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第二幕
1.ハッピーさんとワナビーくん⑦
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「こうしてお前に触れられることが。目が覚めたときに、お前がそこにいることが。時々、全部夢で、嘘なんじゃないかと思う。それくらい俺は今、幸せなんだ。これ以上はないくらい。夢ならもうとっくに叶ってる」
景虎は目を閉じる。身体に触れる布越しの体温と流れる血。それが庄助の生きている証拠だと思うと、瞼の裏がじわっと熱くなる。
自分の傍で同じようにヤクザとして生きれば、真っ当な生活を送ることはできなくなる。それでも、庄助が好きだからここに居てほしい。
最適解の出てこない相反する欲望に、いつだって焦げついている。
「お前、カゲよぉ……えらい最近よう喋るようになったやんけ」
気恥ずかしさに、庄助は頬を染めた。
映画の口説き文句みたいな言葉が、景虎の口から自分に向けて発せられるのは心臓に悪い。嫌な気はしないけれど。
確かに庄助の言う通り、景虎は出会ったときと少し様相を変えた。無口で何を考えているかわからない、という基本ベースはそのままだが、考えたことを咀嚼して自分なりの言葉にするようになった。大きな進歩だ。
「ちゃうやろ、その……もっとあるやろ他に、夢と幸せ。金がめっちゃあるとか、巨乳の女の子が好きになってくれるとか」
「そうだな。庄助に首輪をつけて、檻の中で一生飼うとかな」
「俺はペットやないって言うとんねんハゲ」
ゆるくウェーブのかかった髪をギュッと引っ張ると、景虎はくすぐったそうに、困ったように笑った。
その表情すら男前で、いっそハゲてしまえと思った。
こうして景虎が、二人きりのときに冗談を言ったり、よく笑顔を見せるようになったのも、心を開かれているようで、正直少し嬉しかった。
けれど、絆されてはいけないと、心のどこかで庄助はブレーキをかけていた。
俺にはカゲに好かれる要素、別にないしなー。セックスの相性がええくらい?
好きとか愛してるとか、真に受けんとこ。そのうち飽きるかもしらんし。
……などという自己否定にも近い考えは、何かあった時に傷つかないための予防線だということが、庄助自身わかっていた。それでも、そう思っていることがなんとなく保険になっている。
「庄助、好きだ」
それをこちらの葛藤も知らないで、躊躇いなく愛を吐き出し、無遠慮に心と身体に触れてくる。
普段無口な男の、ストレートすぎる愛情表現に、庄助はいつも困惑する。
猫にするように、顎の下から耳の裏までを優しく撫でられて、庄助は息を呑んだ。
蒸し暑さも手伝って、ワイシャツの背中がべたつき始める。お互いの傍らに置いた2本の水のペットボトルが、大きな水滴を纏い始めていた。
「わかったからもう離せって……! 誰かに見られたらどないすんねん」
庄助は目の動きだけで、周りに人がいないか見渡した。先程と同じく公園内は静かで人通りもないが、耳を澄ますと向こうの噴水広場の方で、数人の若者たちの笑い合う声がした。
景虎は目を閉じる。身体に触れる布越しの体温と流れる血。それが庄助の生きている証拠だと思うと、瞼の裏がじわっと熱くなる。
自分の傍で同じようにヤクザとして生きれば、真っ当な生活を送ることはできなくなる。それでも、庄助が好きだからここに居てほしい。
最適解の出てこない相反する欲望に、いつだって焦げついている。
「お前、カゲよぉ……えらい最近よう喋るようになったやんけ」
気恥ずかしさに、庄助は頬を染めた。
映画の口説き文句みたいな言葉が、景虎の口から自分に向けて発せられるのは心臓に悪い。嫌な気はしないけれど。
確かに庄助の言う通り、景虎は出会ったときと少し様相を変えた。無口で何を考えているかわからない、という基本ベースはそのままだが、考えたことを咀嚼して自分なりの言葉にするようになった。大きな進歩だ。
「ちゃうやろ、その……もっとあるやろ他に、夢と幸せ。金がめっちゃあるとか、巨乳の女の子が好きになってくれるとか」
「そうだな。庄助に首輪をつけて、檻の中で一生飼うとかな」
「俺はペットやないって言うとんねんハゲ」
ゆるくウェーブのかかった髪をギュッと引っ張ると、景虎はくすぐったそうに、困ったように笑った。
その表情すら男前で、いっそハゲてしまえと思った。
こうして景虎が、二人きりのときに冗談を言ったり、よく笑顔を見せるようになったのも、心を開かれているようで、正直少し嬉しかった。
けれど、絆されてはいけないと、心のどこかで庄助はブレーキをかけていた。
俺にはカゲに好かれる要素、別にないしなー。セックスの相性がええくらい?
好きとか愛してるとか、真に受けんとこ。そのうち飽きるかもしらんし。
……などという自己否定にも近い考えは、何かあった時に傷つかないための予防線だということが、庄助自身わかっていた。それでも、そう思っていることがなんとなく保険になっている。
「庄助、好きだ」
それをこちらの葛藤も知らないで、躊躇いなく愛を吐き出し、無遠慮に心と身体に触れてくる。
普段無口な男の、ストレートすぎる愛情表現に、庄助はいつも困惑する。
猫にするように、顎の下から耳の裏までを優しく撫でられて、庄助は息を呑んだ。
蒸し暑さも手伝って、ワイシャツの背中がべたつき始める。お互いの傍らに置いた2本の水のペットボトルが、大きな水滴を纏い始めていた。
「わかったからもう離せって……! 誰かに見られたらどないすんねん」
庄助は目の動きだけで、周りに人がいないか見渡した。先程と同じく公園内は静かで人通りもないが、耳を澄ますと向こうの噴水広場の方で、数人の若者たちの笑い合う声がした。
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