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魔女狩りの日

屍人の王と魔女と……4

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「お前はもう十分頑張ったよ。そろそろ休め」
「まだやりたいことがたくさんあるよ……やりたいことがたくさん……」
「お前の夢は残酷すぎる。世界が許しちゃくれねぇよ」
「どうでもいいよ……フェスターくんが認めてくれればいい。君ならわかってくれるよね?」

フェスターは彼女から目を逸らし、青空を見た。
どうしても彼女の純粋な瞳を見ることができなかったのだ。

「ああ……俺はお前の味方だよ」
「そっかぁ……」

エレノアはニコリと笑って、魔法を解除した。
浮いた家屋は次々と爆音を立てて地面に落ちる。
警戒を解き、大人しくなったエレノアは自分の頭をスリスリとフェスターにこすりつけた。

「私たち、やっぱり相性いいんだよ」
「ああ、そうみたいだな」
「フェスターくん、大好きだよ」

エレノアは彼に告白した。
その瞬間、泥状の黒い液体と赤い血液が2人の体から放たれた。
ポタポタと地面に落ちる2人の血液は、混ざり合って溜まる。
エレノアの呼吸が弱々しくなる。
フェスターは体の力が抜けるエレノアを支えた。

「……倒した」

テンは握りしめていた2つの心臓を落とす。
1つは黒くすでに動いていない心臓、もう1つは赤赤と脈打つ綺麗な心臓だ。
テンは魔女を殺した。
死角となるフェスターの背中に腕を突き刺し、そのままエレノアの胸を貫いた。
そして腕を戻すと同時に、2人の心臓を抜き取ったのだ。

「あぁ……フェスターくん」
「終わりだ、エレノア」
「……嘘つき」
「え?」
「君に殺してほしかったのに……」

エレノアはフェスターの体にしがみつき、か細い声で囁いた。
フェスターは彼女を見下ろしながら、その頬をそっと撫でる。
好きな人に裏切られ、命を絶たれる寸前だというのに、エレノアの表情は穏やかだった。
恨みや怒りなど何もなく、キラキラと涙で光る瞳で、じっとフェスターを見つめている。
その表情を見て、フェスターも恨むことなどできなかった。

「ねぇフェスターくん……」
「……なんだ?」
「最後にさ、私のこと好きって言ってよ……嘘でもいいからその言葉が聞きたいな」

フェスターは何も言えなかった。
彼の心の中にいる女性は1人だけ……たった1人だけだ。
偽りの愛の言葉さえ吐けない彼は、苦しくなるほどにエレノアの体を抱きしめる。
それだけだ、彼はそれ以上のことをしなかった。

「やっぱり優しいなぁ……君は」
「エレノア、お前はこの世にいちゃいけないよ……じゃあな」
「また会えるといいね……フェスターくん」
「ああ……そうだな」
「キスしてよ……それくらいいいでしょ?」

エレノアはクスッと笑った。
まるでフェスターをからかうように……
フェスターは考え込んだが、ついに決断した。
そしてエレノアの唇に顔を近づける。
彼らの唇が交わることはなかった。
命を抜かれた魔女は、その体を塵にする。
2人の唇が触れ合う前に、エレノアは消失してしまった。
フェスターの手のひらから、エレノアの残滓が溢れ、そして風に運ばれていく。
彼女は大罪を犯した。
世界に対しても、フェスターに対しても。
彼女が死んだことで、この世は少し平和になる。
フェスターは呆然としていた。
整理のつかぬ気持ちのまま、虚な目で風の行き先を見届けたのだ。

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