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魔女狩りの日

屍人の王と魔女と……2

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「フェスターくん、私と死んでくれるんじゃなかったの?」
「そのつもりだった……本当にお前と死ぬ気だったよ。でもそれは間違いだと気づいた。俺はもう諦めない、誰かに屈したりしない……俺は戦い続けるぞ、エレノア」
「じゃあ……私に嘘をついたんだね?」
「なんであなたはそう自分勝手なの?少しでもフェスターのことを考えたことあるの?勝手に実験して、ここまで攫ってきて、傷つけて、それで嘘をついたとか言える立場じゃないよ!どこまで図々しいの!」

エレノアにテンは怒りをぶつける。
だが怒っているのはエレノアも同じだ。
飛び出した眼球でテンを睨みつけた。
氷のような表情はぷるぷると震え出し、そして憤懣に染まる。
これほどまでに敵意に満ちた醜いエレノアの顔をフェスターは見たことがなかった。

「美しく……終われたんだよ?私たちは……君が邪魔したんだよね?私たちの恋と愛を邪魔した……君さえいなかったら彼は私を愛してくれたのに……どうして……どうして邪魔したのかなぁ?」

エレノアは感情を込めて、静かに言葉を紡ぐ。

「やっと振り向いてくれたと思ったのに……ケチをつけたんだ、汚したんだよ私たちの心を!その意味がわかってるの?ねぇ?なんでそう……人の心がわからないのかなぁ?ねぇどうして?私本当にわからないの……私たちの邪魔をして、私たちを傷つけて楽しいの!?」
「あーもううるさい!あんたと話してると頭が痛くなってくるよ!行くよフェスター!やっつけよう!」
「……ダメだ」
「え?」

テンたちはエレノアの逆鱗に触れてしまった。
怒り狂った彼女は魔力強化薬の副作用も相まって完全に理性が飛んでしまった。
愛する人との美しい死を妨害された魔女は正気を失い、町中の家屋と学園の校舎までも魔法で持ち上げた。
一瞬にして荒野のような光景になった町を見て、みな唖然とする。

「ふ、フェスター?」
「ここにいる全員でかかっても勝てないだろうな……」
「ど、どうする?」

彼女の奥深くに眠っていた潜在能力は、魔女をさらなる怪物へと進化させた。
だがフェスターは臆さない。
冷たい目で、彼女を殺す算段を考える。
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