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吸血鬼姉妹

真夜中の城3

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「ミユはどこだ……」

コトネはナイフを敵に向けながら言った。
獣の亜人たちが、彼女を取り囲んでいる。

「正直に言えば命までは獲らないぞ」
「お言葉ですが、あなたは立場を分かっていらっしゃらないようですね」
「分かってないのはお前らだ。何人いようが僕には勝てない」

使用人は優しく微笑み、仲間たちの顔を見て合図を出した。
彼らは自らの力を解放し、その体を膨れ上がらせる。
急激に肥大化した筋肉が服を破り、爪はさらに鋭くなる。
完全なる戦闘モードへ移行した使用人たちは、赤く鋭い目でコトネを睨みつけた。

「そんなこけおどしが僕に通じると思うな」

コトネは走った。
まずは正面にいる敵を斬りつけ、素早いステップで横に移動して、もう1人は亜人の喉を裂く。
彼らは一斉に襲いきってきた。
なるべく囲まれないように壁を走り、距離をあける。
1人ずつ相手をして斬りつけていったが、いかんせん敵の肌が硬い。
致命傷を与えたと思っても、平然としている。
不意にコトネの頬に衝撃が走った。
亜人に殴られて、彼女は吹き飛ばされる。

「くそっ……」

倒れたコトネを狙い、容赦無く亜人たちは襲いかかる。
コトネはさっさと立ち上がって、壁にかけられている観賞用のサーベルを発見した。
彼女は手に持ったナイフを迫り来る亜人の脳天に投げつけ殺害する。
そしてすぐにサーベルを手に取り、鞘を捨てた。
手に馴染む得物を入手したコトネは、美しい剣筋で亜人たちを斬っていった。
コトネの手にかかった亜人たちは腕や脚、頭を切断されていく。
それでも彼らは微塵も怯むことがなかった。
連携をとりながら執拗にコトネに攻撃を加える。
あまりの激しい攻撃にコトネも一時撤退を決断した。
とにかく距離を離そうと走り回る。
走っている最中に階段を見つけたので、コトネはのぼった。
その階段は螺旋状で幅も狭い。
1対多数の状況において、戦いやすい場所だ。
コトネは愚直に自分を追ってくる亜人を丁寧に1人ずつ対処していく。
狭い階段で敵の動きは鈍くなっている。
鈍いとは言っても、多数の敵相手なのでコトネは後退を余儀なくされた。
気がつくと、背中に壁の感触が伝わった。
行き止まりだ、亜人たちはグルグルと唸っている。
どうしたものかとコトネは悩んだ。
だがあることに気づく。
自分が背にしているのは壁ではなく、扉だと。
扉は簡単に開いた。
コトネは扉の中に飛び込み、そして鍵をかける。
鋼鉄製の扉は丈夫で、亜人たちもこじ開けるのに時間がかかりそうだ。
ひとまず安全を確保したコトネは、自分が今いる場所を確認する。
冷たい風が肌を触り、明るい満月が空の下を照らしている。
彼女が今いる場所は鐘楼だった、城のてっぺんだ。

「屋根をつたって降りるか……」

そうコトネは考えたが、ふとすぐそばにある大鐘に目を取られた。
鐘は古びてはいるが、きちんと整備や掃除がされている。
錆など1つもなく輝いている。

「これは使えるかもしれない……」

コトネは鐘を動かすロープを、力いっぱい引いて鐘を鳴らした。
10年ぶりに町に響く音色は、静寂を壊して住人の耳に届く。
コトネは一心不乱に、鐘を鳴らし続けた。

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