93 / 148
第二幕
10.囚われの子猫と末法の姫君③
しおりを挟む
向田が、写真撮影の用意をしてくると言って出ていったまま、もう小一時間になる。
一生来なければいいのに。なんかの間違いでエレベーターに挟まって死んでくれへんかな……などと、庄助は馬鹿なことを願った。
確かに、ヒカリと遊びに行ったのは良くないと思う。が、こんな屈辱的な形で精算させられるなんて、指を飛ばされたほうがほんの少しだけマシかもしれないとさえ思った。
向田の言う男の娘ヘルスとやらが、具体的になにをするかは知らない。けれど、いやらしい格好で、不特定多数の男といやらしいことをする仕事だということだけはわかる。
とてつもなく嫌だった。知らない男に触られるのは庄助にとってトラウマだったし、それよりも。
俺が他の男にヤられたら、カゲは俺のこと、汚いって思うんやろか。ヤクザの女に関わるなって言われたのを聞かずにこんな事になって。……しくってもーたなぁ。
しかも「俺は大人だから一人でできる」と豪語して家を出てきて、その結果がこの有り様だ。
景虎に愛想を尽かされる未来を思うと、暗澹たる気持ちになった。
昨日の夜の、あの優しい景虎の熱や吐息が、何だか遠い昔のことのようだ。
「かわいーじゃん」
すっかり元気をなくしてしまっている庄助の頭、その左サイドに金色の巻き髪のエクステをくっつけて、ヒカリは満足気に微笑んだ。
垂らしたまとめ髪の形になったそれは、左右両方着ければ、ツインテールになってしまう。いくらなんでも、そんなふざけた髪型できるか。庄助は頭を振ったが、ぴっちりと庄助の毛を噛んだクリップは外れなかった。
「ヒカリちゃん……! やっぱ俺、こんなことしたないてっ!」
情に訴えかけるように、ヒカリの目を見た。グレーのカラーコンタクトの奥の瞳が、女の格好をした庄助の姿を見返した。
「何言ってんの早坂さん?」
右の側頭部にもう一つ、エクステのクリップがぱちんと音を立てて装着され、庄助はアニメに出てくるような金髪のツインテールヘアになった。
「さっき言ってくれたでしょ。俺にできることないかって。それがこれだよ。あたしのためにおぢの相手して、お金儲けてください。そしたら、ネンジくんも早くヤクザ辞められるし、あたしも一緒に暮らせるんだ」
ヒカリは嬉しそうな表情をしたが、目は笑っていない。裸の両肩に、人工毛の束がサワサワと触れて、痒くて不快だ。
「それ、本気で思ってるんか? 絶対嘘や、金だけ巻き上げるに決まってるやん。ヒカリちゃんも俺と同じ、向田にとってただの……」
一生来なければいいのに。なんかの間違いでエレベーターに挟まって死んでくれへんかな……などと、庄助は馬鹿なことを願った。
確かに、ヒカリと遊びに行ったのは良くないと思う。が、こんな屈辱的な形で精算させられるなんて、指を飛ばされたほうがほんの少しだけマシかもしれないとさえ思った。
向田の言う男の娘ヘルスとやらが、具体的になにをするかは知らない。けれど、いやらしい格好で、不特定多数の男といやらしいことをする仕事だということだけはわかる。
とてつもなく嫌だった。知らない男に触られるのは庄助にとってトラウマだったし、それよりも。
俺が他の男にヤられたら、カゲは俺のこと、汚いって思うんやろか。ヤクザの女に関わるなって言われたのを聞かずにこんな事になって。……しくってもーたなぁ。
しかも「俺は大人だから一人でできる」と豪語して家を出てきて、その結果がこの有り様だ。
景虎に愛想を尽かされる未来を思うと、暗澹たる気持ちになった。
昨日の夜の、あの優しい景虎の熱や吐息が、何だか遠い昔のことのようだ。
「かわいーじゃん」
すっかり元気をなくしてしまっている庄助の頭、その左サイドに金色の巻き髪のエクステをくっつけて、ヒカリは満足気に微笑んだ。
垂らしたまとめ髪の形になったそれは、左右両方着ければ、ツインテールになってしまう。いくらなんでも、そんなふざけた髪型できるか。庄助は頭を振ったが、ぴっちりと庄助の毛を噛んだクリップは外れなかった。
「ヒカリちゃん……! やっぱ俺、こんなことしたないてっ!」
情に訴えかけるように、ヒカリの目を見た。グレーのカラーコンタクトの奥の瞳が、女の格好をした庄助の姿を見返した。
「何言ってんの早坂さん?」
右の側頭部にもう一つ、エクステのクリップがぱちんと音を立てて装着され、庄助はアニメに出てくるような金髪のツインテールヘアになった。
「さっき言ってくれたでしょ。俺にできることないかって。それがこれだよ。あたしのためにおぢの相手して、お金儲けてください。そしたら、ネンジくんも早くヤクザ辞められるし、あたしも一緒に暮らせるんだ」
ヒカリは嬉しそうな表情をしたが、目は笑っていない。裸の両肩に、人工毛の束がサワサワと触れて、痒くて不快だ。
「それ、本気で思ってるんか? 絶対嘘や、金だけ巻き上げるに決まってるやん。ヒカリちゃんも俺と同じ、向田にとってただの……」
31
お気に入りに追加
337
あなたにおすすめの小説
目が覚めたら囲まれてました
るんぱっぱ
BL
燈和(トウワ)は、いつも独りぼっちだった。
燈和の母は愛人で、すでに亡くなっている。愛人の子として虐げられてきた燈和は、ある日家から飛び出し街へ。でも、そこで不良とぶつかりボコボコにされてしまう。
そして、目が覚めると、3人の男が燈和を囲んでいて…話を聞くと、チカという男が燈和を拾ってくれたらしい。
チカに気に入られた燈和は3人と共に行動するようになる。
不思議な3人は、闇医者、若頭、ハッカー、と異色な人達で!
独りぼっちだった燈和が非日常な幸せを勝ち取る話。
平凡なSubの俺はスパダリDomに愛されて幸せです
おもち
BL
スパダリDom(いつもの)× 平凡Sub(いつもの)
BDSM要素はほぼ無し。
甘やかすのが好きなDomが好きなので、安定にイチャイチャ溺愛しています。
順次スケベパートも追加していきます
【連載再開】絶対支配×快楽耐性ゼロすぎる受けの短編集
あかさたな!
BL
※全話おとな向けな内容です。
こちらの短編集は
絶対支配な攻めが、
快楽耐性ゼロな受けと楽しい一晩を過ごす
1話完結のハッピーエンドなお話の詰め合わせです。
不定期更新ですが、
1話ごと読切なので、サクッと楽しめるように作っていくつもりです。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーー
書きかけの長編が止まってますが、
短編集から久々に、肩慣らししていく予定です。
よろしくお願いします!
ヤクザと捨て子
幕間ささめ
BL
執着溺愛ヤクザ幹部×箱入り義理息子
ヤクザの事務所前に捨てられた子どもを自分好みに育てるヤクザ幹部とそんな保護者に育てられてる箱入り男子のお話。
ヤクザは頭の切れる爽やかな風貌の腹黒紳士。息子は細身の美男子の空回り全力少年。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる