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第二幕 番外編
納涼・雀荘に巣食う怪異〜呪いのリャンピン牌〜①
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ある夏の日の夕方のことだった。
庄助たちが事務所で雑談をしつつ仕事をしていると、爆弾でも落ちたのかというような、大きな音と振動が建物を襲った。
皆いっせいに何事かと立ち上がり、周りを見渡す。どうやら音の出どころは一つ上の階らしい。
数回にわたり、何かが派手に壊れる音がして、その後かすかに男の言い争う怒号が上階から漏れ聞こえてきた。
株式会社ユニバーサルインテリアの一つ上の階である4階には、フリー雀荘『まだら』という店がある。博打好きな組員が打ちに行ったりもする馴染みの店だ。
庄助たちは顔を見合わせた。責任者である国枝は、今日は重要な仕事がないから家で映画を観ると言って、昼頃早々に帰ってしまった。
今、事務所に残っているのは、庄助と景虎、経理と主にネット周りの仕事を兼任しているザイゼンというヤクザだけだ。
「ちょっと俺、見に行ってきます。『まだら』の店長のおっちゃんが心配や」
そう言って、迷わず真っ先に飛び出していく庄助の背中を、景虎とザイゼンは仕方なく追った。
階段で4階に上がると、狭い廊下に出てきた初老の店長が、庄助たちの方に足早に寄ってきて頭を下げた。
「お客さんが、椅子持って大暴れしちゃってて。すみませんね、うるさくして……もう、警察呼んでるんで」
●●●●●●●●●●●●●●●
警察を呼んだのであれば、自分たちは下手に関わらないほうがいいだろうという景虎の言葉に、庄助はどこか不満そうだったが、珍しく大人しく従い引き下がった。
「まだらの店長さんもわややな。あないにモノ投げられて、おらび倒されたら、ホンマやれんで」
ザイゼンはダラダラと帰り支度をしながら肩をすくめた。国枝と同年代だというが、彼よりずっと真面目そうで苦労人という顔をしている。眉間にシワを寄せた厳しい顔をしながら、スマホをいじっている。
国枝に報告しているのかと思い後ろからそっと覗き込むと、どうやらSNSに何やら書き込みをしているようだ。
《待機所の上の麻雀屋で、ジジイが喧嘩してたゆぉ(+_+)ウチのビルの4階、ジサツした女の霊が出るってゆわれてるけど、どう考えても老害になることのほうが怖いゆぉ。。。》
庄助はゾッとした。もちろん女の霊云々の話ではない。ザイゼンの打つ文字の羅列が、広島弁のいかつい中年男のそれだとは思えなかったからだ。
が、これは彼の仕事の一つなのだと思い直した。ザイゼンは風俗で働く若い女のフリをして、女性を自分の運営するマッチングアプリに誘導したり、間接的に風俗に勧誘したりしている。
とはいえ、その日常の呟きは軽妙でユーモアに溢れ、夜職の女性のみならず、女の子の心を上手く掴んだようで、現在は70000フォロワーの、よくバズる大手アカウントに成長してしまった。SNSの闇やなあ、と庄助は思っている。
「なんか疲れたし、先に去ぬるわ。国枝さんにはワシが言うとくけえ、景虎と庄助で戸締まりしとって」
そう言ってザイゼンが帰ってしまった19時頃には、上の階の騒がしさもなくなり、ビルの下に停まっていたパトカーもどこかにいってしまった。
景虎と二人きりで取り残された事務所が、妙に静かに感じる。いつも家ではふたりきりなのに、事務所でこうなるのは新鮮だ。
「店長のおっちゃん、帰ったんかな」
「……さあな。俺たちも帰るか」
窓のシャッターを下ろしながら、景虎は興味なさげに返事をした。庄助は、戸締まりを確認するふりをしながら廊下に首だけを出した。すると、ちょうど上の階から『まだら』の店長が階段を降りてきた。
庄助たちが事務所で雑談をしつつ仕事をしていると、爆弾でも落ちたのかというような、大きな音と振動が建物を襲った。
皆いっせいに何事かと立ち上がり、周りを見渡す。どうやら音の出どころは一つ上の階らしい。
数回にわたり、何かが派手に壊れる音がして、その後かすかに男の言い争う怒号が上階から漏れ聞こえてきた。
株式会社ユニバーサルインテリアの一つ上の階である4階には、フリー雀荘『まだら』という店がある。博打好きな組員が打ちに行ったりもする馴染みの店だ。
庄助たちは顔を見合わせた。責任者である国枝は、今日は重要な仕事がないから家で映画を観ると言って、昼頃早々に帰ってしまった。
今、事務所に残っているのは、庄助と景虎、経理と主にネット周りの仕事を兼任しているザイゼンというヤクザだけだ。
「ちょっと俺、見に行ってきます。『まだら』の店長のおっちゃんが心配や」
そう言って、迷わず真っ先に飛び出していく庄助の背中を、景虎とザイゼンは仕方なく追った。
階段で4階に上がると、狭い廊下に出てきた初老の店長が、庄助たちの方に足早に寄ってきて頭を下げた。
「お客さんが、椅子持って大暴れしちゃってて。すみませんね、うるさくして……もう、警察呼んでるんで」
●●●●●●●●●●●●●●●
警察を呼んだのであれば、自分たちは下手に関わらないほうがいいだろうという景虎の言葉に、庄助はどこか不満そうだったが、珍しく大人しく従い引き下がった。
「まだらの店長さんもわややな。あないにモノ投げられて、おらび倒されたら、ホンマやれんで」
ザイゼンはダラダラと帰り支度をしながら肩をすくめた。国枝と同年代だというが、彼よりずっと真面目そうで苦労人という顔をしている。眉間にシワを寄せた厳しい顔をしながら、スマホをいじっている。
国枝に報告しているのかと思い後ろからそっと覗き込むと、どうやらSNSに何やら書き込みをしているようだ。
《待機所の上の麻雀屋で、ジジイが喧嘩してたゆぉ(+_+)ウチのビルの4階、ジサツした女の霊が出るってゆわれてるけど、どう考えても老害になることのほうが怖いゆぉ。。。》
庄助はゾッとした。もちろん女の霊云々の話ではない。ザイゼンの打つ文字の羅列が、広島弁のいかつい中年男のそれだとは思えなかったからだ。
が、これは彼の仕事の一つなのだと思い直した。ザイゼンは風俗で働く若い女のフリをして、女性を自分の運営するマッチングアプリに誘導したり、間接的に風俗に勧誘したりしている。
とはいえ、その日常の呟きは軽妙でユーモアに溢れ、夜職の女性のみならず、女の子の心を上手く掴んだようで、現在は70000フォロワーの、よくバズる大手アカウントに成長してしまった。SNSの闇やなあ、と庄助は思っている。
「なんか疲れたし、先に去ぬるわ。国枝さんにはワシが言うとくけえ、景虎と庄助で戸締まりしとって」
そう言ってザイゼンが帰ってしまった19時頃には、上の階の騒がしさもなくなり、ビルの下に停まっていたパトカーもどこかにいってしまった。
景虎と二人きりで取り残された事務所が、妙に静かに感じる。いつも家ではふたりきりなのに、事務所でこうなるのは新鮮だ。
「店長のおっちゃん、帰ったんかな」
「……さあな。俺たちも帰るか」
窓のシャッターを下ろしながら、景虎は興味なさげに返事をした。庄助は、戸締まりを確認するふりをしながら廊下に首だけを出した。すると、ちょうど上の階から『まだら』の店長が階段を降りてきた。
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