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吸血鬼姉妹

姉妹2

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「そう。当たり前だよね」
「わかった」

オスカーははっきりとそう言った。
「わかった」……その言葉の意味がクロエには理解できなかった。

「わ、わかったってどういうこと?」
「お姉様と行くよ。お姉様についていく……」
「い、家はどうするの?町のことや商売のことだって……」
「また子供を産めばいい。お父様たちが子供を作れば私たちにこだわる必要はないはずだ」
「でもオスカーには霧化が……」
「そんなもの、権威と見栄にしか使えない。私がいなくても大丈夫だ」
「オスカーは……当主なんだよ?」

「当主」という単語に、オスカーは少しだけ狼狽えたような態度を見せた。
だがそれはすぐに無くなり、彼女は顔を上げてクロエを真っ直ぐに見つめる。

「私にとって……町なんてどうでもいいんだ。アシュフォード家にも……関心はない。偶然当主になったんだから……だから……」

オスカーはどこか照れ臭そうに言った。
彼女の言葉には含みがある。
しかしクロエはそれに気づかない。
クロエは体をプルプルと震わせて、オスカーに掴みかかりベッドに押し倒した。
彼女の怒りは頂点に達している。

「ふざけないで!町なんてどうでもいい!?私は当主になるために!家を守るために頑張ってきた!苦手な勉強も貴族としての振る舞いも死ぬ気で覚えてきたの!なのにあなたはいつもぼんやりしてたくせに、私よりも優秀になった!才能が全てなの!?私の努力は誰も見てくれないの!?私が家を大事に思う気持ちはどうでもいいの!?ふざけないで……みんな私をゴミみたいに扱って……あなたたちのために頑張ってきたのに……」

クロエは子供のように泣き喚き、涙をオスカーの頬に垂らした。
ポタポタと落ちてくる涙の体温を感じたオスカーも、伝染したように静かに泣く。

「許せない……私を捨てるなんて許せない……お父様もお母様も……私を馬鹿にした人間全員許せない……」
「お姉様……私はお姉様のこと愛してるよ」
「うるさい!!」

クロエはオスカーの首を絞めた。
彼女は大人しく絞首を受け入れる。
霧化して逃げることもできるのに、オスカーは目を瞑って痛みから逃げなかった。
その高潔で覚悟があるオスカーを目の当たりにして、クロエは敗北を悟った。
オスカーは微塵も恐怖を感じていないからだ。
当主である才も、姉妹としての愛も、破滅への覚悟も……
体も心も、全てがクロエよりオスカーのほうが勝っている。
クロエは泣くのをやめた。
ふらふらと妹から離れ、部屋の扉に触れる。

「お姉様……行かないで」
「全部めちゃくちゃにしてあげる。みんな……みんな……あなたもだよ、オスカー」
「私のこと……愛してないの?」
「昔はよかったよね、楽しかった……2人でずっと遊んでた」
「……え?」
「また戻れたらいいね、私たち」

それだけ言って、クロエは部屋を出た。
オスカーは追うことも説得することもなく、暗い部屋で涙が渇くまで呆然としていた。

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