると、庄助は素早く事務所に戻った。
工具の入った棚の中から、ストラップのついたコンベックスのメジャーを手に取ると、尻のポケットに入れた。そして景虎に「用事できたから先に帰っとってええで!」とにこやかに告げると、また事務所を出ていった。
雀卓があるなら真剣に考えてみようかな、と店長は言っていた。わりと真面目なトーンだったように思うし、パンフレットも持って帰ってくれた。
今置いている雀卓のサイズ測っていいですか。借りる借りないは別で、似たようなの探す参考に。と、庄助は店に立ち入る許可を得た。
別に営業として成功したいわけじゃない。でもそこにチャンスがあって、しかも困ってる人を助ける形になるんやったら、ちょっとくらい頑張ってもええかな。ヤクザの仕事じゃなくても、それは人の道やしな。
なにより取引が決まったら、国枝が褒めてくれるのが嬉しいし、成功したら回転してない寿司に連れて行ってほしい。赤身のマグロが好きや。
ほんの少しの邪な期待を胸に、庄助は階段を上った。本日2度目に訪れた4階の廊下は、さっきとは打って変わって照明が落とされている。
短い廊下に数か所配置されている常夜灯の光を頼りに、庄助は麻雀屋の前に立った。
件の客はどれだけ暴れたのか、ステンレスの入り口ドアが蝶番ごと外れて、廊下に立てかけられている。
「わ~、えらい派手にやったな……」
独り言をぽつりと漏らすと、薄暗い店内に踏み入る。あらかたの片付けは終わっているものの、折れた椅子や天板が割れた雀卓が、店の隅に雑に退けられていた。
中でも目を引くのが壁に空いた大きな穴だ。壁紙を貼り付けた石膏ボードをぶち抜くどころか、中の壁材まで貫いているように見える。庄助はスマホのライトを点けると、そっと壁面を照らした。
歪な形に砕けた木の壁材は、割れた箇所をギザギザと牙のように尖らせて、真っ黒な口を開けている。
その口内に光を向けると、なんと向こうの部屋―おそらく従業員用の事務所だろうか―が見えていた。いくらボロい建物といえど、一度や二度叩いただけでは、こうはならないだろう。よほど執拗に、硬いもので殴りつけたに違いない。
姿を見てはいないが、犯人は50代の男だという。そんな歳になってまでたかが遊びで、突発的な怒りをコントロールできないものなのだろうか。
「ん?」
壁の向こうで何かが光った気がした。腰の高さに空いた穴を、身体を屈めて覗き込む。
どうやって飛ばされたのか、隣の部屋の床にリャンピンの牌が転がっているのが見えた。何だかかわいそうに見えるそれは、穴に身体を入れて、手を少し伸ばせば届きそうな位置にあった。
よせばいいのに、余計な仏心なのか何なのか、庄助は壁の穴に頭を突っ込んだ。埃っぽくて空咳が出た。
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