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魔女狩りの日

暴走1

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咆哮が聞こえる。
テンは芋虫のように這って、町を見下ろした。

「な、なに……?」

テンは驚愕し、そして恐怖を抱いた。
町中の家屋が浮遊して、激しく空中で動き回っているからだ。
暴れている家屋は町の中にいる人たちを縦横無尽に潰している。
破壊音と炸裂音が校舎の屋根にまで聞こえてきた。
テンは空を見上げる。
何かが落ちてきた。
町に降り立ったのは、血色の悪い青い肌をした大男……フェスターだった。
彼は大声で叫び、町にいる者全てに攻撃を加え始めた。
その威力は強大で、くらえば一撃で行動不能になる。
フェスターは理性を失ったように暴れ出す。
敵も仲間も区別せず、ただ命を奪っていった。

「フェスター!何してるの!?」

テンの声は彼に届かない。
それでも彼女は必死にフェスターに声をかけた。
彼は怒り狂っている。
もう彼女の知っているフェスターではない。
彼の声は怒気に塗れ、確かな悲しみを帯びていた。

「こんなのってないよ……みんな死んじゃうよフェスター……」

テンは嘆き、災害に襲われたような町の様子を見て顔を歪ませる。
1秒経つごとに何人もの命が奪われていった。
あのフェスターが怪物になっている……
理性も意識もなく、ただ湧き上がる残虐性に身を任せていた。

「やめてよ……どうしてこんなことに……」

テンは神に祈るように空を見上げた。
そして見つけてしまう……
空高くに浮いている瓦礫の上に尻を乗せ、足を投げ出しプラプラと動かしている魔女の姿を……
彼女は嬉しそうに手を叩きながら笑っている。

「あいつだ……あいつがフェスターをあんな風に……」

テンの怒りの理由は手足をもぎ取られたことではない。
今まで自分を守ってくれた彼を、笑顔にさせてくれた彼を、新しい仲間と幸せに出会わせてくれた彼を……あの魔女が怪物に変えたことだ。

「……フェスター……目を覚まして!!」

テンは叫んだ。
だがその声が届くことはない……

「フェスターを助けて……誰でもいいから……フェスターを助けて!!」

テンは心の底からそう願った。
しかし……誰も助けてはくれない。
テンの声は虚しくも空に吸い込まれた。
彼女の目から涙がこぼれ、胸が締めつけられる。
無力さと絶望に打ちのめされたテンは、もう1度空を見た。
フェスターの人生を奪った女を……テンは憎悪の瞳で睨みつける。
悲しみは憤怒に変わり、慈しみは殺意に変わった。
テンは心の底から、エレノアを殺したいと思ってしまった。
涙が枯れる、テンの喉が怒りで焼ききれそうになる。
彼女は祈った、神でも悪魔でもいい……魔女を殺す力をくれと、テンは心の中で叫んだ。
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