上 下
55 / 196
善人だけの世界

少女たちの過去3

しおりを挟む
「コトネ、気を抜かないで。何かおかしい」
「僕が気を抜いたことがあるか?必ず守るよ」

妖たちは飛び上がり、一斉にミユたちに襲いかかってきた。
コトネは1体ずつ丁寧に、ミユに近づく妖を切り伏せていった。
磨き上げられた剣術は、的確に妖の首を刎ねていく。
ミユもお札に力を込め、それを妖に投げつける。
数は多いが、幸い妖の力は弱い。
彼女たちは手際よく倒していく。
順調に倒していると、ピタッと妖たちの動きが止まった。
ミユとコトネは互いに背中を預け、妖たちの動向に気を配る。

「退く気か?」
「……違うと思う。何かを待ってるんだ」
「……何を?」
 
妖たちは一斉に鳴き始めた。
それと同時に島全体が揺れ出した。
いきなりの地震に、ミユとコトネは狼狽える。

「お、おい……ミユ」
「……まずい」

ミユは感じ取ってしまった。
島から溢れてくる妖の気配を。
今までは隠れていたのだ……時が経つのを待っていた。
この島に潜む何かが目覚める。
妖たちはそれを知って、海を渡ってやってきたのだ。
島に潜んでいた妖の目覚めを祝うために……

「コトネ!結界を!」
「あ、ああ!」

コトネは刀の先で地面に結界を描いた。
ヤマト特有の紋章で、これは一時的に巫女の力を増大させる効果がある。
ミユはその結界の中で正座し、両手を絡ませて目を瞑り祈った。

「美華姫ノ神様、私にお力をお貸しください。荒狂う妖を鎮めるお力を……どうか私の祈りをお聞きください。私に戦う力を、魔を祓う術をお授けください」

ミユは必死に祝詞を読んだ。
揺れはどんどん大きくなっていく。
それでも彼女は逃げることもせず、神への呼びかけを続けた。
妖たちは歓喜の叫びをあげる。
メキメキと音がして、地面にヒビが入っていく。
そして大規模な地割れが起き、その割れ目から深い青色の巨大な手が現れた。
割れ目の縁に手を置いて、その妖は顔を出す。
ズルズルと果てしなく続く胴を動かして、地面に肌をつけた。
ミユたちの前に現れたのは、胴体の長さ数百メートルはあろう大蛇の妖だった。
胴体からは獣のような手足が無数に生えている。
コトネは絶句した。
想像を遥かに超える怪物の登場に、身動き1つ取れなくなる。
だがミユは必死に祝詞を唱え続けていた。
大蛇は品定めするようにミユに顔を近づけて、金色の瞳で見つめる。
何度も舌を出し入れして、じっとその顔に視線をぶつけているのだ。
コトネは声も出せないほど恐怖し、直立している。
大蛇はミユから目を離し、その場で大きく飛び上がった。
空を舞い、そして噴水のような水飛沫を上げて海に飛び込む。

「ダメ!」

ミユは叫んだ。
島の妖たちはこぞって大蛇の後を追い海に飛び込む。
取り残されたミユたちは唖然として、その場にいることしかできなかった。

「なんだあれ……あんなのがいるなんて聞いてないぞ……」
「眠ってたんだよ……今日までずっと……気配も出さずに眠ってた」
「ど、どうしよう」
「……町に向かってる。急いで追わないと」
「馬鹿言うなよ!あんな化け物どうにかできるわけない!」
「でもこのままじゃ大きな被害が出るよ!お願い……」

ミユの身を案じているコトネからすれば、町になど戻りたくなかった。
だがミユの真剣さに心を打たれ、2人は山をおりて乗ってきた小舟に乗り込む。
急いで向こう岸の海岸に戻り、馬に乗って町に向かって進んだ。
その間ずっとミユは祈っていた。
町の人たちの無事を……
大蛇が通って荒れ果てた道を進み、ようやく彼女たちは町にたどり着いた。
そしてミユは涙を流す。
あれだけ活気があり、笑い声に包まれていた町から火の手があがっていたからだ。
その有り様はまるで阿鼻叫喚の地獄だった。
町人たちは逃げ惑い、妖に襲われて命を落とす。
大蛇はその体で這うだけで町のほとんどを破壊していく。
数多の死体と無惨なほど崩れた町の光景を見たミユは、馬からおりて大蛇を追おうとした。

「やめろ!もう無理だって!」
「酷すぎるよこんなの!まだ生きてる人もいる!助けないと!」
「僕たちにできることは何もない!逃げるんだ!」

人が絶命する前の叫びが、そこら中からミユの耳に入る。
彼女は自分の使命を果たしたかった。
コトネの腕の中でもがきながら、ミユは救えなかった人々に向かって叫び続けた。




しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

6年3組わたしのゆうしゃさま

はれはる
キャラ文芸
小学六年の夏 夏休みが終わり登校すると クオラスメイトの少女が1人 この世から消えていた ある事故をきっかけに彼女が亡くなる 一年前に時を遡った主人公 なぜ彼女は死んだのか そして彼女を救うことは出来るのか? これは小さな勇者と彼女の物語

ニンジャマスター・ダイヤ

竹井ゴールド
キャラ文芸
 沖縄県の手塚島で育った母子家庭の手塚大也は実母の死によって、東京の遠縁の大鳥家に引き取られる事となった。  大鳥家は大鳥コンツェルンの創業一族で、裏では日本を陰から守る政府機関・大鳥忍軍を率いる忍者一族だった。  沖縄県の手塚島で忍者の修行をして育った大也は東京に出て、忍者の争いに否応なく巻き込まれるのだった。

百合系サキュバスにモテてしまっていると言う話

釧路太郎
キャラ文芸
名門零楼館高校はもともと女子高であったのだが、様々な要因で共学になって数年が経つ。 文武両道を掲げる零楼館高校はスポーツ分野だけではなく進学実績も全国レベルで見ても上位に食い込んでいるのであった。 そんな零楼館高校の歴史において今まで誰一人として選ばれたことのない“特別指名推薦”に選ばれたのが工藤珠希なのである。 工藤珠希は身長こそ平均を超えていたが、運動や学力はいたって平均クラスであり性格の良さはあるものの特筆すべき才能も無いように見られていた。 むしろ、彼女の幼馴染である工藤太郎は様々な部活の助っ人として活躍し、中学生でありながら様々な競技のプロ団体からスカウトが来るほどであった。更に、学力面においても優秀であり国内のみならず海外への進学も不可能ではないと言われるほどであった。 “特別指名推薦”の話が学校に来た時は誰もが相手を間違えているのではないかと疑ったほどであったが、零楼館高校関係者は工藤珠希で間違いないという。 工藤珠希と工藤太郎は血縁関係はなく、複雑な家庭環境であった工藤太郎が幼いころに両親を亡くしたこともあって彼は工藤家の養子として迎えられていた。 兄妹同然に育った二人ではあったが、お互いが相手の事を守ろうとする良き関係であり、恋人ではないがそれ以上に信頼しあっている。二人の関係性は苗字が同じという事もあって夫婦と揶揄されることも多々あったのだ。 工藤太郎は県外にあるスポーツ名門校からの推薦も来ていてほぼ内定していたのだが、工藤珠希が零楼館高校に入学することを決めたことを受けて彼も零楼館高校を受験することとなった。 スポーツ分野でも名をはせている零楼館高校に工藤太郎が入学すること自体は何の違和感もないのだが、本来入学する予定であった高校関係者は落胆の声をあげていたのだ。だが、彼の出自も相まって彼の意志を否定する者は誰もいなかったのである。 二人が入学する零楼館高校には外に出ていない秘密があるのだ。 零楼館高校に通う生徒のみならず、教員職員運営者の多くがサキュバスでありそのサキュバスも一般的に知られているサキュバスと違い女性を対象とした変異種なのである。 かつては“秘密の花園”と呼ばれた零楼館女子高等学校もそういった意味を持っていたのだった。 ちなみに、工藤珠希は工藤太郎の事を好きなのだが、それは誰にも言えない秘密なのである。 この作品は「小説家になろう」「カクヨム」「ノベルアッププラス」「ノベルバ」「ノベルピア」にも掲載しております。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

【動画化予定】潜入捜査員の平塚ですが。

ボックスガチャ最高
キャラ文芸
アヤカシの式神を持つ九十九課アラサー刑事が上司の命令でアイドルユニットに潜入調査!?

貞操逆転世界に無職20歳男で転生したので自由に生きます!

やまいし
ファンタジー
自分が書きたいことを詰めこみました。掲示板あり 目覚めると20歳無職だった主人公。 転生したのは男女の貞操観念が逆転&男女比が1:100の可笑しな世界だった。 ”好きなことをしよう”と思ったは良いものの無一文。 これではまともな生活ができない。 ――そうだ!えちえち自撮りでお金を稼ごう! こうして彼の転生生活が幕を開けた。

誰も知らない幽霊カフェで、癒しのティータイムを。【完結保証】

双葉
キャラ文芸
【本作のキーワード】 ・幽霊カフェでお仕事 ・イケメン店主に翻弄される恋 ・岐阜県~愛知県が舞台 ・数々の人間ドラマ ・古より続く除霊家系の呪縛 +++  人生に疲れ果てた璃乃が辿り着いたのは、幽霊の浄化を目的としたカフェだった。  カフェを運営するのは(見た目だけなら王子様の)蒼唯&(不器用だけど優しい)朔也。そんな特殊カフェで、璃乃のアルバイト生活が始まる――。  舞台は岐阜県の田舎町。  様々な出会いと別れを描くヒューマンドラマ。 ※実在の地名・施設などが登場しますが、本作の内容はフィクションです。 ※原稿完成済み。2025年1月末までに完結します(12万文字程度)

処理中です...