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第二幕
1.ハッピーさんとワナビーくん⑥
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「なあ、庄助。お前が表の、会社の仕事をやって、俺が裏の仕事をやる。それじゃあ駄目なのか?」
つまらなそうに口を尖らせる庄助を、宥めるような口ぶりで話す。が、庄助はますます不機嫌な顔になるばかりだ。
「お前の憧れるヤクザの世界を近くで見られるんだ、危険な目に合わずに……悪くないだろう?」
「カゲのボケナス」
「ボケナス……!?」
ボケ&ナスというあまり聞き慣れない組み合わせの単語に、景虎は目を見張った。
「あのな、俺はヤクザの仕事を見るためだけに、大阪から出てきたわけやないんや。かっこええ極道の、男の中の男になるために来たんやで。ジコジツゲンのために!」
景虎は、ほぉ、と小さく相槌を打った。
「つーかお前、俺の相棒なんやったらちょっとは応援せえよ。出世したらカゲを俺専用のパシリにしたるから。一緒にデカい夢叶えて、幸せになろうや~!」
憧れにキラキラと輝く瞳は、まるで少年のようだ。
ぼくは、大きくなったらサッカーせん手になりたいです。なぜかというと、かっこいいからです。
どう考えても、庄助はそれぐらいのノリでヤクザという世界に足を踏み入れようとしている。そのことが景虎にはどうしても納得できなかった。
幼い頃から、裏の世界の厭なものばかり見すぎたのかもしれない。
昨日喋ったばかりの人間が、次の日腹を刺されて死ぬこともある。自分が刺される方にも刺す方にもなり得る世界に、諸手を上げて愛する人を歓迎できるはずがない。
それにくわえ、庄助は人一倍、いや三倍くらい無謀でバカなのだ。
景虎は、うっすら頭痛がする眉間を指で押さえた。どう伝えれば理解してもらえるのか自分なりに考えたが、上手い言葉が出てこなかった。
「これ以上幸せになんて、なれない」
考えた末、景虎は呟いた。
見上げた夜空、梅雨の雲の切れ間から、水彩画のような輪郭をした白い半月が顔を出している。
「おーん? ……そうかよ。そんな辛気臭い顔しとったら、そら幸せも逃げていくわ」
ふてくされたような声だ。庄助はペットボトルに口をつけると、くるくると蓋を締めた。残った水がボトルの側面を、ちゃぷんと打つ音がした。
「そうじゃない」
景虎は座ったまま庄助に向き直ると、寄り掛かるように抱き寄せた。
「へわっ、お、おい!」
こんなところでくっついてくるな、と庄助は慌てたが、例によって景虎は聞いていない。誰かに見られたら恥ずかしいとか、逆に見た人をびっくりさせてしまうだろうとか、そういった感情が欠落しているに違いない。
ほぼ新品の、真新しく張りのあるワイシャツの布地が、景虎の白人のように尖った鼻先に触れた。顔を押し付けて息を吸い込むと、知らない繊維の匂いの奥に、かすかに庄助の柔らかな香りの糸口がある。
「幸せなんだ、俺は。とっくに」
「はぁ……?」
抵抗も虚しく、腕の筋肉の中に閉じ込められた形になった庄助は、仕方なく景虎の声に耳を傾けた。衣服越しの体温が熱くて仕方ない。
つまらなそうに口を尖らせる庄助を、宥めるような口ぶりで話す。が、庄助はますます不機嫌な顔になるばかりだ。
「お前の憧れるヤクザの世界を近くで見られるんだ、危険な目に合わずに……悪くないだろう?」
「カゲのボケナス」
「ボケナス……!?」
ボケ&ナスというあまり聞き慣れない組み合わせの単語に、景虎は目を見張った。
「あのな、俺はヤクザの仕事を見るためだけに、大阪から出てきたわけやないんや。かっこええ極道の、男の中の男になるために来たんやで。ジコジツゲンのために!」
景虎は、ほぉ、と小さく相槌を打った。
「つーかお前、俺の相棒なんやったらちょっとは応援せえよ。出世したらカゲを俺専用のパシリにしたるから。一緒にデカい夢叶えて、幸せになろうや~!」
憧れにキラキラと輝く瞳は、まるで少年のようだ。
ぼくは、大きくなったらサッカーせん手になりたいです。なぜかというと、かっこいいからです。
どう考えても、庄助はそれぐらいのノリでヤクザという世界に足を踏み入れようとしている。そのことが景虎にはどうしても納得できなかった。
幼い頃から、裏の世界の厭なものばかり見すぎたのかもしれない。
昨日喋ったばかりの人間が、次の日腹を刺されて死ぬこともある。自分が刺される方にも刺す方にもなり得る世界に、諸手を上げて愛する人を歓迎できるはずがない。
それにくわえ、庄助は人一倍、いや三倍くらい無謀でバカなのだ。
景虎は、うっすら頭痛がする眉間を指で押さえた。どう伝えれば理解してもらえるのか自分なりに考えたが、上手い言葉が出てこなかった。
「これ以上幸せになんて、なれない」
考えた末、景虎は呟いた。
見上げた夜空、梅雨の雲の切れ間から、水彩画のような輪郭をした白い半月が顔を出している。
「おーん? ……そうかよ。そんな辛気臭い顔しとったら、そら幸せも逃げていくわ」
ふてくされたような声だ。庄助はペットボトルに口をつけると、くるくると蓋を締めた。残った水がボトルの側面を、ちゃぷんと打つ音がした。
「そうじゃない」
景虎は座ったまま庄助に向き直ると、寄り掛かるように抱き寄せた。
「へわっ、お、おい!」
こんなところでくっついてくるな、と庄助は慌てたが、例によって景虎は聞いていない。誰かに見られたら恥ずかしいとか、逆に見た人をびっくりさせてしまうだろうとか、そういった感情が欠落しているに違いない。
ほぼ新品の、真新しく張りのあるワイシャツの布地が、景虎の白人のように尖った鼻先に触れた。顔を押し付けて息を吸い込むと、知らない繊維の匂いの奥に、かすかに庄助の柔らかな香りの糸口がある。
「幸せなんだ、俺は。とっくに」
「はぁ……?」
抵抗も虚しく、腕の筋肉の中に閉じ込められた形になった庄助は、仕方なく景虎の声に耳を傾けた。衣服越しの体温が熱くて仕方ない。
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