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善人だけの世界

イカれ宗教をぶちのめそう1

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「ようこそおいでくださいました」

小舟でフェスターとテンは目的の島にやってきていた。
すぐに集まってニコニコと笑みを浮かべたまま自分たちを取り囲む村人を見て、テンは気味悪さを覚える。
フェスターは右手に大剣を持ち、左手で煙草をふかしながら、彼らを見回して言った。

「歓迎されるとは思わなかった。嬉しいなテン」
「う、うん」
「さあお疲れでしょう?大したおもてなしはできませんが、ゆっくりお茶でも飲みませんか?」
「世間話しにきたわけじゃない。人を探してる」

フェスターは1枚の写真を取り出し、村人に見せた。
白黒の写真にはそばかすが目立つ素朴な女が映っている。

「名前はオイト、24歳人間だ。あんたらの仲間になってるんだろ?」
「ええ、オイトさんは私たちの同志です」
「そうか、なら話は早い。会わせろ」
「申し訳ありません。オイトさんは現在島を出て布教活動中なのです」
「へぇ、そうなのか」
「どうするフェスター?いないんだって」

わざわざここまでやってきて目的の女がいないことにテンは落胆した。
フェスターは鼻を鳴らす。

「嘘に決まってんだろ。探すぞ」
「お供しますよ」

村人たちは笑顔のまま声を揃えて言った。

「ほぉ、俺たちがこの村を練り歩いても構わねぇってわけか」
「はい。あなたは私たちがオイトさんを隠しているとお考えのようですが、それは違います。私たちに詮索されて困るようなことはありません。お気の済むまでこの島にいてもらって結構です」
「そうか、じゃあ遠慮なく」
「お名前を伺ってもよろしいですか?」
「フェスターだ、お前らの名前は言わなくていいぞ」
「私はテンテン。テンって呼んでね」

自己紹介を終えたフェスターは村人たちを押し退けて歩き出した。
自然豊かで長閑な島だ。
フェスターは村の家屋を勝手に開けて、オイトを探す。
自分達のテリトリーを無遠慮に侵されているというのに、村人たちは怒るどころか彼らを優しく迎えた。
気を利かせて食べ物や飲み物を提供する。
コップに入ったお茶を飲みながら、テンは美しい田舎の風景を堪能していた。

「ここ綺麗だね。私が住んでたランファンの街とは大違い。明るい太陽に涼しい風、それに海の音、緑色の山々!」
「ごちゃごちゃうるせぇな、詩人になる気かお前。黙って女を探せ」
「本当にこの島にはいないんじゃないの?フェスターは人を信じなさすぎ」
「カルト宗教の言葉なんざ信じられるか」
「フェスターさん。私たちは過激な行動を起こす野蛮な宗教ではありません。ウルクス神が創ったメビーラ教に従い、世界がよくなるように活動しているのです」
「あっそ」
「どうでしょう?我々の教会に行きませんか?。シスターデロリスがウルクス神の教えについて詳しく教えてくれますよ?」
「デロリス……」

フェスターが呟くと、テンが目配せした。
彼は小さく首を振る。
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