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魔女狩りの日

頼み1

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「今日は顔色がいいね」
「うるせぇ」

エレノアは縛られているフェスターに話しかけたが、彼の態度はいつまで経っても素っ気ないものだ。

「君の体のことも分かってきたし、明日大きな実験をしたいんだけど、いいかな?」
「断ると言ったら?」
「おねだりする」
「それも断ったら?」
「実験する」
「じゃあ何言っても同じじゃねぇか」
「そうだね」

エレノアは少女のように笑う。
フェスターの表情は険しいままだ。

「もっと力をあげるから、楽しみでしょ?」
「もういらねぇよ」
「ダメだよ、100年経っても君は私の力を全然使えてない……そんなんじゃ私に近づけないんだ」

エレノアは懐から注射器を取り出した。
中の液体はピンク色に染まっている。

「また注射か」
「お注射苦手だった?早く言ってくれればよかったのに」
「……それなんだよ?」
「打った人の魔力を強化する薬だよ、まだ副作用があるから研究中だけど。これを打った学園の子が壊れちゃってさ、まだまだ実用には程遠いんだ」
「それ作ったら世界中に売る気か?」
「まさか!売ってどうするの?これは私と君のためのものだよ。世界で1番強い男女になろう!」
「何のためにだよ」
「尊厳を踏みにじられないため……かな?」

からかうようにエレノアは言った。
フェスターの目つきが鋭くなる。

「ふふ、いきなりこれを打ち込んだりしないよ。これは原液、君に打ったりしたら流石に死んじゃうかもしれないから」
「願ったりだね」
「そう言わないでよ。君は私の最高傑作になれる素質があるの。死んじゃったらもったいない」
「お前の都合だろうが」
「そうだよ?ワガママを聞き合うのがカップルでしょ?」

フェスターは鼻で笑って、もう何も言わなかった。
目の前の女に話が通じないことは昔から分かっていたことだが、ここまでいくと怒りより呆れが湧いてくる。

「明日、ちゃんとした実験場でこの強化薬を打つからね。もちろん薄めるよ」
「勝手にしろ」
「やっぱりね、君も本当は打ってほしいんでしょ?素直になればいいのに」

満足そうなエレノアは部屋から出ていった。
10数分後、入れ替わるようにアンナが入ってくる。
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