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魔女狩りの日

再戦3

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「そんな!」
「じゃあねー」

テンは空中でバタバタと手足を動かす。
もちろんテンが空を飛べるようになったりはしない。
テンは絶望したが、自分の背中が何かに支えられたのに気づきほっとする。
テンは浮いた瓦礫の上に寝転がっている。
フェスターが落下するテンを支えたのだ。
間髪おかず、フェスターは家屋の屋根を剥がしてエレノアに放った。
エレノアは迫ってくる屋根の破片から身を守るためにシールドを張る。
全ての攻撃を防いだエレノアは、殺気を感じて振り返る。
いつのまにか彼女の後ろに回っていたフェスターは、魔力を込めて爆発魔法をお見舞いした。
爆発はシールドを破壊し、エレノアを吹き飛ばす。

「痛いなぁ……」

どんどん落ちていくエレノアは、家屋の壁を剥いで足場を作ろうとした。
しかしテンに背中を思い切り蹴られて悶絶してしまう。

「逃さないよ!」

エレノアを追って落下してきたテンは、黒い手にお願いして彼女を掴んでもらった。
2人の距離はクロスレンジ、テンは空中で体を振ってエレノアを殴りつけた。

「悪い子だね……」

エレノアは爆破魔法を使おうとする。
それを察知した黒い手は彼女の手の位置をずらした。
エレノアは微笑み、魔法を繰り出す。
相手を殺すためではなく、視界を奪うための煙幕を生み出した。
素早く黒い手を雷魔法で消して、完全にテンの視界から消えた。

「どこ行ったの!?」
「ここだよ」

エレノアはテンの後ろに回っていた。
彼女は敵であるテンに抱きつき、そして懐から注射器を取り出す。
フェスターを気絶させるためにアンナに持たせたものと同じものだ。
聖魔法の力が宿った薬品、これを打てばアンデッドは力を無くす。
エレノアはテンの首筋に注射針を刺した。
薬品はテンの体に注入される。
魔法で操った家屋に落下した2人は、ゴロゴロと屋根の上で転がる。
エレノアは立ち上がったが、テンは地に伏せたままだ。

「私の勝ちだね、えっと……テンちゃんだったかな?」

エレノアは上機嫌で敗者であるテンに近づき、そばにかがみこむ。

「ごめんね、フェスターくんは私のものなの。でも私たち仲良くなれると思うんだ」
「あ……うっ」
「ありゃりゃ、まだ意識があるんだ。すごいねぇ」
「た、助け……」

テンは苦しそうにエレノアに手を伸ばした。
エレノアはその手を両手でギュッと握る。

「大丈夫、今は苦しいだろうけどすぐに楽になるから……全部私に任せれば大丈夫だよ」

エレノアは優しい言葉をテンにかけた。
テンは虚な目でコクリと頷く。

「休んでていいよ、目が覚めたときにゆっくり話そう?」
「無理だよ……」
「どうして?」
「あんたがここで死ぬからだ」

テンは素早く起き上がり、エレノアの右目に指を突き刺した。
眼球を潰されたエレノアは呻き、テンから体を離す。
彼女の目からとろとろと血液が漏れる。

「いった……なんで動けるの?」

テンは仁王立ちのまま、片目を手で押さえるエレノアを睨みつける。

「私だって怒るんだよ……もう」

痛みに悶えるエレノアにさらなる攻撃が襲いかかる。
上空から降ってきたフェスターが氷魔法を放ち、大きな氷塊を作った。
そして魔力を込めて弾き、散弾銃のように氷の欠片を放った。
その小さな氷塊が全てエレノアに直撃する。
彼は攻撃をやめずに、落下しながらエレノアの体を掴んだ。
掴んだ瞬間爆発魔法を使い、家屋を破壊しながら一緒に下へ落ちていく。
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