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9.デビル、めざめる②*
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風呂上がりにタオルで髪と身体を乱暴に拭かれて、庄助は初めて景虎に会ったときのことを思い出した。
(あのときも、カゲは雨で濡れた俺の髪の毛をガシガシ拭いてきた。変なやつって思ったし実際変なやつやけど、マジでこんな変な関係になるとは考えもせんかった)
庄助は、自分にないものを持っている景虎を羨ましく思う。男っぽいのにきれいな顔、恵まれた身長や体格、低い声、なによりも畏怖さえ感じるその強さ。
(カゲの喧嘩の強さは、なんか俺のとは違う)
庄助は今日までの景虎のことを見てきて、なんとなくそう思う。
強いのに、危うい。
暴力にも武器にもひるまない、防衛本能としての恐怖という感情が、景虎にはすっぽり欠落しているみたいで、それが少し恐ろしくもある。恐ろしいが、魅惑的だった。
美しい獣の爪と牙が弱きものをねじ伏せるのを、間近で見てしまってからはもう、目が離せない。
(そんなんじゃない。カゲは、俺なんかより圧倒的に体がでかいし力も強いのに、なんとなくほっとかれへん。変な奴やし、気になる。ただそれだけや)
庄助は自分に言い訳せずにはいられなかった。性格上、グレーのまま保留しておくのが苦手で、なんとか気持ちに説明をつけたかった。
「庄助、おい……何ぼんやりしてる」
頭の上から声が降ってきて、庄助は目線だけをそちらに向けた。出会ったときと同じ、ごつごつと骨ばった指が金色の髪を梳いた。
夜は深まり、もうすぐ夜中の2時になろうとしていた。部屋の電気を消していると、肌や音や匂いの感覚がより鋭敏になる気がする。部屋の空気が冷えているのを感じる。
「どうした、手が止まってるぞ」
「……んうぅ」
精一杯睨みつけたつもりだったが、景虎は庄助と目が合うと、愛おしそうに目尻を下げた。そのままもう一度髪を撫でると、庄助の後ろ頭を両手でホールドした。
「ぬ、ぅっ……ん!」
庄助はもがいた。さっきから、跪いてペニスを咥えさせられている。触っていいとは言ったが、触りたいとは一言も言っていないのに。
気づけばまたいつものソファベッドの上で絡み合っている。いい加減、普段座る場所と盛る場所を分けたほうがいいのだろうか。ぼうっとした頭で考えたけれど、答えは出なかった。
景虎のものは太くて長くて、先っぽだけで口の中がいっぱいになってしまう。庄助は逃れようと頭を引いたが、逆に引き寄せられて喉の奥にまで押し込まれた。
「ぐっ、う……も゙っ、ん……んんん~!」
苦しくて目がチカチカする。鼻で吸う息だけでは足りない、口を大きく開けて、下顎に開いたかすかな隙間から酸素を求めた。舌の上にぼってりと乗った硬いペニスがぴくんと跳ねた。
「そのまま舌で裏筋のところを……そう、奥から手前に動かしてみろ」
「んぐ……ぷはっ」
そうは言われても舌が攣りそうだし、その前に窒息しそうだ。我慢できず吐き出すと、景虎のそれは腹に頭をぺちんとぶつけるように戻っていった。庄助は咳き込みながらその、10代のような角度に恐れおののく。しばらく膝立ちになっていたので、床で擦れた関節が痛かった。
「もうっ……無理やってえ……」
泣き言を言いながら景虎の太い腿に縋って、庄助は息を整える。すぐに頬を唾液まみれのペニスの先端でぺちぺちと叩かれ、咥えろと促される。屈辱だった。
「ふ……うぐぅ……」
言われるまま咥えようとしても、疲れた顎が言うことを聞かない。うまく口に入らず、滑った亀頭がばちんと庄助の額を打つ。
勃起したペニスを顔に押し付けたまま、唾液とカウパーでべたべたの幹に舌を這わせて、水を飲む猫のように舐めた。景虎の陰毛がサワサワと頬に触れて、そこからボディソープの匂いがした。
「ちょっといやらしすぎるな……」
庄助の前髪をかき分けて顔をまじまじと見ると、景虎はため息をついた。最初は、舐めるのなんか絶対に嫌だ、噛み切ってやる、などと嘯いていた生意気な唇が、今やペロペロと自らの性器を舐めているのだ。
「やらひくない……っ、ふ」
「ふふ、そそるけど下手くそだ。俺がイクまでやるのか? 朝になるぞ」
「お前ふぁ、文句ばっか、ぉあ……っ」
庄助の眼前のペニスを扱く。ぬちぬちとあまりにいやらしい音と光景に、庄助は生娘のように目を背けた。身体の位置を入れ替えるように、ソファに押し倒される。
「使わせろ、ケツ」
風呂場で散々にほぐされ、洗浄までされた穴に、景虎の指ごと冷たいローションが入り込んでくる。前回慣らされたとはいえ、痛みはある。けれど、庄助の身体は覚えていた。
あの何も考えられなくなるくらいの捕食みたいな激しいセックスを。本能で力の差を感じて、ひれ伏すときの恍惚を思い出すと、首の後ろに鳥肌が立った。
「んひ、へぅ……や、そんなん……っ!」
ぷちゅっ、と音を立てて肛門に鈴口が触れる。庄助は身体を震わせた。
「挿れるのこわい……イヤや……あっ」
それは本当の気持ちだった。太いものに侵入される痛みももちろんだが、それ以上に我が失われることは恐ろしかった。だが、それを伝えることで景虎の嗜虐心に火がつくことも庄助にはなんとなくわかった。
「ぐ……ぅ」
拒否は聞き入れられず案の定、景虎は何も言わず挿入してきた。拡がって押されて、声が出なくなる。景虎の目を盗み見る。いたく興奮したように開いた瞳孔がギラギラと光って、まるで夜を征くネコ科の獣みたいだ。
「あぅ、あっ……んん……うぁあ……!」
貫かれ浅い呼吸をしたまま、景虎の双肩、左右の虎を見上げる。相変わらず鮮やかで綺麗な模様だ。抱かれていると背中の般若が見えないのだということに、庄助は今更気づいた。
「庄助……」
仰向けの状態で太腿を掴んで、大きく開かせた足の間から、庄助の立ち気味の耳が赤く充血しているのが見える。恥ずかしいのか腕で隠している顔の下半分、荒く息をつく唇から覗く白い犬歯が色っぽかった。
タスマニアデビルの被毛は黒いが、耳の毛は薄く、また血流によって赤く見えるそうだ。喧嘩や交尾によって興奮すると、更に赤くなる。庄助のことを最初にタスマニアデビルと呼んだ人間は、そういった性質を知っていたのだろうか。あまりにもぴったりだった。
「ふ、はっあ……! んぎっ……」
くの字に曲げられた腹が苦しくて、庄助は口を大きく開けて息をした。時間をかけて拡げられた後ろの孔を、景虎の赤黒く脈打つペニスがゆっくりと出入りする。以前は後ろから犯されてばかりいたから見えなかった。恐ろしいほど太く凶悪なそれが自分を穿っているのを、どうしても意識してしまう。
「顔を上げてよく見てみろ」
「やぁっ……! あっ、んぐ」
「見ろ、庄助」
後ろ頭を掬うように持ち上げられた。庄助は、恐る恐る太腿の間からそこを見た。景虎はわざとゆっくり、ペニスを引き抜いてゆく。
「あ……」
てらてらと、腸液とローションにまみれて幹全体が粘っこく光る。根っこから液体が一筋垂れて、血管の凹凸に沿って流れてゆき、それがまた庄助の尻の穴に滴った。くびれたカリのあたりまで引き出して、全部抜けきらないうちにまたゆっくりと挿入してゆく。
「ひぃいっ……」
見えていると全然違う。ペニスに押し込まれそうになったローションが、孔の縁まで逃げて空気を含み、気泡となった部分がまた圧で弾ける。それがいやらしい音の正体だと知って、庄助は恥ずかしさに目を眇めた。
(あのときも、カゲは雨で濡れた俺の髪の毛をガシガシ拭いてきた。変なやつって思ったし実際変なやつやけど、マジでこんな変な関係になるとは考えもせんかった)
庄助は、自分にないものを持っている景虎を羨ましく思う。男っぽいのにきれいな顔、恵まれた身長や体格、低い声、なによりも畏怖さえ感じるその強さ。
(カゲの喧嘩の強さは、なんか俺のとは違う)
庄助は今日までの景虎のことを見てきて、なんとなくそう思う。
強いのに、危うい。
暴力にも武器にもひるまない、防衛本能としての恐怖という感情が、景虎にはすっぽり欠落しているみたいで、それが少し恐ろしくもある。恐ろしいが、魅惑的だった。
美しい獣の爪と牙が弱きものをねじ伏せるのを、間近で見てしまってからはもう、目が離せない。
(そんなんじゃない。カゲは、俺なんかより圧倒的に体がでかいし力も強いのに、なんとなくほっとかれへん。変な奴やし、気になる。ただそれだけや)
庄助は自分に言い訳せずにはいられなかった。性格上、グレーのまま保留しておくのが苦手で、なんとか気持ちに説明をつけたかった。
「庄助、おい……何ぼんやりしてる」
頭の上から声が降ってきて、庄助は目線だけをそちらに向けた。出会ったときと同じ、ごつごつと骨ばった指が金色の髪を梳いた。
夜は深まり、もうすぐ夜中の2時になろうとしていた。部屋の電気を消していると、肌や音や匂いの感覚がより鋭敏になる気がする。部屋の空気が冷えているのを感じる。
「どうした、手が止まってるぞ」
「……んうぅ」
精一杯睨みつけたつもりだったが、景虎は庄助と目が合うと、愛おしそうに目尻を下げた。そのままもう一度髪を撫でると、庄助の後ろ頭を両手でホールドした。
「ぬ、ぅっ……ん!」
庄助はもがいた。さっきから、跪いてペニスを咥えさせられている。触っていいとは言ったが、触りたいとは一言も言っていないのに。
気づけばまたいつものソファベッドの上で絡み合っている。いい加減、普段座る場所と盛る場所を分けたほうがいいのだろうか。ぼうっとした頭で考えたけれど、答えは出なかった。
景虎のものは太くて長くて、先っぽだけで口の中がいっぱいになってしまう。庄助は逃れようと頭を引いたが、逆に引き寄せられて喉の奥にまで押し込まれた。
「ぐっ、う……も゙っ、ん……んんん~!」
苦しくて目がチカチカする。鼻で吸う息だけでは足りない、口を大きく開けて、下顎に開いたかすかな隙間から酸素を求めた。舌の上にぼってりと乗った硬いペニスがぴくんと跳ねた。
「そのまま舌で裏筋のところを……そう、奥から手前に動かしてみろ」
「んぐ……ぷはっ」
そうは言われても舌が攣りそうだし、その前に窒息しそうだ。我慢できず吐き出すと、景虎のそれは腹に頭をぺちんとぶつけるように戻っていった。庄助は咳き込みながらその、10代のような角度に恐れおののく。しばらく膝立ちになっていたので、床で擦れた関節が痛かった。
「もうっ……無理やってえ……」
泣き言を言いながら景虎の太い腿に縋って、庄助は息を整える。すぐに頬を唾液まみれのペニスの先端でぺちぺちと叩かれ、咥えろと促される。屈辱だった。
「ふ……うぐぅ……」
言われるまま咥えようとしても、疲れた顎が言うことを聞かない。うまく口に入らず、滑った亀頭がばちんと庄助の額を打つ。
勃起したペニスを顔に押し付けたまま、唾液とカウパーでべたべたの幹に舌を這わせて、水を飲む猫のように舐めた。景虎の陰毛がサワサワと頬に触れて、そこからボディソープの匂いがした。
「ちょっといやらしすぎるな……」
庄助の前髪をかき分けて顔をまじまじと見ると、景虎はため息をついた。最初は、舐めるのなんか絶対に嫌だ、噛み切ってやる、などと嘯いていた生意気な唇が、今やペロペロと自らの性器を舐めているのだ。
「やらひくない……っ、ふ」
「ふふ、そそるけど下手くそだ。俺がイクまでやるのか? 朝になるぞ」
「お前ふぁ、文句ばっか、ぉあ……っ」
庄助の眼前のペニスを扱く。ぬちぬちとあまりにいやらしい音と光景に、庄助は生娘のように目を背けた。身体の位置を入れ替えるように、ソファに押し倒される。
「使わせろ、ケツ」
風呂場で散々にほぐされ、洗浄までされた穴に、景虎の指ごと冷たいローションが入り込んでくる。前回慣らされたとはいえ、痛みはある。けれど、庄助の身体は覚えていた。
あの何も考えられなくなるくらいの捕食みたいな激しいセックスを。本能で力の差を感じて、ひれ伏すときの恍惚を思い出すと、首の後ろに鳥肌が立った。
「んひ、へぅ……や、そんなん……っ!」
ぷちゅっ、と音を立てて肛門に鈴口が触れる。庄助は身体を震わせた。
「挿れるのこわい……イヤや……あっ」
それは本当の気持ちだった。太いものに侵入される痛みももちろんだが、それ以上に我が失われることは恐ろしかった。だが、それを伝えることで景虎の嗜虐心に火がつくことも庄助にはなんとなくわかった。
「ぐ……ぅ」
拒否は聞き入れられず案の定、景虎は何も言わず挿入してきた。拡がって押されて、声が出なくなる。景虎の目を盗み見る。いたく興奮したように開いた瞳孔がギラギラと光って、まるで夜を征くネコ科の獣みたいだ。
「あぅ、あっ……んん……うぁあ……!」
貫かれ浅い呼吸をしたまま、景虎の双肩、左右の虎を見上げる。相変わらず鮮やかで綺麗な模様だ。抱かれていると背中の般若が見えないのだということに、庄助は今更気づいた。
「庄助……」
仰向けの状態で太腿を掴んで、大きく開かせた足の間から、庄助の立ち気味の耳が赤く充血しているのが見える。恥ずかしいのか腕で隠している顔の下半分、荒く息をつく唇から覗く白い犬歯が色っぽかった。
タスマニアデビルの被毛は黒いが、耳の毛は薄く、また血流によって赤く見えるそうだ。喧嘩や交尾によって興奮すると、更に赤くなる。庄助のことを最初にタスマニアデビルと呼んだ人間は、そういった性質を知っていたのだろうか。あまりにもぴったりだった。
「ふ、はっあ……! んぎっ……」
くの字に曲げられた腹が苦しくて、庄助は口を大きく開けて息をした。時間をかけて拡げられた後ろの孔を、景虎の赤黒く脈打つペニスがゆっくりと出入りする。以前は後ろから犯されてばかりいたから見えなかった。恐ろしいほど太く凶悪なそれが自分を穿っているのを、どうしても意識してしまう。
「顔を上げてよく見てみろ」
「やぁっ……! あっ、んぐ」
「見ろ、庄助」
後ろ頭を掬うように持ち上げられた。庄助は、恐る恐る太腿の間からそこを見た。景虎はわざとゆっくり、ペニスを引き抜いてゆく。
「あ……」
てらてらと、腸液とローションにまみれて幹全体が粘っこく光る。根っこから液体が一筋垂れて、血管の凹凸に沿って流れてゆき、それがまた庄助の尻の穴に滴った。くびれたカリのあたりまで引き出して、全部抜けきらないうちにまたゆっくりと挿入してゆく。
「ひぃいっ……」
見えていると全然違う。ペニスに押し込まれそうになったローションが、孔の縁まで逃げて空気を含み、気泡となった部分がまた圧で弾ける。それがいやらしい音の正体だと知って、庄助は恥ずかしさに目を眇めた。
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