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番外編
シラフじゃできへんっ♡①
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夜の街の空気は冷たいが、腕に絡みついてくる熱は重くて温かい。
下手くそなタップダンスのような足取りで歩く庄助に肩を貸して、景虎は駅を目指し歩いた。
年の瀬の繁華街は終電間際でも明るく、そこかしこで自分たちと同じような酔っ払いが千鳥足で歩き回っていて、さながらゾンビ映画のようであった。
「んん~、かァげ、歩くのはやいて~」
ヘナヘナとコートの肩口に縋りついてくる庄助を、無理矢理立たせ引きずって歩く。組の忘年会といえど織原組はそこそこ大きいので、国枝の事務所に詰めている部下20数名で、料亭を借り切って宴会をした。一番下っ端で若く、組に入りたての庄助が沢山飲まされるのは当然のことで、古い体制のヤクザという世界にはアルハラなどという言葉は存在しないも同然だった。
「弱いのに飲むから……お前は」
「弱くない、ゲロ吐いたことないもん」
庄助はビール二杯程度で酔っ払うが、その後吐いたりは確かにしない。ただ楽しくなりすぎて、はしゃいで記憶をまるっと飛ばすタイプだ。一方の景虎はザルで、強い酒を飲んでもほとんど変わらない。飲ませる意味がないとよく周りに言われる。
「ふふ、さっきなぁ、国枝さんにぃ……庄助は頑張ってるから、出世できるって言われてん」
庄助の話す言葉が唇の先で白く変わり、夜の冷たい空気に溶けた。金色の髪から漂うタバコの匂いは、色んな種類が混ざり合っている。
「あの人、誰にでも言うぞ。タラシだから」
「あん? あ~、さてはカゲ~。やきもちやいてるな? 確かに国枝さんはかっこええ、渋いし気が利くし、誰かさんとおおちがいや……」
景虎はふらふらと歩く庄助を一旦立ち止まらせ、マフラーを巻き直してやると、持っていた水のペットボトルを開けて唇に押し当てた。
「酔いすぎだ。ほら飲め」
「んん……へへぇ、もう眠い、歩かれへん……カゲ~おんぶしてぇ」
庄助は唇についた水をぺろっと舐めるだけ舐めて、景虎の首に抱きついた。身長差でぶら下がるような格好になる庄助の脇を猫のように捕まえ、地面に立たせる。
居酒屋の立て看板の光で、庄助の頬が青白く光る。見上げてくる潤んだ瞳に、街の灯りの様々な色が洪水のように映っていた。
「連れ込むぞ、お前」
「ん?」
「そういう甘えたこと言ってたら、そこらへんに連れ込んで犯すぞ」
景虎は、庄助の背後の建物を顎で指した。ハリボテの宮殿のような安っぽい外観にくっついた毒々しい紫のネオンの下に、デカデカとサービス料金の表示がある。庄助は目をぱちぱちと2回瞬せると、
「ええよ? 今さらそんなんでビビらんし。カゲの脅しはほんっまワンパターンやな」
と、犬歯を見せてニヤッと笑った。
いつもならここでビビって退くのに、酒で気が大きくなっているのだろうか。少し面食らったものの、後悔するなよ、と景虎は庄助の冷えた手を引いた。
下手くそなタップダンスのような足取りで歩く庄助に肩を貸して、景虎は駅を目指し歩いた。
年の瀬の繁華街は終電間際でも明るく、そこかしこで自分たちと同じような酔っ払いが千鳥足で歩き回っていて、さながらゾンビ映画のようであった。
「んん~、かァげ、歩くのはやいて~」
ヘナヘナとコートの肩口に縋りついてくる庄助を、無理矢理立たせ引きずって歩く。組の忘年会といえど織原組はそこそこ大きいので、国枝の事務所に詰めている部下20数名で、料亭を借り切って宴会をした。一番下っ端で若く、組に入りたての庄助が沢山飲まされるのは当然のことで、古い体制のヤクザという世界にはアルハラなどという言葉は存在しないも同然だった。
「弱いのに飲むから……お前は」
「弱くない、ゲロ吐いたことないもん」
庄助はビール二杯程度で酔っ払うが、その後吐いたりは確かにしない。ただ楽しくなりすぎて、はしゃいで記憶をまるっと飛ばすタイプだ。一方の景虎はザルで、強い酒を飲んでもほとんど変わらない。飲ませる意味がないとよく周りに言われる。
「ふふ、さっきなぁ、国枝さんにぃ……庄助は頑張ってるから、出世できるって言われてん」
庄助の話す言葉が唇の先で白く変わり、夜の冷たい空気に溶けた。金色の髪から漂うタバコの匂いは、色んな種類が混ざり合っている。
「あの人、誰にでも言うぞ。タラシだから」
「あん? あ~、さてはカゲ~。やきもちやいてるな? 確かに国枝さんはかっこええ、渋いし気が利くし、誰かさんとおおちがいや……」
景虎はふらふらと歩く庄助を一旦立ち止まらせ、マフラーを巻き直してやると、持っていた水のペットボトルを開けて唇に押し当てた。
「酔いすぎだ。ほら飲め」
「んん……へへぇ、もう眠い、歩かれへん……カゲ~おんぶしてぇ」
庄助は唇についた水をぺろっと舐めるだけ舐めて、景虎の首に抱きついた。身長差でぶら下がるような格好になる庄助の脇を猫のように捕まえ、地面に立たせる。
居酒屋の立て看板の光で、庄助の頬が青白く光る。見上げてくる潤んだ瞳に、街の灯りの様々な色が洪水のように映っていた。
「連れ込むぞ、お前」
「ん?」
「そういう甘えたこと言ってたら、そこらへんに連れ込んで犯すぞ」
景虎は、庄助の背後の建物を顎で指した。ハリボテの宮殿のような安っぽい外観にくっついた毒々しい紫のネオンの下に、デカデカとサービス料金の表示がある。庄助は目をぱちぱちと2回瞬せると、
「ええよ? 今さらそんなんでビビらんし。カゲの脅しはほんっまワンパターンやな」
と、犬歯を見せてニヤッと笑った。
いつもならここでビビって退くのに、酒で気が大きくなっているのだろうか。少し面食らったものの、後悔するなよ、と景虎は庄助の冷えた手を引いた。
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