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第二幕
4.よいこにヤクザは難しい④
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向田は、胸ポケットから取り出した加熱式タバコのインジケータを見ながら、突き放したような声で問うた。
「本指の人に営業かけます」
「それ先月も言ってたよな? で、何人来てくれた?」
そう言われて、ヒカリはしょんぼりとテーブルの前に座り込んだ。
「……ごめんなさい」
「本気でやってないからだろ」
「そんなことないよ……」
だんだんと向田の声に、責めるような険が乗り始める。不穏な会話の内容に、庄助は焦った。
やめてくれ、他人の前で揉めんとってくれ。と、畏まって正座をした膝の上で握りこぶしを作りながら、そう願った。
「公園で立ちんぼか、アプリでパパ活しろよ。そっちのが早いだろ」
「……え、でもこわいんだけど」
向田はため息をつくとシンクにグラスを置いた。
すう、と音を立ててタバコを一吸いすると、おもむろにヒカリの髪の毛を掴み上げて立たせ、頬を張った。
「二人で暮らすために頑張ろうって、お前が言ったんだろうが。それをお前が破ってるのに、なんで堂々としてんの? なあおい」
あまりにナチュラルに暴力を振るうもので、庄助は呆気に取られて何も言えなかった。
「痛いっ! ごめんなさい、ごめんなさい!」
ぶちぶちと根っこから毛髪を引っ張られ、ヒカリは顔を歪ませて、向田の手を退けようともがいた。
その爪が向田の手の甲を傷つける。向田は痛っ、と小さく叫ぶと、ヒカリの、今度は反対の頬を平手で、音が出るほど叩いた。
「むっむ向田さんっ! 暴力はやめましょうよ!」
大きな音に我に返って、庄助は弾かれたように立ち上がり、向田の腕を掴んだ。その際に脛が当たり、テーブルの上の紙コップが倒れて中身が溢れた。
「あん? ヤクザが何言ってんだオメエ」
「でも、女の子にそういうのは……!」
向田は面倒くさそうに舌打ちをして、ヒカリの髪を掴んだまま顔を上げさせると、腹に前蹴りを入れた。傍目にも手加減がわかる強さではあるが、小柄なヒカリは吹っ飛んで、リビングのドアに背中を打ち付けた。
そしてそのまま庄助に向き直ると、庄助のTシャツの胸を人差し指でとんとんと二度叩いた。
「女の前だからっていいカッコすんなよ、シノギもねえ下っ端が」
庄助の耳は興奮と怒りで、かっと熱くなった。
もちろん図星だからというのもあるが、シノギのために女を殴るなどということは、庄助の志す任侠とは違う。
気が短く、それこそ瞬間湯沸かし器のような庄助の頭の中いっぱいに、向田を殴るという選択肢が現れた。
身体はデカそうやけど、俺のが若いし。オッサンなんかに負ける気せんわ。鼻っ柱に頭突きして不意打ち。ほんで、ふらついたとこをぶっ倒してマウントとってしばき回したる。
「この……!」
庄助の手に力がこもった。今にも掴みかからんと、小さく吼える。
ふと、不安そうに成り行きを見守っているヒカリの姿が目に入り、その内手首にやたらポップでカラフルなウサギのタトゥーが見えた。
その鮮やかな刺青に、つい景虎のことが頭をよぎる。庄助は以前、彼に言われた言葉を思い出した。
「本指の人に営業かけます」
「それ先月も言ってたよな? で、何人来てくれた?」
そう言われて、ヒカリはしょんぼりとテーブルの前に座り込んだ。
「……ごめんなさい」
「本気でやってないからだろ」
「そんなことないよ……」
だんだんと向田の声に、責めるような険が乗り始める。不穏な会話の内容に、庄助は焦った。
やめてくれ、他人の前で揉めんとってくれ。と、畏まって正座をした膝の上で握りこぶしを作りながら、そう願った。
「公園で立ちんぼか、アプリでパパ活しろよ。そっちのが早いだろ」
「……え、でもこわいんだけど」
向田はため息をつくとシンクにグラスを置いた。
すう、と音を立ててタバコを一吸いすると、おもむろにヒカリの髪の毛を掴み上げて立たせ、頬を張った。
「二人で暮らすために頑張ろうって、お前が言ったんだろうが。それをお前が破ってるのに、なんで堂々としてんの? なあおい」
あまりにナチュラルに暴力を振るうもので、庄助は呆気に取られて何も言えなかった。
「痛いっ! ごめんなさい、ごめんなさい!」
ぶちぶちと根っこから毛髪を引っ張られ、ヒカリは顔を歪ませて、向田の手を退けようともがいた。
その爪が向田の手の甲を傷つける。向田は痛っ、と小さく叫ぶと、ヒカリの、今度は反対の頬を平手で、音が出るほど叩いた。
「むっむ向田さんっ! 暴力はやめましょうよ!」
大きな音に我に返って、庄助は弾かれたように立ち上がり、向田の腕を掴んだ。その際に脛が当たり、テーブルの上の紙コップが倒れて中身が溢れた。
「あん? ヤクザが何言ってんだオメエ」
「でも、女の子にそういうのは……!」
向田は面倒くさそうに舌打ちをして、ヒカリの髪を掴んだまま顔を上げさせると、腹に前蹴りを入れた。傍目にも手加減がわかる強さではあるが、小柄なヒカリは吹っ飛んで、リビングのドアに背中を打ち付けた。
そしてそのまま庄助に向き直ると、庄助のTシャツの胸を人差し指でとんとんと二度叩いた。
「女の前だからっていいカッコすんなよ、シノギもねえ下っ端が」
庄助の耳は興奮と怒りで、かっと熱くなった。
もちろん図星だからというのもあるが、シノギのために女を殴るなどということは、庄助の志す任侠とは違う。
気が短く、それこそ瞬間湯沸かし器のような庄助の頭の中いっぱいに、向田を殴るという選択肢が現れた。
身体はデカそうやけど、俺のが若いし。オッサンなんかに負ける気せんわ。鼻っ柱に頭突きして不意打ち。ほんで、ふらついたとこをぶっ倒してマウントとってしばき回したる。
「この……!」
庄助の手に力がこもった。今にも掴みかからんと、小さく吼える。
ふと、不安そうに成り行きを見守っているヒカリの姿が目に入り、その内手首にやたらポップでカラフルなウサギのタトゥーが見えた。
その鮮やかな刺青に、つい景虎のことが頭をよぎる。庄助は以前、彼に言われた言葉を思い出した。
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