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吸血鬼姉妹

依頼1

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「うーん……」

館のダイニングルームで、フェスターは煙草をふかし、酒を飲んでいた。
テーブルの上に置いたデロリスの錫杖を睨みつけながら。

「どうしたの?」

渋い顔をしているフェスターを見かねて、テンは話しかけた。

「こいつをどうするか考えているんだ」
「ああ、持って帰ってきた杖?結局あのシスターって魔女じゃなかったんだよね?」
「ああ。あいつは魔女じゃなくて魔術師だった」
「何が違うの?」
「魔女とかまぁ男なら魔法使いだな。こいつらは元から魔法を使える。別になんの工夫もしないでな。だが魔術師ってのは魔法を放つ媒体となる『魔具』ってのが必要だ。ありきたりなのはこの錫杖みたいな杖とか指輪とかだ」
「よくわかんないんだけど、魔法が使える人じゃないと魔法は使えないんじゃないの?魔具とか関係なしに」
「それがそうでもねぇ。魔法が使えるとまではいかないが、人間や亜人には魔力を宿しているやつがいる。まぁ才能だ、ないやつは全くない」
「ほおほお。あっ、じゃあ魔力が少ない人が魔具を使って、魔力を強くして魔法を使うみたいな?」
「分かりやすく言えばそうだ。なかなか賢いじゃないか」
「へへん!学はないけど地頭がいいテンちゃんです!」

フェスターはからかって言ったのだが、テンは本気にした。

「それで何悩んでるの?」
「こいつを売っぱらおうと思ってな。研究に使おうと思ったが、俺じゃこいつは使えない」
「フェスター魔力あるんじゃないの?」
「俺はアンデッドで、この錫杖の魔法は聖魔法だぞ?危なっかしくて使えない。それにこういう得物はな、持ち主との相性があるんだ。だいたい魔具ってのは全部いわくつきだ。魔女が作ったやつとか人の想いとか念とかがこもった物……人の念がこもってるから誰でも使えるってわけじゃない。俺とは色んな意味で相性が悪いんだ」
「ふーん、マギーに売るの?」
「ああ。やつはこういう胡散臭い物も扱ってる。いい値段つけてくれるだろう」
「もったいないよ。魔具ってあんまりないんでしょ?私たちが使おうよ」
「話聞いてたのか?使うには才能と相性が必要だ」
「私にあるかもしれないじゃん。ちょっと貸して」

テンは錫杖を手に取り、ポーズを決めた。
それをフェスターは死んだ目で見る。

「屍人の王よ!このテンテンが退治してくれよう!」
「やってみろ馬鹿」

テンは「はぁぁ!」と気合を入れて、「とりゃ!」と掛け声を出した。
錫杖はなんの反応も見せない。
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