71 / 243
第二幕
5.虎に耽溺②
しおりを挟む
「それ飲んだら寝ろ」
景虎が背を向けたので、庄助は呆気にとられた。こんなところで終わるとは思っていなかったからだ。
くしゃくしゃと撫でられた髪が、もうすでに頭皮ごと熱いのに。
なんや作戦か? 焦らし作戦か? うそやろ、ちんこの権化の景虎が? ゴルゴばりの絶倫のくせに、チューだけして、寝ろ?
納得がいかなくて、勢い余って多めに口に含んでしまったお茶で、口の中を火傷した。
流しの中に緑茶の残ったマグカップを置いて、キッチンの電気を消すと、ソファベッドの横に布団を敷いている景虎のところへ行く。皮のめくれた上顎が、ヒリヒリした。
「どうした」
「べつに……明日休みやし、もーちょい起きてよかなって」
「そうか。テレビ、つけるならつけてていいぞ」
そう言いながら、敷いた布団に潜り込む景虎の背中を、ソファに座った庄助のつま先がぐいぐいと押した。
「……かまってほしいのか?」
「ちゃうわアホ、お前が無駄にでかいから。足に当たんねん、邪魔やねん」
どうも庄助は景虎に対してだけ素直になれず、可愛げのないことを言ってしまうようだ。他の人間になら、愛想を振りまくのも特に苦痛じゃないのに。
本当は、こんなことがあったという話を聞いてほしかった。言葉少なな景虎の口から、意見を聞きたかった。
向田の挑発に乗らなかった。自分は景虎の相棒だから、先走らずに我慢した。だから、少しくらいご褒美がほしかった。
さっきみたいにくっついて、ちょっとだけならキスしていいから、もう少し話していたい。
……なんて、正直に言えるわけがない。
自分たちは恋人じゃない。そんな甘えるような仲ではない。
それにもう夜中だ。壁掛け時計の針は、今にも2時を指しそうだ。
じゃあもう寝る選択肢しかないやん。一人で起きててもつまらんし。それになんか……期待してるって思われたらごっつムカつくし。あかん、寝よ。
ベッドサイドの充電器を、スマホに挿し込んだ。肩にかけていたタオルも、もう洗濯かごに入れに行くのが面倒くさくなって、ソファベッドの足元に追いやる。
照明を落とそうと、庄助はローテーブルの上のリモコンに手を伸ばした。
「来ないのか?」
電気が消えて真っ暗になった、光の存在しない深海のような夜のしじまに、湿った低い声が落ちる。
「なに……」
ぱふ、と布団をめくる小さな音がして、振り返ると、景虎が身体を起こしているシルエットがあった。
「こっちに来いよ、庄助」
低い声で名前を呼ばれただけで、庄助の腰の奥がツンと痛くなる。まるで、存在しないはずの子宮が疼くみたいで不思議だった。
「……あ」
嫌だと言おうとした。
なのに、空調に乗って流れてきた景虎の寝床の、男っぽいにおいがすると、もうだめだった。いっそ強引に、その中に引き込んでくれればいいのに。
言葉をなくしてしまって、数秒の逡巡。手を伸ばせば触れる距離が、とても遠く感じた。
景虎が背を向けたので、庄助は呆気にとられた。こんなところで終わるとは思っていなかったからだ。
くしゃくしゃと撫でられた髪が、もうすでに頭皮ごと熱いのに。
なんや作戦か? 焦らし作戦か? うそやろ、ちんこの権化の景虎が? ゴルゴばりの絶倫のくせに、チューだけして、寝ろ?
納得がいかなくて、勢い余って多めに口に含んでしまったお茶で、口の中を火傷した。
流しの中に緑茶の残ったマグカップを置いて、キッチンの電気を消すと、ソファベッドの横に布団を敷いている景虎のところへ行く。皮のめくれた上顎が、ヒリヒリした。
「どうした」
「べつに……明日休みやし、もーちょい起きてよかなって」
「そうか。テレビ、つけるならつけてていいぞ」
そう言いながら、敷いた布団に潜り込む景虎の背中を、ソファに座った庄助のつま先がぐいぐいと押した。
「……かまってほしいのか?」
「ちゃうわアホ、お前が無駄にでかいから。足に当たんねん、邪魔やねん」
どうも庄助は景虎に対してだけ素直になれず、可愛げのないことを言ってしまうようだ。他の人間になら、愛想を振りまくのも特に苦痛じゃないのに。
本当は、こんなことがあったという話を聞いてほしかった。言葉少なな景虎の口から、意見を聞きたかった。
向田の挑発に乗らなかった。自分は景虎の相棒だから、先走らずに我慢した。だから、少しくらいご褒美がほしかった。
さっきみたいにくっついて、ちょっとだけならキスしていいから、もう少し話していたい。
……なんて、正直に言えるわけがない。
自分たちは恋人じゃない。そんな甘えるような仲ではない。
それにもう夜中だ。壁掛け時計の針は、今にも2時を指しそうだ。
じゃあもう寝る選択肢しかないやん。一人で起きててもつまらんし。それになんか……期待してるって思われたらごっつムカつくし。あかん、寝よ。
ベッドサイドの充電器を、スマホに挿し込んだ。肩にかけていたタオルも、もう洗濯かごに入れに行くのが面倒くさくなって、ソファベッドの足元に追いやる。
照明を落とそうと、庄助はローテーブルの上のリモコンに手を伸ばした。
「来ないのか?」
電気が消えて真っ暗になった、光の存在しない深海のような夜のしじまに、湿った低い声が落ちる。
「なに……」
ぱふ、と布団をめくる小さな音がして、振り返ると、景虎が身体を起こしているシルエットがあった。
「こっちに来いよ、庄助」
低い声で名前を呼ばれただけで、庄助の腰の奥がツンと痛くなる。まるで、存在しないはずの子宮が疼くみたいで不思議だった。
「……あ」
嫌だと言おうとした。
なのに、空調に乗って流れてきた景虎の寝床の、男っぽいにおいがすると、もうだめだった。いっそ強引に、その中に引き込んでくれればいいのに。
言葉をなくしてしまって、数秒の逡巡。手を伸ばせば触れる距離が、とても遠く感じた。
20
お気に入りに追加
363
あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。



【連載再開】絶対支配×快楽耐性ゼロすぎる受けの短編集
あかさたな!
BL
※全話おとな向けな内容です。
こちらの短編集は
絶対支配な攻めが、
快楽耐性ゼロな受けと楽しい一晩を過ごす
1話完結のハッピーエンドなお話の詰め合わせです。
不定期更新ですが、
1話ごと読切なので、サクッと楽しめるように作っていくつもりです。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーー
書きかけの長編が止まってますが、
短編集から久々に、肩慣らししていく予定です。
よろしくお願いします!



飼われる側って案外良いらしい。
なつ
BL
20XX年。人間と人外は共存することとなった。そう、僕は朝のニュースで見て知った。
なんでも、向こうが地球の平和と引き換えに、僕達の中から選んで1匹につき1人、人間を飼うとかいう巫山戯た法を提案したようだけれど。
「まあ何も変わらない、はず…」
ちょっと視界に映る生き物の種類が増えるだけ。そう思ってた。
ほんとに。ほんとうに。
紫ヶ崎 那津(しがさき なつ)(22)
ブラック企業で働く最下層の男。悪くない顔立ちをしているが、不摂生で見る影もない。
変化を嫌い、現状維持を好む。
タルア=ミース(347)
職業不詳の人外、Swis(スウィズ)。お金持ち。
最初は可愛いペットとしか見ていなかったものの…?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる