60 / 243
第二幕
3.人非人のフィロソフィー①
しおりを挟む
「ああは言ったけど、庄助の気持ちもわかるよ、俺」
景虎は驚いた。
悪鬼羅刹、拷問の宝石箱と呼ばれてはばからない国枝が、人の気持ちに寄り添う発言をするなんて。
もう6月も終わりだというのに、雪でも降るに違いない。景虎は思わず空を見上げた。
湿度が低く涼しい、いい気候の夕刻だった。都会の賑やかな空を射抜くような、32階建てのタワーマンションのてっぺんが、逢魔が時の薄紫のベールを纏いはじめる。
「憧れてるものを頭ごなしにダメって言われちゃ、反発したくもなるでしょ」
「そういうものですか……?」
「そういうものだよ。ていうか庄助って、意外と猫っぽいよね」
国枝は、片手間に工具箱の中身を確かめながら言った。
「ねこ、ですか?」
「そう。最初は犬っぽいと思ってた。でもよく付き合うとそうでもないね。人懐っこいのかなって思ったら、実はガンガンに警戒してる感じとか、いつもキャーキャーうるさいのに怖がりなところとか、猫みたいだよねえ」
仔猿と言われたり猫と言われたり、タスマニアデビルと言われたり忙しいな、と景虎は思ったが、確かにそういうところは猫っぽい。可愛がろうとすれば、触らせてくれずに逃げていくところも似ている。
「はい。猫は言うことをきかないですしね……」
景虎はどこか寂しそうに言った。未だに、庄助の盃の事は納得していない。
タワーマンションの下の、公園も兼ねた小さな広場のベンチに、いかつい男が二人して座っている。
いつもの、いかにもヤクザ然とした服装ではなく、作業着に身を包んでいる。帽子を被り、傍らに工具箱まで置く念の入れようだ。
もちろんカモフラージュのためだが、彼らの肩書きはあくまで“ユニバーサルインテリアの社員”だ。社員証も名刺もある。いざとなれば、作業のために来ているという建前でゴリ押しするつもりだ。
景虎と国枝は、賭場の借金をいつまでも返さないミヤモトという40代の男を追っている。
ミヤモトは、肩書きは大手の商社の重役だが、ギャンブル依存症で借金癖まである。
返済期間を過ぎても一向に連絡すらよこさず、その上仕事で国内外を飛び回っているのでなかなか捕まらない。
負債額は利子込みで実に約3000万円。一日で拵えた額ではないが、織原の賭場だけでこれだけあるということは、他のシマでも相当つまんでいるに違いない。
そのミヤモトが愛人のマンションに出入りしているとの情報を得た。
とにかくタチが悪い男だが、借金を返済してもらわないことには話にならない。他の組にも負債があるのならば、どこよりも先に返済させたい。
これは大きなシノギだ。だからこそ織原でも指折りの武闘派の、国枝と景虎の二人が出張る事になったのだ。
が、ターゲットはなかなか姿を現さず、時間が停滞しているように過ぎるのが遅い。
景虎は驚いた。
悪鬼羅刹、拷問の宝石箱と呼ばれてはばからない国枝が、人の気持ちに寄り添う発言をするなんて。
もう6月も終わりだというのに、雪でも降るに違いない。景虎は思わず空を見上げた。
湿度が低く涼しい、いい気候の夕刻だった。都会の賑やかな空を射抜くような、32階建てのタワーマンションのてっぺんが、逢魔が時の薄紫のベールを纏いはじめる。
「憧れてるものを頭ごなしにダメって言われちゃ、反発したくもなるでしょ」
「そういうものですか……?」
「そういうものだよ。ていうか庄助って、意外と猫っぽいよね」
国枝は、片手間に工具箱の中身を確かめながら言った。
「ねこ、ですか?」
「そう。最初は犬っぽいと思ってた。でもよく付き合うとそうでもないね。人懐っこいのかなって思ったら、実はガンガンに警戒してる感じとか、いつもキャーキャーうるさいのに怖がりなところとか、猫みたいだよねえ」
仔猿と言われたり猫と言われたり、タスマニアデビルと言われたり忙しいな、と景虎は思ったが、確かにそういうところは猫っぽい。可愛がろうとすれば、触らせてくれずに逃げていくところも似ている。
「はい。猫は言うことをきかないですしね……」
景虎はどこか寂しそうに言った。未だに、庄助の盃の事は納得していない。
タワーマンションの下の、公園も兼ねた小さな広場のベンチに、いかつい男が二人して座っている。
いつもの、いかにもヤクザ然とした服装ではなく、作業着に身を包んでいる。帽子を被り、傍らに工具箱まで置く念の入れようだ。
もちろんカモフラージュのためだが、彼らの肩書きはあくまで“ユニバーサルインテリアの社員”だ。社員証も名刺もある。いざとなれば、作業のために来ているという建前でゴリ押しするつもりだ。
景虎と国枝は、賭場の借金をいつまでも返さないミヤモトという40代の男を追っている。
ミヤモトは、肩書きは大手の商社の重役だが、ギャンブル依存症で借金癖まである。
返済期間を過ぎても一向に連絡すらよこさず、その上仕事で国内外を飛び回っているのでなかなか捕まらない。
負債額は利子込みで実に約3000万円。一日で拵えた額ではないが、織原の賭場だけでこれだけあるということは、他のシマでも相当つまんでいるに違いない。
そのミヤモトが愛人のマンションに出入りしているとの情報を得た。
とにかくタチが悪い男だが、借金を返済してもらわないことには話にならない。他の組にも負債があるのならば、どこよりも先に返済させたい。
これは大きなシノギだ。だからこそ織原でも指折りの武闘派の、国枝と景虎の二人が出張る事になったのだ。
が、ターゲットはなかなか姿を現さず、時間が停滞しているように過ぎるのが遅い。
12
お気に入りに追加
363
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。



飼われる側って案外良いらしい。
なつ
BL
20XX年。人間と人外は共存することとなった。そう、僕は朝のニュースで見て知った。
なんでも、向こうが地球の平和と引き換えに、僕達の中から選んで1匹につき1人、人間を飼うとかいう巫山戯た法を提案したようだけれど。
「まあ何も変わらない、はず…」
ちょっと視界に映る生き物の種類が増えるだけ。そう思ってた。
ほんとに。ほんとうに。
紫ヶ崎 那津(しがさき なつ)(22)
ブラック企業で働く最下層の男。悪くない顔立ちをしているが、不摂生で見る影もない。
変化を嫌い、現状維持を好む。
タルア=ミース(347)
職業不詳の人外、Swis(スウィズ)。お金持ち。
最初は可愛いペットとしか見ていなかったものの…?

王道学園の冷徹生徒会長、裏の顔がバレて総受けルート突入しちゃいました!え?逃げ場無しですか?
名無しのナナ氏
BL
王道学園に入学して1ヶ月でトップに君臨した冷徹生徒会長、有栖川 誠(ありすがわ まこと)。常に冷静で無表情、そして無言の誠を生徒達からは尊敬の眼差しで見られていた。
そんな彼のもう1つの姿は… どの企業にも属さないにも関わらず、VTuber界で人気を博した個人VTuber〈〈 アイリス 〉〉!? 本性は寂しがり屋の泣き虫。色々あって周りから誤解されまくってしまった結果アイリスとして素を出していた。そんなある日、生徒会の仕事を1人で黙々とやっている内に疲れてしまい__________
※
・非王道気味
・固定カプ予定は無い
・悲しい過去🐜のたまにシリアス
・話の流れが遅い

目が覚めたら囲まれてました
るんぱっぱ
BL
燈和(トウワ)は、いつも独りぼっちだった。
燈和の母は愛人で、すでに亡くなっている。愛人の子として虐げられてきた燈和は、ある日家から飛び出し街へ。でも、そこで不良とぶつかりボコボコにされてしまう。
そして、目が覚めると、3人の男が燈和を囲んでいて…話を聞くと、チカという男が燈和を拾ってくれたらしい。
チカに気に入られた燈和は3人と共に行動するようになる。
不思議な3人は、闇医者、若頭、ハッカー、と異色な人達で!
独りぼっちだった燈和が非日常な幸せを勝ち取る話。

ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる