屍人の王とキョンシー娘の葬送行進曲

吸血鬼姉妹

いざ城へ2

「この町は素敵な場所よ。みんな生き生きしていて活気があるの。よかったら案内しましょうか？」
「申し訳ないですよ、ただでさえお時間を割いていただいているのに」
「今日は暇だから。時間がなかったらあなたと会ったりしないわ」
「俺に触るなよ！触るなぁ！！」

外から男の大声が聞こえてきたので、クロエは窓の外を見た。
正面玄関の前に、酒瓶を持った大男がいてなにやら喚いているようだ。

「今日はお客様が多いわね」

ミユも彼女の横に立ち、下を見下ろす。
アンデッドだとバレないように、塗り薬で人間そっくりの肌を再現しているが、紛れもなくあれはフェスターだった。
ふらふらと体を揺らして、使用人の体を押したり、こづいたりしている。

「町の人間じゃないわね、それにしても品のない男」
「あ、あはは……そうですね」
「エルトン、手が空いてる者を連れて彼を城から追い出して」
「承知しました」

エルトンと呼ばれた亜人は部屋から出ていき、すぐに仲間を連れて玄関前に向かった。
フェスターは魔法を使わずに、ありふれた酔っ払いを演じている。

「触るなぁ！糞がついた手で俺に触るなぁ！」

すでに10人以上の使用人たちがフェスターのまわりにいるが、彼がでたらめに暴れるので手を出しあぐねている。
フェスターは意味もなく「うおぉぉ！！」などと叫んでいた。

「キース」
「はい」
「仕事中の人間も連れて取り押さえなさい。あれ以上騒ぐなら暴力を振るっても構わないわ。取り押さえたら町の留置所に入れておいて」
「わかりました」

キースと呼ばれた亜人も部屋を出ていく。
玄関前に集まった亜人は、すでに30人を越えていた。
フェスターは腕を振り回して抵抗している。

「やる気がおら！かかってこい！30人程度で俺に勝てると思うな！」

使用人たちはフェスターに掴みかかり、地面に伏せようとしたが、彼はなかなか諦めずにしつこく使用人たちを投げ飛ばしている。
ミユは気まずい表情をして、横目でクロエを見た。

「ふふ、ごめんなさいね。気分を悪くした？」
「いえ、でもあれはちょっと酷いですね」
「本当よ、品性だけは無くしたくないわ」
「あはは……」

ミユは愛想笑いをして、まだ抵抗し続けるフェスター見下ろした。