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第二幕
11.悪の吼える夜②
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鉄臭くいがらっぽい咳を吐き出す拍子に横を向くと、鼻から熱いものが漏れてくる。白い花柄のベッドスローに、赤黒い液体が流れ落ちた。
「いいんですか?」
「鼻血出ちまったし、止まるまで撮影できねえだろ。ヒカリに化粧直させるしフォトショでも直すから、多少めちゃくちゃにしてもいいよ」
恐ろしいことを言う。こっちが承諾もしていないというのに、それどころか殴られて倒れている人に対して言う言葉だろうか。人権もへったくれもない。
店長と呼ばれた重ね着の男は、カメラを放り出すと、ベッドに膝立ちになった。その妙に慣れた、遠慮のない感じに嫌悪感を抱いたものの、庄助の身体は動かなかった。
ベッドの下に置いた手提げのバッグから、店長は安物のキッチンタイマーを取り出した。
「えとねー。タイマーのかけ方なんだけど、シャワー浴びる時間と着替えの時間考えて、20分前には鳴るようにしといてほしんだよね。60分コースだったら40分でプレイ終わるように。まあ最初は時間押すと思うんだけど、そこは慣れるから。え~と……」
黄色いヒヨコの形のタイマーをかざして見せながら早口で雑に説明すると、彼は相変わらず咳き込む庄助の顔をじっと見て、
「まあ細かいことはおいといて、とりあえず一回しゃぶってみてもらおうかな」
と言った。
ショックと絶望で、庄助の頭はさらにクラクラした。ベルトを外して、ジッパーを下ろす金属の音が、すぐ隣で鳴った。
「や、やめろ! やるわけないやろっ……」
「フェラしたことある? イラマできればオプションバックあるから、練習がんばってみようか」
まるで言葉の通じない生き物みたいだ。毎日こんなふうに扱われていたら、そのうち自分が人間であることを忘れてしまいそうだと、庄助は思った。ヒカリが生きている世界というのは、いつもこうなのだろうか。
庄助はチラリとヒカリの方を見たが、彼女はもうこの騒動に飽きてしまったのか、それとも見たくないのか、バスルームの前でうずくまり、スマホをいじっている。
痛む身体を動かして、ベッドの隅の方まで仰向けのまま躙り上がると、行き過ぎて頭だけが縁からガクンと落ちた。鼻血が鼻腔を逆流して、喉に血の味がどろりと広がる。
体勢を立て直そうと力を入れた腹に、向田が無遠慮に跨ってきた。
「よぉ。心配しなくても、国枝くんには全部終わった後に伝えてやるよ。お前ンとこの新入りが、俺の下で男相手に身体売ってるってなぁ。どんな顔するか見ものだわ」
「ぐ、かはっ……」
喉から逆流して、口腔に落ちてきた血を飲む。不味くて吐きそうで涙が出た。エクステが鼻血で頬に貼り付いてくるのを剥がそうとした手を、頭側に回ってきた店長に掴まれ、そのままベッドに押し付けられた。またもや知らない男に無遠慮に触れられて、庄助の肩に鳥肌が立つ。
「あ、逆さイラマいいねえ。そのままそのまま」
「や……っ! やめろ!」
腰から下をジタバタと暴れさせると、腹の上で向田がせせら笑った。
「いいんですか?」
「鼻血出ちまったし、止まるまで撮影できねえだろ。ヒカリに化粧直させるしフォトショでも直すから、多少めちゃくちゃにしてもいいよ」
恐ろしいことを言う。こっちが承諾もしていないというのに、それどころか殴られて倒れている人に対して言う言葉だろうか。人権もへったくれもない。
店長と呼ばれた重ね着の男は、カメラを放り出すと、ベッドに膝立ちになった。その妙に慣れた、遠慮のない感じに嫌悪感を抱いたものの、庄助の身体は動かなかった。
ベッドの下に置いた手提げのバッグから、店長は安物のキッチンタイマーを取り出した。
「えとねー。タイマーのかけ方なんだけど、シャワー浴びる時間と着替えの時間考えて、20分前には鳴るようにしといてほしんだよね。60分コースだったら40分でプレイ終わるように。まあ最初は時間押すと思うんだけど、そこは慣れるから。え~と……」
黄色いヒヨコの形のタイマーをかざして見せながら早口で雑に説明すると、彼は相変わらず咳き込む庄助の顔をじっと見て、
「まあ細かいことはおいといて、とりあえず一回しゃぶってみてもらおうかな」
と言った。
ショックと絶望で、庄助の頭はさらにクラクラした。ベルトを外して、ジッパーを下ろす金属の音が、すぐ隣で鳴った。
「や、やめろ! やるわけないやろっ……」
「フェラしたことある? イラマできればオプションバックあるから、練習がんばってみようか」
まるで言葉の通じない生き物みたいだ。毎日こんなふうに扱われていたら、そのうち自分が人間であることを忘れてしまいそうだと、庄助は思った。ヒカリが生きている世界というのは、いつもこうなのだろうか。
庄助はチラリとヒカリの方を見たが、彼女はもうこの騒動に飽きてしまったのか、それとも見たくないのか、バスルームの前でうずくまり、スマホをいじっている。
痛む身体を動かして、ベッドの隅の方まで仰向けのまま躙り上がると、行き過ぎて頭だけが縁からガクンと落ちた。鼻血が鼻腔を逆流して、喉に血の味がどろりと広がる。
体勢を立て直そうと力を入れた腹に、向田が無遠慮に跨ってきた。
「よぉ。心配しなくても、国枝くんには全部終わった後に伝えてやるよ。お前ンとこの新入りが、俺の下で男相手に身体売ってるってなぁ。どんな顔するか見ものだわ」
「ぐ、かはっ……」
喉から逆流して、口腔に落ちてきた血を飲む。不味くて吐きそうで涙が出た。エクステが鼻血で頬に貼り付いてくるのを剥がそうとした手を、頭側に回ってきた店長に掴まれ、そのままベッドに押し付けられた。またもや知らない男に無遠慮に触れられて、庄助の肩に鳥肌が立つ。
「あ、逆さイラマいいねえ。そのままそのまま」
「や……っ! やめろ!」
腰から下をジタバタと暴れさせると、腹の上で向田がせせら笑った。
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