ぬきさしならへんっ!

夢野咲コ

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3.はじめてのほしょく②*

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「ン……、んうっ」
 噛みつくようなキスだった。顔をよじって継ぐ息まで奪う勢いのそれは、重なるごとに深くなってゆく。歯がぶつかるのも構わず、角度を変えて庄助の口内を味わう。
「やっ……、カゲっ、やめ……」
 顎を掴まれ、歯茎に指を這わされ歯列を割られる。強引に開けさせられた口の中に、景虎の舌が侵入してくる。他人の舌と唾液の味に、庄助は身体全体をぶるっと震わせた。
「んっ……ん……、は……むぅっ……」
 唾液を飲まされ飲まれしながら、徐々に押し倒されてゆく。背中がソファのスプリングの弾力を感じる。景虎の裸の胸を押し返す手のひらに、どちらのものともつかない汗が滲んでいた。頭の芯が痺れる。パーカーの中に手を入れられて、庄助は慌てて大きく首をねじった。

「ぷはっ、あ……、やめろって、んっ、なあ、聞けって……!」
「なんだ」
「カゲは、そっちの、そういう……っ、ゲイなんか?」
「……そうなのか?」
「いや、俺が聞いとんねん!」
 ぐいぐいと締め上げてくる腕を振りほどけない。こいつさっき殴られとったくせに、なんでこんな元気やねん、ふざけんな。庄助は手足をフルに使って暴れたが、関節にそって器用に体重をかけられているのか、思うように動けなかった。
「男に欲情したことがないから、よくわからん」
「今、しとるやないかい! んわ……っ」
 景虎は庄助のパーカーをたくし上げた。白い腹と胸が露出する。細身ではあるが、程よい筋肉にうっすらと脂肪ののった、色つやのいい健康的な肉体だった。両手で胸を掴まれ、胸筋を持ち上げるようにぷにぷにと全体を揉まれると、庄助は怒ったように、やめろと抗議の声を出した。景虎は気にせず、庄助の乳首を人差し指で捏ねた。

「……ぅ、さわんなっ」
 ほんの小さな乳頭から続く淡いコントラストの乳輪まで、子供のような色をしている。あまり触ったことがないのかもしれない。摘むとふわふわと柔らかい。女にするのと同じく、親指と人差し指で擦るように愛撫した。もどかしいような感覚に、庄助は身体をくねらせた。
「……ちょっ……考え直せ、お前のやろうとしてることは強姦やぞ、レイプやぞ犯罪やねんぞ!」
「ヤクザで、反社会的勢力の俺にそれを言うのか?」
「あっ!? せやった……そ、それでも! 人の道っちゅーもんが、セイテキドウイをやな……あ、き……ッ!」
 固くなり始めた乳首の根を、縊りだすように抓る。くっと飛び出て触れやすくなったほんの先数ミリ、うっすらとピンクの乳頭のてっぺんを、人差し指で優しく擦った。庄助のつま先が、景虎の身体の下でぴくぴくと動くのがわかった。

「さっきのお詫びをしてくれないのか」
「そっ……そんな言い方……」
「俺は庄助に触ってみたい」
「気のせいやて! ちょっとその辺のキレーなお姉ちゃんに抜いてもらって、考えなおせっ!」
「庄助がいい」
「絶対あかんて……。ノリで変なことして、これから先気まずいことになんの、カゲもイヤやろ?」
「もうキスしただろ、今さらじゃないか?」
「ぐ……胸だけやぞ、今回だけやぞ! 変態……っ」
「ふふ、同意を得たな」
 庄助はそっぽを向いた。恥ずかしいのだろうか耳が赤い。お許しが出たとばかりに、固くなった乳首に触れた。ぐにぐにと刺激したり、指で挟んで揺らしてみたりしているうちに、ぷっくりと乳輪ごと膨らんでくる。
「感じるか?」
「死んでくれマジで……」

 庄助が腕で顔を隠しているのをいいことに、無防備な乳首に吸い付いた。びくっと身体が跳ね上がる。舌を尖らせて円を描くように舐めると、景虎の頭上でふうふうと荒い息がもれる。
「舐めっ……んのはルール違反、やっ、あ……っ」
 指よりも反応がいい。すごく感じやすいタイプなのかもしれない、と景虎は思った。必死に声を押し殺している様が唆った。もっとガキ臭いのかと思っていたが、なかなかどうして、暴き始めると艶っぽい反応をする。軽く歯で挟んで舌で苛めると、庄助は本格的に甘い声を出し始めた。
「ひ、ぁ……ふ、んっ……それっ、あかん……」
「ここ、てっぺんのところ。気持ち良さそうだな。自分で触ったりしないのか?」
「するわけないやろ……違う、違うねん……こしょばい、あッ、あ......! ひ、あ……!」
 舌先を捩じ込むように乳頭を穿られ、腰が動いてしまう。もうやめてほしいのに、違うパターンの刺激を何度も繰り返されて、気持ちよくておかしくなりそうだ。交互に舐め回されて濡れた乳首を、ぎゅっと引っ張られた。
「んんうっ……! はっ、ぎ……カゲっ、そんなにしたら……痛いって……ひぁっ」
 限界まで引っ張られ、伸びた乳首の先、一番敏感な乳頭のピンク色の部分を、人差し指で捏ねられる。信じられないほど感じてしまうそこに軽く爪を立てられると、庄助の睫毛が濡れて視界が滲んだ。

「あっ……いやや。もう、あかんて……っ」
「胸なら触らせてくれるんだろ?」
「んぁ、そっ……やけど……」
「それとも、チンポも触っていいのか?」
「……っぐぅ」
 魅惑的な提案だった。実際にもう庄助は、下着の中で張り詰めて濡れているペニスを思い切り扱きたかった。けれど、そんなところを他人に、ましてや勃起しているところを男に見せるなんてできるわけがない。庄助は首を横に振った。息が上がる。
「ひむ……っん、あぅっ、やっ、や……」
 マウントポジションのように身体の上に跨がられ、乳首を弄られて感じる様を余すことなく見られる。景虎の冷たく熱を孕んだ目が、余裕のない表情や腫れた乳首をとらえる。恥ずかしかった。気まぐれに音を立てて吸い付かれると、大きな声が出た。だんだんと刺激が強くなる。歯を立てた後に指で弾かれて爪を立てられ、もういやだと泣いてもやめてくれなかった。

 東京に来てしばらく一緒に暮らしてきたが、景虎は基本的に庄助には優しかったし、無愛想ではあるが嫌なことはしなかった。なのにこうして押し倒されて、初めて景虎のことをガチのヤクザで、本気で怖いと思った。
「もうおわっ……んんふ……っ」
 またキスをされた。先程は緊張で開きにくかった唇が、今や力なく景虎の舌を受け入れる。上顎、歯の並び、頬の裏側すべてに舌を這わされて溶けそうになる。パンツの中が濡れて窮屈で気持ち悪い、頭の裏がだるい。庄助はくんくんと鼻を鳴らして、恋人にするかのように口づけに応えた。
「は、おっ……ん」
 舌を吸い出され食まれながら、両方の乳首をカリカリと爪で引っ掻かれる。腰が跳ねた。
 もしかしたらカゲって、こういうこと上手いんかな。彼女おらんって言うてたくせに。庄助は正直、女性経験自体も片手で数えられるほどだった。その数少ない中でも、こんなに感じたのは初めてだった。
 そもそもキス自体にあまり嫌悪感がわかないのがおかしい、男同士やのに。顔がいいからか? 男前やから許してまうんやろか。わからなかった。ただただ気持ちよくて、触ってもらえない下半身が切なくて、庄助の頭は射精のことでいっぱいだった。
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